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Sim Racing Novel Faster Fastest  作者: 赤城康彦
44/99

Go over 100%! ―100%を超えろ!―

 龍一はハンドルを握り、ブレーキを踏み。マシンを安定させるようつとめる。

「……!」

「……!」

 ソキョンと優佳たちはひたすら絶句しっぱなし。閉じた口を突き抜けて心臓が飛び出そうな感じだ。

 前輪後輪が並ぶようにブレーキング調整をしていたおかげで、接触しても問題はない。AIカーはアウト側。

 龍一は思い切ってハンドルを右に回し、最終コーナーに突っ込む。AIカーは離れて、後ろに下がる。しかし迫る。追突せんがばかりに。

 コーナーを抜け、立ち上がり。アクセルを踏み込む。モーター音が高鳴る。その刹那、落雷。明滅するディスプレイ、轟く雷鳴。

 雷鳴がやみ、明滅も終われば。ゴールライン。左後ろを指す矢印デルタマーク。

「やぁ……ッ」

「たぁー---ッ!」

 1stの表示! そして、予選通過! の表示。日本版なので日本語で表示された。

 ソキョンと優佳たちはこらえていたものを一気に噴出するように絶叫した。

 どん!

 という、ぶつかる感触。なんと、ゴール後の減速で、AIカーが突っ込んだのだ。

 2台ははずみでスピンしながら吹っ飛び、フェンスに激突するが。

「今更おせーよ。ざっまあ見ろ!」

 龍一は右拳を握り締め、ガッツポーズしざまに吠えた。

 もうすでにレースをフィニッシュし、予選通過は決まっている。これがリアルなら大問題だが。シムレーシングならAIカーの負け惜しみで、ご愛嬌と笑い飛ばせる洒落だった。

 フィチもあれから難なく逃げ切り、無事フィニッシュ!

 1stの表示が出て、それから次に、예선 통과! 韓国版なので韓国語で予選通過! と表示された。

 ソキョンとスタッフたちはソーシャルディスタンスをたもったまま、互いに親指を立てあった。

 フィチも、

「やったよ」

 と、会心の笑みを見せながら親指を立て。龍一も同じように、会心の笑みで親指を立てた。

 男性スタッフのひとりは別にノートパソコンを操作する。

「龍一、チームのウェブサイトやSNSを見てごらん」

 フィチに言われた通り、スマホを取り出しチームのウェブサイトやSNSを閲覧すれば。

 新加入選手の紹介で、自分が紹介され。さらにForza Eの世界大会の予選に通過したことが告知されている。

 紹介欄の写真で、龍一はチームシャツを着ているように写真が加工されていた。これは事前に知らされていたが、こうして見ると照れるのを禁じ得なかった。

 フィチは笑顔で頷きつつ、ふと、口を開く。


 好き雨は時節を知り

 春にたりてすなわち発生

 風に随いて潜かに夜に入り

 物を潤して細やかにしてこえ無し

 野径 雲はともに黒く

 江船 火は独り明らかなり

 暁に紅の湿れる処を看れば

 花は錦官城に重からん


 といったことを、韓国語でそらんじた。

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