第2話 悪役令嬢、まず水筒文化を広める :魔力暴走=脱水説を確信
アリアは翌朝、執務机に書き散らしたメモを前に、腕を組んでいた。
昨日見た城内の魔力事故——火花が散ったり、魔法陣がぶれたり、魔術師がふらふらしたり——その全てを時系列に並べてみる。
「……どう見ても、“寝不足の新人営業”と“水を飲まない現代人”なのよね」
小さくため息をつく。
貴族社会のはずなのに、魔術師も騎士も、体調管理が根性論に偏りすぎている。
魔力の揺らぎ方は、アリアの目から見ると極めて単純だった。
「魔力回路って、水分量で通りが全然違うのよね……」
彼女は指で机をとんとんと叩きながら、昨夜の一幕を思い出す。
魔術師の手元の炎が不安定に揺れた瞬間、あの独特の“乾いた光”。
あれは——間違いなく脱水のときのサインだ。
「つまり、この世界の“魔力不安定”の原因、半分は……脱水なんじゃない?」
言葉にした瞬間、その確信は凍てつくように鮮やかだった。
魔力学の難解な理論よりずっと、アリアには現実味がある。
この世界の人々は、魔力調整ポーションに依存しすぎている。
水を飲まない、休まない、魔力が揺れたら薬——完全に悪循環だ。
「……まずいわね。これ、たぶん王城全体で倒れる寸前じゃない?」
アリアは椅子から勢いよく立ち上がった。
「いいわ、まずは簡単なところから……“水筒文化”よ!」
この世界に存在はしているのに、誰も使わない謎の魔法保温ボトル。
あれを普及させるだけで、魔力暴走は確実に減る。
これは王城改革の最初の一歩だ。
アリアはぱん、と手を叩いた。
「よし。まずはルチアを呼んで……
王城中に水を持ち歩かせるわ!」
まだ誰も知らない。
この一歩が、後に“水筒革命”と呼ばれる大改革の始まりになることを。




