しかし全員から猛烈に拒否される
水筒を山ほど乗せたワゴンを押しながら、アリアとルチアはまず騎士団詰所へ向かった。
朝の訓練前で、騎士たちはきちんと整列していた……のだが、その全員が、アリアの差し出した銀色のボトルを前にして一歩引き気味である。
■1. 騎士団の反発
騎士A
「お、お嬢様……その、水筒というやつですが……」
彼は丁寧な笑顔を貼りつけつつ、額に薄く汗をにじませている。
「俺たちは貴族の護衛ですし……水を携帯するなんて、なんというか……
“庶民の旅芸人”みたいで……」
アリアは一瞬で眉をひそめた。
「旅芸人の何が悪いのよ。あの人たちすごい体力よ? 見習いなさい」
騎士A
「は、はい……!」
しかし隣の騎士Bが、さらに困惑した顔で手を挙げた。
騎士B
「お嬢様……喉が乾いたらポーション飲めばよくないですか?」
アリア、瞬時に顔色が変わる。
「だめぇぇぇぇ!!」
騎士団全員がビクッと跳ねた。
「ポーションを喉かわき対策に飲むなんて——腎臓が死ぬの!!
あれを飲むとね、砂糖と魔力成分が身体にずーっと流れ続けるのよ!?
毒よ!? もう毒レベルよ!!」
騎士AとBは青ざめた。
騎士A
「そ、そんな恐ろしいことだったのか……?」
騎士B
「……でも、水って勇者が川で飲むやつじゃ……」
アリア
「勇者を基準にするんじゃない!!
あれは特殊体質よ! 参考にしないで!!」
騎士団は一斉にしゅんとなり、水筒をおそるおそる受け取った。
しかしその顔にはまだ“わかってない”空気が濃厚だ。
■2. 魔術師たちの拒否
次に訪れたのは魔術師棟。
徹夜明けの魔術師たちが廊下に寄りかかり、空気の抜けた生き物のようになっていた。
魔術師
「お嬢様……私たちは魔力の揺れなど……“気合”で抑えておりますので……
水はその……必要になったら……」
アリア
「必要よ!!!! 大事なことだから大声よ!!」
魔術師はビクつきながら水筒を受け取る。
その瞬間——彼の周囲の魔力の光がふわりと安定した。
魔術師
「……あれ? 魔力が……軽い……?」
アリア
「ほら! 絶対脱水だったのよあなた!
水分が足りないと魔力の流れはガタガタになるの!」
魔術師は震え声でうなずく。
「で、では……今日からは……気合と、水で……」
アリア
「気合をやめなさい!! あれ無駄よ!!」
■3. メイドたちのやんわり反発
メイド棟では、もっと穏やかな抵抗が返ってきた。
メイドA
「お嬢様……これを持って歩くのは、その……
“貴族らしさ”が損なわれるような……」
アリア
「貴族らしさより健康よ!!
倒れてからじゃ遅いの!!」
メイドたちは互いに目を合わせ、困ったように水筒を見つめる。
そのとき、端にいたメイドBが小さな声でつぶやいた。
メイドB
「……でも、お嬢様の水筒……なんか、かっこいいですよね」
メイドたちの視線が一斉にアリアの水筒へ。
昨日のルチアの言葉が伏線のようにじんわり効きはじめる。
ルチア
「そ、そうですよね。銀色で……お嬢様とても似合ってますし……」
メイドたちはザワザワしながら、水筒を手に取った。
「……ちょっとだけ持ってみても……?」
「意外と可愛い形……?」
「これ、意外と……アリ……?」
じわりと、興味が広がりはじめた。
アリア(内心)
(ふふ……まずは第一歩ね)
こうして城内では、水筒という“奇習”を巡る、静かでゆるい戦いが始まったのだった。




