第61話 私もうここに住むわ
第2部スタート
「そうか……エルフの宝剣は砕けてしまったのか。
だが結果的に氏族長殿の御息女の呪いは解け、アグバログも撃破する事が出来た、と」
「はい。
その後は治療のため、王城で数日静養をしておりました。
帰還が遅れてしまい申し訳ありません、閣下」
鷲獅子のシフォンちゃんに乗って、エルフの氏族の住まう南の樹海から国境の町ヴィーナへの帰還後。
時刻はお昼ちょっと過ぎくらい。
私はライアとユティを一旦先に家に帰し、そのまま御領主様の御屋敷へ向かい、事の顛末の報告を行った。
報告、連絡、相談はビジネスの基本だし、ここはちゃんとやっておかないとね。
氏族長様からお預かりした手紙も早く渡さなきゃだったし。
「まずはそなたが無事で何よりだった。
呪いは解け、アグバログも倒せた事だしな。
……ふむ、300年前にアグバログを一度は倒した"炎魔将殺し"が、再び炎魔将を討伐したか。
エルフの氏族長殿も宝剣が砕けた事は気にしておられぬようだし、今後のヴィーナとの貿易に関しても前向きに検討したいとある。
……本当に御苦労だった、ディケー殿」
「ありがとうございます。御領主様」
手紙を読み終えた御領主様から労いの言葉を頂き、私は頭を下げる。
……さすがは氏族長様、私が魔女ってことは上手くボカした感じで手紙を書いててくれたわ!
まあ、エルフの宝剣を使ってアグバログにトドメを刺したのは本当の事だしね。
「しかし宝剣の力を借りたとは言え、まさか深淵戦争の魔将をも打破するとはな。
……つくづく、そなたが我がヴィーナ家付きの冒険者で良かったよ、ディケー殿」
「あはは……。
ふ、復活したばかりだったので、まだ不完全な状態だったのが幸いしまして……。
こう、喉の古傷に一撃をお見舞いしてやりました」
「すごいな。勇ましい事だ」
いや、マジでメチャクチャ強かったわよ、アイツ!
山みたいにデカいわ、炎は吐くわ、瘴気は出すわ、呪いはかけて来るわ、自爆はしようとするわ……あれはホントにもうウ◯トラ怪獣を相手にしてるようなもんだったし。
元喫茶店の従業員が相手にするには……荷が重い? 荷が勝つ? どっちだっけ? ……とにかく強敵だったわ!
私、怪獣退治に関しては専門外ですから!
そういうのは科特隊とか光の巨人の担当って言うかあ……。
「冒険者ギルドから『至急、公国軍に出動要請を』と連絡があった時は何事かと思ったがな。
大きな地響きと共に南の空がドス黒く染まった時など、正直この世の終わりだとヴィーナの誰もが思ったものだ。
……本当に、よくぞ倒してくれた」
「ナ、ナルホドー」
そう言って御領主様は腕組みしながら椅子の背もたれに背を預けて「あれは本当にヴィーナ始まって以来の危機だった……」と遠い目でボヤく。
うーん、私は戦いに夢中で気づかなかったけど、ヴィーナの方はそんな事になってた訳ね……。
いや通りで、あちこち建物がひび割れてたり、物が散乱してるなあと町に帰還した時に思った訳だわ。
傭兵や冒険者に混じって公国軍の人達も結構な人数を見掛けたし……日本で言うところの、災害派遣されて来た自衛隊員みたいなものかしら?
「アグバログ自体は攻めて来なかったが、件の地響きでヴィーナにもそれなりの被害が出てしまったのでな。
せっかく公国軍を出動させた事だし、今は町の片付けに手を貸して貰っている。
……今しばらくは私も領主として陣頭指揮を執らねばならん」
「申し訳ありませんでした、大変な時に」
「いや、いい。
実際に現場に居たそなたからの報告を、まずは聞きたかったからな」
御領主様も大変なのねえ……。
幸い、この御屋敷は耐震強度が高かったみたいで無事みたいだし、この分ならメイドさん達や護衛騎士の人達、奥方のナタリア様も無事でしょう。
****
「戻ったのね、ディケー」
「あ、ナタリア様。
はい、先程戻って参りました」
御領主様へアグバログ関連の報告を終えた後。
次はナタリア様に帰還の報告でもしようかなと執務室を出たら、そのナタリア様が廊下で待ち構えてたっていう。
お会いするのは1週間ぶりくらいだけど、元気そうで何よりだわ……って、
「……」
「な、ナタリア様?」
な、何?
