第32話 受付嬢ベルの心臓について
「黄金千年竜王バーガー、2つください。
私はパティ2倍、この子はハニーチーズ入りで」
「魏怒羅バーガーのパティ増しとハニー入りましたー!」
前にも言ったように、ヴィーナは何処と無く20世紀初頭くらいのアメリカンな雰囲気のある町で、近隣では唯一の冒険者ギルドが所在を置く地方都市でもある。
また、国境にも接しているのもあって、昼夜を問わず冒険者や傭兵、国外から出稼ぎに来た亜人種(獣人とか)が行き交う、結構活気に溢れた町だったりする。
町の通りにはそこかしこに出店が立ち並び、特に片手で食べられるバーガーやサンド系が冒険者達には手軽で人気みたいね。私もこの町に来る度に食べてるし。
「あ、あの、ディケーさん!
……やっぱり私、お金出します!」
「いいって、いいって。
私に奢らせて、ベルちゃん。
巨猿王を倒した懸賞金も入った事だし」
「で、ですが……!
ディケーさんを食事に誘ったのは私なのに……」
「じゃ、次はベルちゃんが奢って。
私の腕が治った後で、また改めて、ね?」
「……はい」
今、私はギルドの受付嬢のベルちゃんと、夕刻に差し掛かろうとしていたメインストリートの出店を一緒に回っていた。
仕事上がりのベルちゃんから珍しく食事に誘われたので「じゃあ片手でも食べられそうな物にしましょうか」って話になったのよね。
まあ、ベルちゃん的にはもっとちゃんとしたお洒落なお店での食事がしたかったのかもだけど、今は私の右手が巨猿王との戦いで折れたまま完治してないし、正式な食事は次の機会に、って事で。
……後はまあ私の方が年上だし、ここは奢らせてほしいな、って思った訳でして。
「ベルちゃんには感謝してるのよ。
朦朧とした意識の中だったけど、通信石からベルちゃんの『救援部隊、急いでください! もっと早く!!』って悲鳴にも似た叫び声、聞こえてたから」
「す、すみません! 私、煩かったですか?」
「あはは。
おかげで意識失わずに済んだから」
「~~~ッ!」
私がからかうように言うと、ポッとベルちゃんは赤くなってしまい、そのまま目線を足元に移して俯いてしまった。職務をまっとうしただけだし、別に恥じ入る事はないと思うんだけどね。
「おまちどう、魏怒羅バーガーのパティ2倍とハニーチーズ入りね」
「ありがとう」
「あっ……わ、私が持ちますからっ!」
「助かるわ。ベルちゃん」
「いえ、そんな」
「まいどあり!」
店主のオジサンにお金を払うと、これくらいは自分にさせてほしいと言わんばかりに。ベルちゃんが我先にとバーガー2つが入った包みを受け取り、しっかりと抱き締める。
「行こっか。ベルちゃん」
「は、はい」
包みを抱いたベルちゃんは、私の隣をトコトコと連れ立って歩き出す。
いつもの受付嬢の事務服から普段着に着替えたベルちゃんは、何だかいつもと違って新鮮に見える。
「ディ、ディケーさん………あの」
「うん?」
「あ、いえ……何でも、ないです」
「?」
……でも、何かしら。
今日のベルちゃんは少し、歯切れが悪いわね。
****
出店の立ち並ぶメインストリートから少し離れて。
通りが見渡せる休憩用のベンチに座った私達2人(ベルちゃんが私の右隣ね)は、早速バーガーにかぶりついていた。
「ん! 美味しっ!!
前に食べた"金星から来た黄金三つ首竜バーガー"とは趣の異なる味わいね!!!」
しかもパティ2倍で肉厚ぅ! ジューシー!!
巨猿王との戦いで負傷して以降、身体が栄養を欲してるのか、最近の私はよく食べるようになったと思う。明らかに食欲が増したって分かるのよねー。
「(巨猿王の頭を砕いた時、相当の魔力を消費した反動かしら……?)」
あの一撃、相手の頭を粉々に砕くどころか私の右手も折れちゃったからね!
極星のローブは相手の攻撃を私の魔力に還元する効果を確かに発揮したけど、あまりに強力過ぎる攻撃を喰らうと、還元しきれなくて身体にダメージが残るんだわ、多分……。
「……ディケーさん。
私、ずっとディケーさんに謝らなきゃって思ってた事があるんです」
なんて。
私がバーガー片手に、この前の戦いの一人反省会をしていると。
私の隣に座ってバーガーを両手で抱え、パクパクと小さな口で頬張っていたベルちゃんが、徐にポツリと切り出す。
「初めてお会いした時……。
私、ディケーさんにすごく失礼な対応をしてしまって……」
ああ、あの時の……。
『す、スキマ時間に有害召喚獣退治……ですか?』
『はい。ダメでしょうか。
依頼を受けて退治すれば、賞金が出ると聞きました』
『ダメ、という訳ではないのですが……。
ウチみたいな地方の冒険者ギルドよりは、それこそ公国の首都近郊のギルドの方が支払いがいいと思いますが……』
『いえ、此処が良いんです』
『エェ……』
覚えてる覚えてる。
あの時は結局、姉弟子で冒険者もやってる魔女のミア姉様の紹介状を見せて、ギルドに所属させてもらったのよね。
「そんなの気にしなくていいのに」
「いえ、その節は大変失礼をいたしました!
わ、私、ディケーさんが特A級の有害召喚獣を倒してしまうくらい強い人だったなんて、あの時は全然思わなくて……!!」
「アポも無しにいきなり訪ねて『ギルドに所属させてほしい』なんて言っちゃった、私も悪いから」
面接するなら、まずは事前予約!
これ忘れちゃ駄目よね。いきなり訪ねたら、そりゃ門前払いされるわ!!
変な人を雇って、ギルドの評判を落としちゃうのも困るでしょうしね。
なのでまあ、ベルちゃんは全然悪くない訳で……悪いのは私なんで……。
「ディケーさんと巨猿王の戦い、私もドローンの中継で見てました。
……ヘルプに入ったアラムさん達を守りながら戦うディケーさん、すごくカッコよかったです。
……誰にでも出来る事ではなかったと思います」
「ありがとう。
てか、あの時たまたま近くに居たの私だけだったしね。
私にやれる最善を尽くしただけなの」
未来ある若者達を見殺しには出来ないでしょう。
一瞬、家に残してきたライアとユティの事が頭を過らなかったかと言えば嘘になるけど……あの時、私は正しい選択をしたと思いたい。
……いや、したのよ。
「……それでも、次からは。
無茶、なさらないでください。
……私の心臓に、大変、よくないので」
そう言いながら。
ギプスで固定され、包帯をグルグル巻きにして吊るした私の右腕に。
まるで、壊れ物にでも触れるように。
いつもは手袋で覆われているベルちゃんの白い指先がギプスに触れ、そっと手が重ねられる。
「……お願いしますね」
「あ、ハイ」
熱っぽい、憂いのある視線でお願いされてしまって。
私はバーガーを食べる手を止め、ベルちゃんの真剣な、それでいて何処か縋るような眼差しに、しばし見入っていたーーー。




