第88話 魔女とデサロ総督の面会
「先生の指摘通り、デサロの貴族の誰かが帝国の残党と繋がってるかもしれねえ事は俺も承知している。
……だが連中もなかなか狡猾でな。
既に内偵は行ってはいるんだが……未だ尻尾が掴めてないのが現状なんだわ」
「そうなのですか」
エマちゃんの家庭教師の業務が終わった後で。
私はエマちゃんのお父様、即ち城塞都市デサロの総督である公爵様に少しだけ時間を作って頂き、面会を行っていた。
話し合いのメインは勿論、今デサロの町中で噂になっている、帝国軍残党とデサロの貴族の誰かが繋がっているのではないかという、黒い疑惑についてだった。
「当然のことながら、俺が取り仕切るデサロで帝国の残党をのさばらせてるとあっちゃ、メンツに関わる。
町の住民には勿論、組の舎弟どもにも示しがつかねえ」
「(組って言っちゃったよ……)」
やっぱり任侠組織でしたか……。
いや皆さん礼儀正しいし、跡取りのエマちゃんも真っ当に育ってるし、公爵様も口調はちょっとワルっぽいけど仁義を重んじる昔気質の人っぽいし、何よりミア姉様のパトロンだし、私も信頼はしてるけどね……。
「(蛇の道は蛇って言うし……)」
冒険者としてやってく以上は多少はグレーな人達ともお付き合いして人脈を築くのも大事なのかも……何より、こんな大きな城塞都市の総督だもんね。
お近づきになっておいて損はしないでしょう。
「駐屯している公国軍と協力して目を光らせてはいるんだがな……。
しかし、帝国の残党に武器や資金を提供しているっていう確たる証拠が無い以上は、
ここの貴族連中を集めて
『おう、おめえら帝国と繋がってんのか?』
と一人ずつ締め上げる訳にもいかねえだろ?
論より証拠って昔から言うからな。
証拠が出ねえ以上は、俺も大っぴらには動けねえ……歯痒いぜ、まったく」
ボスン!と音を立てて。
公爵様は腕組みしたまま、ソファーに背を預け、天を仰いだ。
うーん、ヴィーナの御領主様もいつも忙しそうにしてるけど、公国の西の守りを任されている城塞都市の総督ともなると責任重大だもんね。
もし間違った情報に踊らされちゃったりしたら相手の思う壺だし、それこそ市民からの不信感へ繋がりかねない……。
一人娘のエマちゃんの事もあるし、公爵様も慎重にならざるを得ないんだわ。
「そういう訳で先生。
アンタも気にはなるだろうが、しばらくは"知らぬ存ぜぬ"を通しちゃくれねえか。
俺も引き続き舎弟達に探りを入れさせるからよ……港湾での積み荷の検査で全く尻尾が掴めないとなると、
恐らく海路じゃなく陸路でブツを運んでると見てるんだがな……それも、デサロの外でな」
「陸路! なるほど」
確かに、港は公爵様の海運会社が取り仕切ってる以上、密輸品なんてあったら即バレちゃうもんね。
なら公爵様の仰る通り、陸路の線が怪しいか……しかもデサロの外での取引だと管轄外だし……。
「それを手引きしている奴の首根っこをひっ掴むまで、辛抱してくれや。
来るべき時にはアンタにも協力して貰うかもだしな、先生」
「しょ、承知いたしました……閣下」
「何せ、あのミアが代理で寄越した妹分だ、頼りにしてるぜ」
「ど、どうも」
うへえ、いつの間にか城塞都市VS帝国軍残党の抗争の渦中に巻き込まれてしまってますやんか、私!
……まさかミア姉様、これを見越して家庭教師代理を私に任せたんじゃないでしょうね!?
自分でやるのが面倒だからって!
もう公爵様からの「先生」呼びが明らかに家庭教師じゃなくて用心棒の方の先生の意味合いに聞こえちゃってるんですけどお!
ジオンの残党狩りやってたテ◯ターンズ兵みたいな気分ね……。
「では閣下、私はこれで。
時間を割いて頂き、ありがとうございました」
「おう。
……ああ待った、先生」
「?」
と、公爵様との面会を切り上げて、私がソファーから立ち上がると。
応接室を出ようとした私を、公爵様が呼び止めた。
「娘のエマがな。
ここ最近楽しそうなんだわ。
女房が亡くなってからしばらく男所帯が長くて、ここ最近までメイドも雇ってなかったってのもあるんだが……。
アンタが家庭教師に来るようになってから、何と言うか、雰囲気が変わったって言うかな……」
「そ、そうなのですか?」
無精髭をさすりながら、公爵様は照れ臭そうに言う。
さっきまでの強面が嘘みたいに、エマちゃんの話になると急に年頃の娘を持つお父さんって感じになっちゃったわね!
「(……顔に切り傷やらいっぱいある、カタギじゃないお父さんだけど!!)」
全盛期の頃のスティーブン・セガールみたいよ、閣下!
親父の拳固は死ぬほど痛い!
言うたやろ、怒らせンなや!!
理想の父親像No.1、
スティーヴン"パパ・ザ"セガール主演!!!
『沈黙の城塞』by木曜洋画劇場、って感じ!
「親馬鹿と笑われても仕方ねえんだが……。
女房の遺言もあるし、あの子の好きにやらせてやりたいと思う反面、先生も知っての通り、実家がこんな感じだろう?
あの子の重荷になってやしねえかとも思っててよ……だが、どうにも聞き辛くてな。
親なのに情けねえ話だが……」
「そのような事は……。
エマちゃんもあと数年で成人ですし、
自分の将来の事もきちんと考えていましたよ。
何より、公爵様のお仕事にも理解を示していました。
口には出さなくても、デサロの総督をなされている閣下を誇りに思っているはずです」
「そうかい?
……そうだといいんだが」
部下の人達や町の人達の前では威厳を保たないといけないけど、娘のエマちゃんの前くらいでは優しいお父さんで居てほしいものね。
私のお父さんとはベクトルは違うけど、亡くなった奥方様を想って未だに再婚もしてないし、エマちゃんの事も心配してるし、ミア姉様がパトロン契約しただけあって、家族想いの方なんだわ……。
「引き留めて悪かったな、先生」
「いえ。閣下とお話が出来て良かったです。
……私もしばらくはデサロの町中では不用意な行動は慎みたいと思います」
「すまねえな。まあ頼むわ」
そう告げた公爵様に見送られ、私は応接室を後にする。
うーん、今回の一件……公爵様も帝国の残党の暗躍の証拠を掴みきれてないって話だし、もしかすると長丁場になるかもしれないわね……。




