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Sim Racing Novel Faster Fastest  作者: 赤城康彦
86/99

Final ──決勝──

「……」

 フィチはミラーを見ない。ヴァイオレットガールを追い、そのヴァイオレットカラーのテールに接近する。

 第1コーナーで、後ろなどいないとばかりに、ゼッケン3のフィチのマシンがゼッケン7のヴァイオレットガールのマシンに並ぶ。

 しかしフィチはすぐに引いた。相手は思いのほか速く、抜けそうで抜けなかった。だから無理はせず次の機会をを伺う。しかし自分の存在を知らしめるのも、レースでは大事なことだ。

「逃がさないぞ」

 というメッセージは送れただろう。

「やっぱり初っ端からは逃がしてくれないね!」

 ミラーで後ろを覗かず気配で感じて。逃げ切りを図る。一度だってトップを譲ってやるもんか、と。

(ドラゴンは来られないかな……)

 昨日は調子が悪かったようで、10位スタート。スタートダッシュもそれほど決められなかったようで、迫ってくる様子がない。

 自分より年上だけど、プロとしての試合は今大会が初めてなのだ。無理もないことなのかもしれない。

 もちろん待ってやるような真似もしない。プロの試合だから。

「ルイス、ルイス。私に力を与えて」

 心の中で祈ってささやいた。

「少し出遅れたか!」 

 とカール・カイサは呻いた。

 予選は2位だったが、レースでのスタートダッシュにややしくじり、ひとつ落としてしまった。もとい、フィチは上手くスタートダッシュを決めたもので、2つ順位を上げ、トップを追走する。

「スパイラル・Kはやっぱり手強いね!」

 レインボー・アイリーンとしては、スタートダッシュは上手くいった感触はあったはずなのだが、するするすると、フィチのマシンに前に出られてしまった。

 司会と解説は興奮気味に、初っ端から口角泡を飛ばす勢いでまくしたてる。このコロナ禍の中で大会が開催され、決勝のスタートが切られただけでも感激ものだった。

 ゴール後、どんな気持ちになっているのだろうか、想像もつかない。そのまま昇天してもいいくらいの気持ちだった。

 フィチの両親も龍一の両親も、固唾を飲んでレースを見守る。

 龍一の両親は、自分の息子がゲームの世界大会に参加しているなんて、やはり今でも夢見心地だった。

 フィチの両親は、多少の慣れはあるが、それでもやはり慣れ切ることはなく、緊張は禁じ得なかった。母親などどきどきして、時折目を逸らす。本当のレースでなく、クラッシュしてもケガはないとはいっても、どうにももしもの時を思ってつい画面から目をそらしてしまう。

 コスプレコンビは拳を握り締め、ぱっと明るい顔でディスプレイを見つめている様がライブ配信で映し出されていた。

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