水筒配布作戦を決行
アリアはルチアを連れて、王城の一角——魔具室へ向かった。
古びた扉を開けると、内部は魔法具の倉庫とは思えぬほど静かで、薄暗い。
「……あったわね」
棚の最下段。埃をかぶった木箱がずらりと並んでいる。
アリアが箱をひとつ開けると、中には艶やかに光る銀色のボトルが整然と詰まっていた。
“魔力保温ボトル”——魔術師のために作られた、温度を一定に保つ高級魔具。
本来なら重宝されるはずなのに……。
ルチアが首をかしげる。
「お嬢様、これ……こんなにたくさんあって、どうして使われていないのでしょう?」
「簡単よ。水を持ち歩く文化がないからよ」
「……なるほど、用途が……ない……」
ルチアの顔に、妙に納得した諦めの色が広がる。
アリアは額に手を当て、大げさにため息をついた。
「宝の持ち腐れにも程があるわね……!
魔術師用にこんな高性能ボトル作っておいて、誰も使わないなんて!」
アリアはその場にしゃがみ込み、箱を次々に開けては中身を確かめる。
ざっと数えた限り、50本以上はある。これだけあれば、城内の主要メンバーには行き渡る。
「よし、ルチア。これ全部持っていくわよ」
「ぜ、全部ですか!? お嬢様、一応お伺いしますが……何をなさるおつもりで……?」
アリアはきりっと顔を上げた。
「決まってるでしょう。城中に“水筒文化”を広めるのよ!」
ルチアは一瞬ぽかんとしたが、すぐに弱々しい笑みを浮かべた。
「お嬢様……それは……とても斬新で……奇抜で……そして……」
「そして?」
「誰も理解してくれなさそうです……!」
と、涙目。
アリアは肩をぽんと叩く。
「大丈夫よ。最初は何でも抵抗されるものだわ。
でも飲ませれば分かる、水の偉大さが!」
こうして二人は、魔具室から山ほどのボトルを抱えて廊下に出た。
銀色にきらめくそれらは、まるで新時代の象徴のようだった。
「まずは職員から順番に配るわよ。行くわ、ルチア!」
「は、はいっ!」
水筒を積んだワゴンを押しながら、アリアは胸を張って歩く。
その姿は、まるで王城に革命を起こしにきた将軍のようであった——。




