第50話 Spiritual Garden
「ディケー殿。少し宜しいだろうか」
お昼過ぎ。
昼食の鹿肉料理を子供達と一緒にお腹いっぱい食べた後。
子供達は部屋でお昼寝するとの事だったので、さて私は何をしようかなと食堂を出て、石畳の廊下を歩きながら考えていたトコロだった。
「昼食が済んだばかりだと言うのに、お引き留めして申し訳ない」
「いえ、そのような事は」
私は、少し焦りの見え隠れする面持ちのエルフの氏族長様に呼び止められていた。
昨日初めてお会いした時より、更に心労が増してるわね、これは……。
……この様子だと、呪いに侵されたお嬢様への解呪の可否がいよいよ、って感じ。
「あの後、妻や治療師達ともよく話し合ってな。
……このままでは娘のエレナに回復の兆候が見えぬ故、やはりディケー殿に解呪をお願いする他ない、という結論に至ったのだ。
ディケー殿、明日にもお願い出来るだろうか」
「……畏まりました」
うわー、いよいよ来たか。
娘の危機とあって、これまで解呪を渋ってた氏族長様の奥方様もとうとう折れたのね……。
****
氏族長様と明日の予定について話し合った後。
私は庭園に移動して、噴水を眺めながら今後の事について思案していた。
まあ、どれもこれも仮定の域を出ていない推測ばかりなのがアレでね……。
「(サラさんがこの国に帰った後、私自身も呪いやアグバログについて色々と調べてみたんだけど……)」
人を死に至らしめたり、子々孫々まで不幸な出来事や不慮の事故を起こして祟るような呪いは、割と古今東西に記録があるんだけど……特定の人物だけ魔術が一切使えないようにする……なんて限定的な呪いは例が無かったのよね。
私はサラさんの話を聞いて、てっきり、
『今後二度と、この地に住まうエルフどもが栄える事はない!』
って、断末魔を叫んだアグバログの呪詛が怨念化し、生まれた時からエレナお嬢様に取り憑いたんだとばかり思ってた。
ならこっちも呪いをかけ直して、第三次スーパー呪い大戦やるわよ!感マシマシでエルフの国にやって来たんだけど……
「(もし私の仮定通り、まだアグバログが実は生きていたとしたら……)」
この国のエルフの人達は皆「アグバログは最期、深い谷底に落ちて行った」って言うけど、誰もアグバログが本当に絶命したのかどうかを確認していない。
私の元居た世界の日本のように殺した相手の死体を手厚く葬り、墓や首塚を建てて弔ったり祀ったりするような概念がエルフには無かったのが却って災いしてるわね。
今では最終決戦の地は禁則地になったせいで、誰も近寄らないし……アグバログからしたら、好都合ってレベルじゃないでしょうよ。
誰も来ないから、ゆっくりと時間をかけて再び力を蓄える時間が稼げるし。
「(炎魔将アグバログは元々、異界においては"ツアト"と呼ばれる地下世界にある灼熱の地の支配者だったとされている……ツアトとは冥界の意味、つまりは地獄の支配者ね!)」
そんなすごい奴がそんな簡単に死ぬ!?ってハナシですよ。
地獄の支配者よ? 下手したら不死かもしれないじゃん!!
「(もし一旦仮死状態とか休眠状態となって、エルフへの復讐の機会を300年待ってたんだとしたら……魔女が来ると知って、焦ったのかもしれない……!)」
何せ300年前の深淵戦争の時はアグバログが呼び寄せた十万の魔物の援軍が、若き日の大魔女こと私のお師匠の魔女テミス1人に全滅させられちゃってるし、向こうも敵に回した魔女の恐ろしさは分かってるはず!
アグバログからしたら、自分に手痛い一撃を加えた氏族長様の娘を160年も魔術を使えなくして苦しめた訳だし、そろそろ総仕上げのターン……エルフの氏族全員への復讐に差し掛かってもおかしくはない!
「(……アグバログの最期の言葉、
『今後二度と、この地に住まうエルフ共が栄える事はない!』
っていうのが、実は呪詛ではなく
『いつか再び甦って、この俺自らの手でエルフを滅ぼしてやる!』
って、リベンジ宣言のブラフだったとしたら……!?)」
それに森の奥から幽かに匂った瘴気……樹海の外、外界から来た魔女の私だからこそ気づけたのかもしれない。
お城に住んでるエルフ達はこの300年で匂いに慣れちゃって、誰も気づいていなかった。アグバログはエルフ達に魔力感知されないように気配は上手く隠せてるようだけど、元々異界の出身だから身体から少しずつ滲み出る瘴気の匂いまでは隠せていなかったみたいね……!
「(……よし、明日勝負を仕掛けるわ!)」
異界から来た炎魔将なんて厄介なモノに復活される訳にはいかない!
それに、上手くいけば完全復活される前に倒す事が出来るかもしれない!!
某ジブリ映画じゃないけど、
「腐ってやがる、早すぎたんだ!」的な展開が第一希望で!!!
****
ややあって。
「ディケー様」
私があーでもない、こーでもないと庭園で一人、エキサイトしていると。
「明日、いよいよエレナお嬢様の解呪を行われると聞き及びました。
……何か、私にもお手伝い出来る事はないでしょうか」
少し不安げな表情で。
メイドのサラさんがおずおずと、廊下の向こうから私の姿を認め、庭園まで歩み寄って来ていた。
……不安と同時に、何処か期待の入り交じってる感じもある表情してるけども。
……そうね。今回はサラさんにも手伝って貰わないとダメかもしれない。
「……サラに大事な事を頼みたいの」
「!」
「お願い出来るかしら?」
2人きりの時はサラと呼び捨てで呼んでほしい。
朝方にそう言われたので、私は真面目な声色でサラさんの願いに応えた。
「はい……はいっ!
ディケー様、何となりとお申し付けください!」
お嬢様と、そして私の役に立ちたい。
今のサラさんの私への恍惚とした表情からは、そんな思いが読み取れた。
すぐさま駆け寄って来たサラさんは、言い方は悪いんだけど……まるで主人に媚びる忠犬のようですらあって……。
誓って言うけど私、魔女の瞳の魅了は一切使っておりませんので!!




