Qualifying ──予選──
「……。はい」
龍一はしぶしぶピットインして、休憩。ふうとため息をつき。ドリンクホルダーからカップを取り、ストローをくわえて一息つく。
フィチは自分の判断で適時休憩をしコンディションも整えている。
その時に、心配そうに龍一を覗き込む。
(これはまずいかな)
まさかの低迷。フィチも心配だった。プロとしては新人だから仕方がないところもあるかもしれないが。
アリーナの雰囲気も、変わってきている。手ごたえを感じた選手は充実した面持ちになり。不本意な走りを強いられる選手は渋い顔になる。それぞれで違う気持ちが複雑に絡み合って、アリーナに、ここは試合会場だという雰囲気をもたらす。
ドリンクを口にして喉を潤し、気持ちも落ち着け。改めて出走する。
しかし、タイム更新はならず。
ふと、ライブ配信にクラッシュしたマシンが映し出される。龍一のひとつ前、10位に着けていた選手のマシンだ。一切動かず。マシンはフェードアウトして消える。リタイアだ。それでも救済措置で決勝レースに出られるが、タイムを加算される。
龍一は10位に上がった。そのことは自身もわかったが。
(フロックだしなあ)
自分の力で上がったのではない。フロック、まぐれで上がったのだ。
龍一は、はまってしまったようだった。
ライブ配信は主に上位の選手、マシンを映すから。もう龍一は蚊帳の外とばかりに映されなくなった。
ヴァイオレットガール、フィチ、カール・カイサ、レインボー・アイリーンの4名、4台のマシンが主に映し出されるようになり。話題もその4名、4台に絞られてくる。
(ああ、どうしよ)
2名体制で試合に出て、ひとり調子よくひとり調子悪く、というのは、それはそれで気まずいものだと優佳は憂える。
ソキョンの表情はいたって冷静だ。
時間は刻々と過ぎてゆく。
1位はヴァイオレットガール、2位はカール・カイサ、3位はレインボー・アイリーン、4位はスパイラル・Kことフィチ。
上位の順位の変動は、今のところない。
「ここでレコード更新したかったんだけどね!」
ヴァイオレットガールはやや苛立っていた。1位の順位に満足せず、自身の出したワールドレコード、1分30秒007を更新したかったが。それができないで苛立っていた。
「自分に勝つのって、本当に難しいなあ」
他人が見れば十分健闘しているのだが、それでも本人は満足しない負けん気の強さ。他人に勝っても自分に勝てないことに苛立ちを覚えるほど、勝ちに餓える気持ち。




