第8話 大魔女への謝罪
「ーーーそういう訳でしてー。
深い眠りの中、夢の中にこそ本当の真理、未来のビジョンが存在する、というのが私の今回の研究の結論となりまーす。
以上でーす……ふあぁ」
「ふふ。魔女ヒュプノは本当に眠るのが好きねえ」
「私はさすがに10年も寝ていられないわ。
身体が痛くなってしまいそうだもの」
魔女の夜が始まった。
アーサー王物語の円卓の騎士のように魔女達がぐるりと円を作って、それぞれ椅子に座って、円の中央に立った魔女の話に聞き入っている。
……私はてっきり、焚き火を囲んでのキャンプファイヤー的な座談会というか催しを想像していたんだけれど……蓋を開けてみればどうも各個人の研究発表会のようなものだと分かった。
例えば今しがたの魔女ヒュプノは、ここ10年程ずーっと眠って、夢を見続ける実験をしていたらしい。
「大変有意義な研究でした、魔女ヒュプノ。
我々、魔女にとって夢は時に未来視に繋がる重要な物。
たかが夢、されど夢。
未来からもたらされる啓示に今後も目を見張ってください」
「ありがとうございまーす、大魔女」
そう言って、魔女ヒュプノはまだ眠そうにペコリと頭を下げて椅子に戻っていく。
ふわふわした髪の、おっとりした雰囲気の魔女ね……。
で、ヒュプノが頭を下げた先に座っているのが、円卓の中央の人物、明らかに他の魔女達とは異なる魔力の流れが感じられる人……大魔女。
「(あの人が今の時代の大魔女か……)」
えっと、ディケーの師匠に当たる方だっけ? 設定資料集にキャラデザ担当の人が色付きでイラスト描いてたからゲーム未登場だけど、この魔女達の中で唯一顔をハッキリと知ってる人だ
見た目は30代半ばくらい? デキるキャリアウーマンって感じの雰囲気ね。髪も金色にキラキラ輝いてて、ハリウッド女優みたいな佇まいと言うか……男性にも女性にも、どっちにもモテそうですやんか。
……なんて、私が一方的に見惚れていると、
「あの、大魔女。よろしいですか」
「何でしょうか」
「今回の魔女の夜、"太陽の魔女"アルエスと"月影の魔女"シャウムが欠席されているようなのですが……」
ヒュプノの発表が終わって、そろそろ私の番だわと身構えていた矢先、既に発表を終えた魔女の1人が不意にそう言った。
……言われてみると、椅子が2つ空席だ。
顔見知りの前でボロを出さないだろうかとか、ライアとユティはちゃんと鍛練の成果を見せられるだろうかとか、内心緊張しっぱなしで、全然気づかなかった……。
「……魔女アルエスと魔女シャウムは亡くなりました。
それぞれ公国、帝国側に付いて、戦場で散ったようです」
「そんな……」とか「まさか……」とか、円卓の場に大きなどよめきが次々と起こる。世界の理を見つめる星の観測者たる魔女達にとって、人間同士の争いに介入する事は基本的に禁忌だ。
人間の男性と結婚したり、人間を養子や弟子にする事なんかは手続きを踏めば認められるらしいんだけど……いやまあ、ゲーム本編のディケーも規則違反やらかしちゃってるし、アルエスやシャウムの事をどうこう言えないんだけども。
「各々、思う事はあるでしょう。
ですが、2人の選んだ運命なのです。
星に還った彼女達の安寧を祈りましょう」
大魔女の言葉に、みんなそれ以上は言葉を噤んでしまう。
うーん、一気にお通夜のような静まり返った雰囲気になっちゃったわね……こういうの苦手。
「この話はここまでです。
……では、魔女ディケー」
「あ、はい」
「あなたの成果を見せる番です」
うわー、ついに来てしまった……。
ディケーはここ何回か集会を無断でサボってたし、心なしか大魔女の視線も鋭い気がする。
でももう、ここまで来たらぶっつけ本番でやるしかない!
「……まずはお集まりの皆様に、これまでの幾度もの欠席の非礼をお詫びします。
召集に応じず、魔女の夜への参加を怠ってしまいました、ここに謝罪いたします」
おずおずと円卓の真ん中に進み出た私は、恐らくディケーなら表面上でもこうするだろうという感じで、深々と頭を下げた。
いや、私はちゃんと心から謝ってますよ? 魔女の塔を除籍されたくないし!
「先程も大魔女からありましたが、公国軍と帝国軍の戦争の激化もあり、身を潜めていた期間が少々長すぎました。
……ですが、戦に魔女の助力を乞おうとする者が居ないとも限らず、各陣営の勢力図を書き換えてしまう可能性もあり……どうすべきか迷った結果、山奥に潜伏しながらの研究続行を選びました。重ねてお詫び申し上げます」
嘘は言ってないからね!
実際、公国と帝国の戦争は何度も休戦を挟みながら小競り合いを繰り返し、結果的に20年くらい続いてた訳だし。
おちおちディケーも本業の天体観測してらんないし、山奥に引き籠っちゃうのもやむ無しですよ。
「……事情があっての欠席、そういう事ですね?」
「はい、大魔女。
決して、魔女の塔や皆様への不敬からの狼藉などではありません」
もし、13年後にレジェグラの本編が始まって、私以外の誰かが邪神を復活させようとした時には、魔女の塔にも邪神と戦う一翼を担って欲しいと思ってる。
今、魔女の塔を除籍され、追放の身になる訳にはいかない!
「……分かりました。
魔女ディケー、貴女の謝罪を受け入れます。
以後、このような事がないように」
「ありがとうございます、大魔女」
よしっ、許された! やったっ!!
報告、連絡、相談、ホントに大事よね!
「では次に、貴女の成果を見せて貰えるかしら?」
「はい。私の養子兼弟子を御紹介します」
いよいよだ。
本来のレジェグラの歴史では、ディケーが魔女の塔には無断で育て、魔術の後継者に選んだ娘達。
ーーーライアとユティをお披露目する時が、ついに来た!