ナタリア様、何か近くない?
……そんな私の焦りを余所に、私の顔を覗き込むように身体が触れ合うような近い距離までナタリア様は歩み寄って来ると、
ムニッ
「い、いひゃいっ!?」
「……ま、無事ならそれでいいわ。
貴女の事だし、あんまり心配はしなかったけどね」
「な、なんれ、まいかいひっふぁるんれすかー!」
これもう何度目?って、感じで。
ナタリア様は思いきり両手を広げるや、私の両頬をムニムニと左右に引っ張るのだった。
「ふんっ、相変わらず赤ちゃんみたいな軟らかい頬っぺたしてるわね!
アグー豚とか言うのと戦った割には肌艶もいいし、本当は観光にでも行ってたんじゃないの?
貴女、よく食べるものね!!」
「アグバログですー!」
まあ、療養中にいっぱい食べてたのは事実ですけれども!
……もしかしてナタリア様、寂しかったとか?
ただでさえ御領主様はヴィーナの町の片付け作業で忙しそうだし……いやいや、まさかね。
あー、でもこれ、ヴィーナに戻って来たって感じがあるような、ないような……。
いけない、私もそこそこナタリア様に毒されて来たのかしら……。
「当然、私へのエルフの国のおみやげはあるんでしょう?
受け取ってあげるから、私の部屋に来なさい」
「は、はい……」
やっと頬っぺたを放してくれたと思ったら、今度はガシッと手首を捕まれ、私はナタリア様の言うがまま、お部屋に連行されてしまうのだった……。
****
「ベッドに寝なさい。ブーツは脱いでよ」
「え……」
ガチャリ。
ナタリア様のお部屋に通されると、途端に後ろでドアに鍵がかかる音がした。
……これ、前にもあったなあ!?
初めてお会いした日もドアに鍵かけてましたよね、貴女!?
……そんな私のキョドりなんて完無視でナタリア様は、
「で、でも、これ、ナタリア様のベッドじゃ……?」
「その私が寝てもいいと言ってるの。
……雇い主の妻の命令が聞けないの?」
「うぅ……。
じゃ、じゃあ、失礼して……」
久々に女帝モード発動って感じ!
……最近親しくなって忘れてたけど、そう言えばナタリア様って気難しい若奥様キャラだったわ……!!
……まあ、本人もそう言ってる事だし、言う通りにするけど。
「(うわ、ふかふか……!
いつもこんなので寝てるのか、ナタリア様……)」
電気マッサージしてあげてる時は全然気づかなかったわ……ちょっとセレブ気分かも!
「ほら。隣、少し空けなさい」
……って、ナタリア様っ!?
言うが早いかナタリア様は束ねていた後ろ髪をほどき、羽織っていたケープも脱ぎ捨ててラフな格好になると、ボスン!とベッドにダイブして、私の横に寝転がってしまった。
「ナタリア様……?」
「黙ってて。
……しばらく、こうさせて」
そのまま私の身体にしがみ付くと。
まるで私を抱き枕にするかのように、ナタリア様は私の胸へと遠慮なしに、銀色の髪を揺らして、顔を埋めて来る。
「撫でて」
「えっ?」
「……心配はしてなかったけど。
……ディケーが死ぬかもって思ったら、ちょっと怖かったから」
「そ、それを世間一般では心配と言うんじゃ……?」
「うっさい。……いいから撫でて」
「(なんだ……ナタリア様も寂しかったんじゃないの)」
結局、そのままの流れで。
私はナタリア様が満足するまで抱き枕役をこなしつつ、一緒に寝ながら1時間程、頭を優しく撫でてあげた。
「(これくらいならライアやユティで馴れてるし、まあ任せてくださいよって感じよね!)」
……でも、撫ですぎて感極まっちゃったのか、
「……決めた。
……私もう、ここに住むわ」
って、おっぱいに顔を埋めながらナタリア様に宣言された時は、丁重にお断りさせて頂きました……。




