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Sim Racing Novel Faster Fastest  作者: 赤城康彦
87/99

Final ──決勝──

 フィチが2位につけ、トップをうかがっている。否が応でも期待してしまうというものだ。

 アレクサンドラもディスプレイ越しに声援を送り。チャットにも書き込む。

 その他世界中の視聴者がForza E World GPを観戦して、チャットにも思い思いの思いの丈を書き込んで盛り上がった。

 突き抜けるようなモーター音がディオゲネスの市街地コースに響き渡る。それに交じってタイヤのスキール音や画面の中の観客の声援も響き渡る。

「いけえ……!」

 龍一はどうにか1台抜いて9位に上がった。トップ集団は4台に絞られ、後続集団を引き離しにかかっている。

 急がないと引き離されてトップ争いに絡めなくなる。

「しかし難しいな」

 オンラインでマルチプレイも経験したことはあるが、やはりそれとは勝手が違う。ここにいるシムレーサーたちは世界トップクラスの腕前。どうにかひとつ上がったからといって、立て続けに抜き続けられるようなことはなく、前にしっかりラインを塞がれた。

 後方でクラッシュがあった。二台が絡むダブルクラッシュだ。一発廃車レベルの損傷で、マシンが幻と消えてゆく。

 それぞれの選手が同時に立ち上がり、互いに詰め寄り。慌ててスタッフが駆け寄る。

「てめえ、なに巻き込んでんだ!」

「そりゃこっちのセリフだ!」

 エキサイトし、言い合いになり。スタッフたちが慌てて諫めて。その効果かあってか、ふたりはどうにか落ち着き。

「ざっけんなよ」

 とのジェスチャーを見せて、チームのスペースにゆき。ふてくされた表情で差し出されたドリンクを飲む。

 コロナ過での試合参戦が出来た喜びもつかの間、不本意なかたちでリタイヤはさぞ無念だろうが。

 これもまたレースの一場面だった。

 20台以上のマシンが走っているのに、視界はクリア。前には誰もいない。

 ゼッケン7、ヴァイオレットガールはトップのみが享受出来る特権の、クリアな視界を見据えてひた走った。

 後ろからゼッケン3のフィチが迫る。それにレインボー・アイリーンが迫り、またそれにカール・カイサが迫る。

(いい感じで走れてるじゃん)

 レインボー・アイリーンはフィチのマシンのテールを見据え、無理に抜くよりもしばらく尾行することに決めた。

 まだレースは前半。無理してクラッシュ、リタイヤほどつまらない終わり方はない。

 それはカール・カイサも同じで、無理せずレインボー・アイリーンについてゆくことにした。

 ミラーをちらっと覗けば、後ろとはいくらか距離もできている。なおさら無理する必要はない。

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