ゆるいコメディ衝突
城内の廊下に、アリアの怒号と、騎士や魔術師やメイドたちの弱々しい言い訳が、今日もゆるく鳴り響く。
■アリア vs 騎士団
騎士
「……だから、喉が乾いたらポーションを——」
アリア
「腎臓が!! 死ぬの!!!
あなたたち、戦う前に内臓が倒れるわよ!!」
騎士たちは剣より先に水筒を構えるべき状況に追い込まれていた。
その場にいた見習い騎士など、ビクつきながら水筒を抱きしめている。
見習い騎士
「じ、腎臓が……死ぬ……(震)」
アリア
「そうよ、まず健康! それから戦え!!」
■アリア vs 魔術師
魔術師
「わ、我々はですね……魔力が揺らいだら……“根性”で……」
アリア
「根性で魔力制御しないで!!
科学で魔法を語らないで!!」
魔術師
「ひっ……!? か、科学……?」
アリア
「いい? 水分が足りないと魔力回路がカラカラに乾くの!
あなたたちの魔法は、水で動くエンジンみたいなものなのよ!」
魔術師
「エ、エンジンとは……?」
アリア
「説明すると長いから、とりあえず飲んで!」
魔術師は震えながら水筒を口に運び、
その瞬間、背後の魔力光がふわりと明るくなった。
魔術師
「……明るい……! 何か晴れたような……」
アリア
「ほら見なさい! 根性じゃなくて水よ!!」
■アリア vs メイド
メイドA
「お嬢様、この……水筒というもの、ちょっと庶民くさくて……」
アリア
「いいわ、じゃあ貴族仕様にしてあげる!!」
アリアはどこからともなくリボンやビーズを取り出し、
水筒にぱぱぱっと装飾をつけていく。
結果——
銀色ボディに淡いレース、繊細な彫金が施された、水筒とは思えぬ豪華さに。
メイドA
「な……なんですかこれ……」
アリア
「“貴族用水分補給装飾魔具(仮)”よ!!」
メイドB
「めちゃくちゃ可愛い……!!」
メイドC
「こっちの色のリボンは……?」
ルチア
「……あ、あの……お嬢様、このレース……素敵です……!」
気づけばメイドたちは装飾例を見比べながら盛り上がっていた。
メイドたち
「お嬢様の水筒、持ちたい……」
「色違い作れます??」
「私にもその彫金のやつ……!」
アリア
「ほら、持てばいいのよ! 健康は可愛さで釣るのが一番早いわ!」
■おしゃれ方向に倒したせいで、逆に人気が出る
翌朝——
城の廊下を歩けば、あちこちで“チリン”と水筒の金具の音がする。
騎士
「お嬢様、これ……意外と軽くて使いやすいです」
魔術師
「魔力が揃いやすい……気がします……」
メイド
「お嬢様、今日の水筒のリボンは新作ですか!?」
アリア(内心)
(……狙いとは違う方向だけど、結果オーライね)
こうして王城では、突如“おしゃれ水筒ブーム”が巻き起こり——
じわじわと、水を飲む文化が浸透しはじめていくのだった。




