第15話 ホーム・スイート・ホーム
「「「ただいまー!!!」」」
港町ブロケナの古倉庫の扉を通って、山奥の懐かしの我が家へ。
1日留守にしていただけなのに、何だかやたら長く家を開けていたような気分ね!
でも、オズの魔法使いのドロシーじゃないけど「おうちが一番」だわ、やっぱり。
「(だけど……成果はちゃんとあった!)」
魔女の塔での「魔女の夜」も無事終わって、ライアとユティも"魔女見習い"として大魔女から正式に承認されたし、とりあえずはひと安心ってトコロかしら。
「2人とも、まずは手を洗ってね。
その後は部屋で着替えてきなさい。
母様は晩御飯の準備をするから」
「はーい!」
「イエス、マム」
私の言葉を聞くや、ドタドタと子供達が忙しなく廊下を走る足音が、山小屋の中に響く。
ふふ、我が家はこうでなくっちゃ。
この賑やかさがあってこそね。
ブロケナの市場で買い物してたらすっかり夕方だし、あっちとこっちの距離を考えると、こっちの方が夜が更けるのが早いみたい。ただでさえ山奥だし。
「よし、魔女の工房から戦利品を取り出して、っと」
市場で買った肉や野菜、魚介をひとまずはテーブルの上へ。念のためエビとかの魚介類は氷の術式で凍結しておいた。腐っちゃうとダメだし。
さて、日持ちしそうな野菜はそのままでいいとして、肉と魚介は今日食べる分以外は冷蔵しなきゃダメね、やっぱり。
「よっと……。
ついにこれの出番が来たかぁ……」
実は少し前から冷蔵庫については私も何とか手に入らないかな?と思ってはいた。
で、ディケーの部屋の魔道具に何か応用が効きそうな物が無いか探してみたところ、私の世界で言うところのクーラーボックスのような物が出てきた。
魔力を込めて触れると内部に冷気が流れる仕組みになってて、魔力で冷たさを調節出来る仕組みだった。
なのでまあ、なかなか使えそうだと思って準備していたのだ。
「多分、倒した魔物の臓器とかを入れてたんだろうなあ……」
レジェグラでは戦闘中に魔物を倒すと、戦闘終了後に希少部位を落とす事があって、その素材を使って武器や防具を強化出来るシステムがあった。
基本は爪とか牙なんだけど、たまに目玉とか心臓やら内蔵やらも素材として要求される事もあったからねえ……。
中には何時間粘ってもなかなかお目当ての部位を落とさない魔物も居たりして、そういうやり込み要素もゲーム人気の1つだった訳ね。
「ん、見た目の割に結構入るわね。
これも魔女の工房と同じで別の空間に貯蔵するタイプの魔道具なのかしら……」
とりあえず、今日3人で食べる物以外は全部収納、っと……うん、全部入った。
あとは常時冷気を放出するように永続術式をかけておきましょう。
「すっかり主婦染みて来たなー、私」
実家に居た頃は私もお店の喫茶店の仕事以外に家事手伝いはしてたけど、いざ自分で全部やるとなると結構大変よねー。お父さんもお母さんも、こういうの毎日やってたんだ……いやー、親は偉大だねえ……。
「よし、私も一旦着替えよう」
荷物も置きに行かなきゃだし、私も束ねた髪をほどきながら、一度部屋に戻る事にした。
****
「かーさま、これはなんのおりょうり?」
「これは鍋料理よ」
「なべ?」
グツグツと戦利品の数々を鍋の中に入れて煮込んでいると、早速匂いに誘われてライアがやって来た。そうして、物珍しそうに鍋の中を覗き込んで、尋ねて来るのだった。
そうだった、今まで鍋は食べさせた事無かったもんねえ……。
「お肉と野菜と魚介類をね、出汁と一緒に煮込むの。
それぞれの旨味が出汁と溶け合って美味しくなるのよ。
火が通ってお肉も野菜も魚介も柔らかくなるし、箸が進むのよー」
さすがに都合よく土鍋は無かったので、今回はディケーの家に最初からあった鍋を使ったけど、そのうち何処かで土鍋を手に入れた方がいいかもしれない。
確かレジェグラの世界にも和風な雰囲気の国があったはずなんだけど……うーん、ゲーム本編だと名前はチラッと出ただけで、国自体は未登場だったからなあ。
その国出身の仲間キャラとかは居たんだけどね。
「なるほどー………はし?」
「ああ、ごめん。
ライアは知らないか……」
「かーさま……。
ときどき、ふしぎなことをいう……」
「今度教えるわね」
小首を傾げるライアの頭を撫でてあげると、くすぐったそうにキャッキャと笑う。
ゲーム本編の時間軸だと女子供にも容赦のない性格してたけど、今のライアは無邪気そのもので素直でいい子だ。このまま成長してくれると嬉しいんだけど……。
「ナイススメル」
「ああ、ユティも来たのね」
ライアに続いて、ユティも部屋着に着替えて戻って来た。魔女の塔ではよそ行きモードで真面目な喋り方をしていたけど、今はいつものユティに戻っている。
「(レジェグラの開発ディレクターは『ユティはキャラ作ってます笑』って設定資料集でインタビューに答えてたけど、本当なのかしら……?)」
ライアと違ってミステリアスな雰囲気があるけど、刺さる人には刺さる感じではあるわね、ユティは。いつも窓の外を眺めてる、ちょっと不思議な美少女転校生……的な? アヤナミタイプね。
「じゃ、そろそろ食べましょうか」
親子3人揃った事だし、晩御飯にしましょう!
****
「「「うまし!!!」」」
メチャクチャ美味しいッ!
出汁が良いのかしら?
肉も野菜も魚介もいい感じに煮込まれてて、口の中で蕩けちゃうわね、これは!
「2人とも美味しい?」
「おいしー!」
「デリシャス!」
良かった、子供達にも好評みたい。
鍋は結構バランス良く栄養摂れるのよねー。
「(ただ、箸を用意しなかったのは失敗だった……!)」
ブイヤベースとかならスプーン、フォーク、ナイフでもイケたんでしょうけど、鍋物はやっぱり箸でつつきたいわあ……。
「(……よし、明日薪を削って作ろう!)」
今の私でも風系の魔術で形を整えながら木を削るくらいの緻密なコントロールくらい簡単に出来るはず。
定期的に魔術の練習をしとかないと、いざって時に困るしね。
自動車の運転も長いことやってないと感覚忘れちゃうでしょ? あれに近いわね。
とっさに身体が動かない……みたいな?
子供達を今後鍛練するなら、私も一度鍛え直す必要がありそう……修行編ね!
少年漫画だと露骨にアンケで人気下がっちゃう期間の!
「かーさま」
「ん?」
「おうちで3にんでたべると、おいしーね!」
「ソダネー」
「……ええ。そうね」
無邪気に微笑むライアとユティ。
ーーーこれだけで、この世界に来た価値があると思えた。
もしかしたら、レジェグラの本編でもずっと以前に有り得たかもしれない光景。
ディケーと、ライアと、ユティ。
束の間の、親子の時間。
ちっぽけだけど、二度と同じ瞬間が訪れる事のない、私達だけのーーーー大切な思い出の時間だった。
次回より「魔女のスキマ時間編」




