Go over 100%! ―100%を超えろ!―
真剣なまなざしで、無言。レース前に余裕を見せたとはいえ、難易度のように100%の余裕があるわけではなかった。
レインボー・アイリーンの方で落雷。ディスプレイが激しく明滅する。
「Wow」
さすがのレインボー・アイリーンも、予選レースのために設定された落雷に驚いた様子を見せてしまった。それからヴァイオレットガールの方でも落雷があった。
「What!?」
若いだけあり、リアクションも大きい。しかし、バランスを崩すことなく、激しい雷雨のディオゲネス市街地コースを疾走する。
この落雷に驚くあまりクラッシュしてリタイヤした参加者は結構多く、「聞いてないよ!」という恨み節も結構多かった。
(洋ゲーだよなあ)
龍一はそれらも含めて洋ゲーの面白さと、とらえるタイプだが。もちろんそうでない人も多く、洋ゲー嫌いも多い。
「甘ちゃんはすっこんでろ!」
洋ゲーはプレイするほどに、そんなメッセージが見え隠れするのである。
ともあれ、ヴァイオレットガールとレインボー・アイリーン。
AIカーを引き連れて、神の怒りほとばしるディオゲネスの市街地コースを駆け抜ける。
周回をコンスタントに重ねてゆき。ついにそのまま10週目に突入した。
フィチはビスケットをほおばりながらディスプレイを見据える。
ほぼ同時にスタートしたヴァイオレットガールとレインボー・アイリーンだが、レインボー・アイリーンがややリードしている。そこは年の功としたところか。
鋭いモーター音が雷雨の中甲高く高鳴る。雨粒がディスプレイにぶつけられ、視界を妨げる。後ろからはAIカーが迫る。
突如ヒビのような稲光り! 激しい明滅!
落雷だ。
ランダムに設定された落雷は、まるでシムレーサーをもてあそぶように音と光の明滅をぶつけてくる。
「OK。上等じゃない!」
洋ゲーの理不尽さが当たり前の中で育ったヴァイオレットガールだ。落雷ごときに振り回されないどころか、闘志がより湧いてくる。
ディスプレイの下では追走されていることを示す矢印デルタマークが右に左にうろうろしている。
さすがのふたりでも引き離すことはできないようだ。
「!!」
連続S字の入口の右、レインボー・アイリーンのイン側にAIカーのフロントノーズが覗く。
「Shit」
やむなく減速して、やりすごす。AIカーはインに並ぶと同時に膨らんできて、接触してこようとしたのだ。
「さすがのアイリーンさんも、ミスをするんですねえ……」
「人間だもの」
優佳とソキョンがそんな会話を交える、
「ママ―」
そんな幼子の声がする。画面には写っていないが、伴侶のアレクサンドラと息子のショーンがそばにいて、レインボー・アイリーンのレースを見守っている。




