Go over 100%! ―100%を超えろ!―
優佳がそれを訳す。
「なにそれ?」
「杜甫の春夜喜雨って詩だよ」
一瞬ぽかんとしてしまったソキョンにフィチは答える。
「レース中は大変だったけど、終わってみれば春のいい雨のように、許せるものだなあと、思って」
「フィチらしいわね」
「でもまあ確かに、やりがいあったね」
「難しければ難しいほど燃える。それがゲーマーさ」
「違いない」
フィチと龍一はもう、選手として予選レースを戦ったのだから、予選通過にご満悦だ。自分の力で危機を、試練を切り抜けるというのは、これ以上にない充実感があった。
チームのSNSアカウントでも龍一の加入と予選通過が告知されたが。それに対して、ようこそ! 頑張れよ! 期待してるぞ! と、歓迎するコメントが書き込まれた。
予選でも何かしらの結果を出せば雰囲気はよくなる。ウィングタイガーも、フィチもプロチームにプロゲーマーとして一定のファンが着いている。
龍一は促されてスマホでSNSアカウントを、それに対するコメントを見て、照れくささが増した。それと同時に、
「頑張らないと」
と、使命感も増したのだった。
龍一はSNSはシンプルなのをひとつ、非公開で持っているだけで。表に出ることは好まず。チームもそれを尊重し、SNSアカウントのことは書いてない。
もっとも、フィチだけでなくソキョンと優佳には知らせて、フォローリクエストが来たので、それを承認して相互フォローしている。
ちなみに最後の書き込みは、一年位前、全国チェーンのうどん店で釜玉うどんを食し、写真着きで「かまたまうめー」と書いたものだった。
それを見た優佳は、
「うどんがお好きなんですね」
とメールで触れていた。
とはいえ、SNSでの書き込みはそれきりだった。ソキョンと優佳もSNS使用を無理強いせず、必要な連絡はメールやボイスチャットでしてくれた。
ともあれ、第一関門は突破した。今日くらいは気楽にやっていいだろう。
コロナ禍でもある。韓国のチーム本拠地の面々は、予選を無事に終えて。
「もっとみんなでいたいけど、今日は解散! 以後はリモートで打ち合わせです」
と、ソキョンの言葉で、帰り支度をして。
「それでは!」
と、すぐさまに帰った。
「では、また何かあれば連絡しますね」
と、優佳も満面の笑顔で言い。ライブチャットはオフラインとなった。
「……。はあぁーーー」
緊張感が一気に抜けて、シムリグを離れて、龍一はそのまま床にあおむけに寝そべった。
プロとして初めての公式戦に挑み、その厳しい条件の予選を通過し、正式にチームに加入できた。
感慨深かった。




