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健康オタク悪役令嬢、静かに城内改革を始めます  作者: 南蛇井


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9/30

ゆるいコメディ衝突

 城内の廊下に、アリアの怒号と、騎士や魔術師やメイドたちの弱々しい言い訳が、今日もゆるく鳴り響く。


■アリア vs 騎士団


騎士

「……だから、喉が乾いたらポーションを——」


アリア

「腎臓が!! 死ぬの!!!

 あなたたち、戦う前に内臓が倒れるわよ!!」


 騎士たちは剣より先に水筒を構えるべき状況に追い込まれていた。

 その場にいた見習い騎士など、ビクつきながら水筒を抱きしめている。


見習い騎士

「じ、腎臓が……死ぬ……(震)」


アリア

「そうよ、まず健康! それから戦え!!」


■アリア vs 魔術師


魔術師

「わ、我々はですね……魔力が揺らいだら……“根性”で……」


アリア

「根性で魔力制御しないで!!

 科学で魔法を語らないで!!」


魔術師

「ひっ……!? か、科学……?」


アリア

「いい? 水分が足りないと魔力回路がカラカラに乾くの!

 あなたたちの魔法は、水で動くエンジンみたいなものなのよ!」


魔術師

「エ、エンジンとは……?」


アリア

「説明すると長いから、とりあえず飲んで!」


 魔術師は震えながら水筒を口に運び、

 その瞬間、背後の魔力光がふわりと明るくなった。


魔術師

「……明るい……! 何か晴れたような……」


アリア

「ほら見なさい! 根性じゃなくて水よ!!」


■アリア vs メイド


メイドA

「お嬢様、この……水筒というもの、ちょっと庶民くさくて……」


アリア

「いいわ、じゃあ貴族仕様にしてあげる!!」


 アリアはどこからともなくリボンやビーズを取り出し、

 水筒にぱぱぱっと装飾をつけていく。


 結果——

 銀色ボディに淡いレース、繊細な彫金が施された、水筒とは思えぬ豪華さに。


メイドA

「な……なんですかこれ……」


アリア

「“貴族用水分補給装飾魔具(仮)”よ!!」


メイドB

「めちゃくちゃ可愛い……!!」

メイドC

「こっちの色のリボンは……?」

ルチア

「……あ、あの……お嬢様、このレース……素敵です……!」


 気づけばメイドたちは装飾例を見比べながら盛り上がっていた。


メイドたち

「お嬢様の水筒、持ちたい……」

「色違い作れます??」

「私にもその彫金のやつ……!」


アリア

「ほら、持てばいいのよ! 健康は可愛さで釣るのが一番早いわ!」


■おしゃれ方向に倒したせいで、逆に人気が出る


 翌朝——

 城の廊下を歩けば、あちこちで“チリン”と水筒の金具の音がする。


騎士

「お嬢様、これ……意外と軽くて使いやすいです」

魔術師

「魔力が揃いやすい……気がします……」

メイド

「お嬢様、今日の水筒のリボンは新作ですか!?」


アリア(内心)

(……狙いとは違う方向だけど、結果オーライね)


 こうして王城では、突如“おしゃれ水筒ブーム”が巻き起こり——

 じわじわと、水を飲む文化が浸透しはじめていくのだった。

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