アリア、決意する
アリア、決意する
ルチアへの“水分補給指導”を終え、自室に戻ったアリアは、
ふぅ、と深く息をついた。
鏡の前に立つ。
そこに映るのは――高慢そうな釣り目、つややかな金髪、堂々とした悪役令嬢の美貌。
(顔は完全に悪役令嬢……
でも中身は、ただの健康オタク一般人なんだよね)
鏡越しに、自分と視線がぶつかる。
「悪役令嬢ルート? 王子攻略?
そんなの、今はどうでもいいわ」
アリアは目つきを引き締めた。
「まずはこの国の生活を整えないと、
原作どころか世界が持たない!!」
そう、問題は恋愛でも陰謀でもない。
城全体の生活習慣の壊滅なのだ。
■転生特典(?)の水筒
アリアは机の引き出しを開ける。
そこには見慣れない、水魔石のついた銀色の細長い瓶――
魔力で保温できる“水筒”があった。
(転生特典か、アリアのコレクションか……まあいいか)
中には、先ほどルチアに沸かしてもらったお湯を入れておいた。
アリアはそれをぐびぐびと飲み、喉を潤す。
「はぁ……生き返る……」
この世界の誰も知らない“常識”を、まず自分が実践すること。
それが改革の第一歩だ。
■アリア、本気の決意
「よし……明日から本格的に改革を始めるわ」
机に水筒をトンと置き、その音が決意のように響く。
「まずは――
この城に“水を飲む文化”を根づかせる!」
その言葉は、悪役令嬢の宣戦布告のように力強かった。
■そして……小さな火種
扉の外で控えていたルチアが、そっと顔をのぞかせた。
「お嬢様……その瓶、なんだか……
とても、かっこいいですね」
「え? これ?」
「はい。こう……“冒険者の装備”みたいで……素敵です」
アリアは思わず微笑んだ。
(……これが、水筒文化の最初の火種になるとは
まだ誰も知らないんだろうな)
悪役令嬢アリアの健康改革は、
こうして静かに始まったのだった。




