第93話 ディケーの下で励みなさいな
「風の噂で孤児を拾って養子兼弟子にしたと聞いていたけれど……ふぅん?
貴女もやっと後進の育成に力を入れ始めたのねえ、ディケー」
「え、ええ。まあ」
かくして。
ここはブランディル自治領、その女公爵である死妖姫にして私の旧友、シェリルの住まう古城ーーーその謁見の間。
お呼ばれの手紙に書いてあったように、親子で冬休みの休暇を過ごすため、ご厄介になりに来ましてね……。
まあでも、それにしても、
「(亜人の特区だけあって、お城の中にも色んな種族が居たわね……)」
ふもとの村同様、お城の中で働いている人達も狼男の執事さんや不死者の衛兵、女蛇族のメイドさんが居たりと、亜人種ばかり。
変わり種だと生鎧の人(?)も居て、
『あら、なかなかカッコいい鎧ね。
……でも、どうしてこんな所に?』
と眺めていたら、
『アノ、ココノ従業員デス……』
『!?』
って返事を返されて、ちょっとビビったって言うね……魔力感知もせずに置物の鎧だと思い込んだ私が百パー悪いんだけども……。
「(もうそれで、私も隠す必要もないから……)」
城に入った辺りで耳にかけてた幻術を解いて、ディケー本来のとがり耳に戻っちゃったのよね。
私もカテゴライズ的には魔女だし、世間から見れば亜人扱いでしょうし。
……で、私達がお城に着くや親しげに出迎えてくれたのが豪奢な紅いドレスで着飾ったシェリル女公爵だったんだけど……。
「なるほど……。
一年足らずでよく鍛えてある。
まだ人間なんでしょうけど……この子達、
もう1/3くらいは魔女になりかかってるわねえ?
大した才能だわ」
うわ、そんな事まで分かっちゃうのね……。
玉座に座ったまま足組みしつつ、高座から優雅に私達を見下ろすシェリル。
その的確な慧眼に、私は内心驚いてしまう。
ライアもユティも南の樹海でアグバログとの死闘を経て以来、魔女としての才能が更に開花したみたいなのよね……。
ライアは治療系の魔術を含む光属性魔術が使えるようになったし、ある程度は動物の言葉が分かるようになって来た。
ユティの方は風属性の魔術が使えるようになったのに加えて、元々得意だった魔力感知や未来予知に磨きがかかって、何と言うか……すごく勘が鋭くなったのね。
「(高位の吸血鬼は何でも見通す魔眼を持ってるって話だし……それで分かっちゃうのかしら?)」
まさか私の考えてる事も筒抜けだったりしないでしょうね……!?
「ディケーの事だから
"魔女の塔"に弟子育成の許可なんて貰わず勝手にやりそうなモノだけれど……そう。
大魔女にちゃんと許可を貰った上で育てている、と……。
他の魔女達も2人を"魔女見習い"として祝福したのね、良い事だわ」
「(本来の歴史の流れだと、許可貰わずに弟子にしちゃったせいで大事になっちゃったからね……)」
シェリルは見た目こそ私と同じギリ十代でも通用しそうだけど……でも物言いからして老獪さも感じさせるし、見た目に騙されちゃいけない。
何百年とブランディルに君臨する女公爵にして、深淵戦争時には異界のゲートを通してこちらの世界にやって来た魔物の軍勢を、戦わずして追い払った程の実力者。
シェリルの力を恐れて公国も下手に彼女とブランディルには手出しが出来ないみたいだし……なるべく私も刺激しないよう、シェリルへの言葉は慎重に選んでいかないと。
……私がそんな風に、眼前の女公爵に対して密かに緊張をしていると。
「母の教えの賜物です、女公爵」
「母ディケーの後継者として、恥じる事のない魔女になるのが我らの目標です故」
「うふふ、そう……。
私も数多くの魔女達に出会って来たけれど、ディケーはその中でも別格だものね。
貴女達、とても運がいいわよ。
……ライアとユティだったわね?
私も応援するわ、ディケーの下で励みなさいな」
「「有り難うございます」」
内心ちょっとキョドり気味な母親に対し、子供達の毅然な態度と言ったら!
まだ5歳よ!? 母様は誇らしいやら自分が情けないやらで、チョー複雑ですよ……。
「外は寒かったでしょうし、城に来るまでに雪で足を取られもしたでしょう。
まずは部屋で休んで頂戴な。
貴女方以外に来客は居ないし、冬季休暇を此処でゆっくり過ごすと良いわ。
あと今夜の食事は部屋に運ばせます、地元の食材をふんだんに使った物だから期待しておいて」
「ありがとう、シェリル。
お言葉に甘えさせて頂くわ」
「いいのよ。友達だものね」
城主としての威厳を遺憾無く発揮するシェリルに、私は一礼して感謝の意を伝えた。
「さ、魔女のお嬢様方。
お部屋に御案内いたします」
「「はい」」
子供達はメイドさんに連れられ、謁見の間を後にする。
私もその後を追おうと部屋を出ようとするとーーー。
「うふふ……。
ディケー、子育てを始めて少し丸くなった?
最後に会った時に比べると、幾分か言葉や表情が柔らかいわね」
「そ、そう……?」
愉しげに嗤うシェリルに呼び止められ、思わずギクリとなってしまう私。
ドレスと同じくルビーのように紅いシェリルの瞳が全てを見透かしているような気がして正直かなり居心地が悪く、私は逃げるようにしてライア達の背中を追うのだった。
「(うう、ホントに中身が"私"ってバレてないよね……?)」




