第4話 魔動ストレッチ、騎士団を救う アリア、騎士団の肩こり・腰痛事情を知る
水筒文化が広まり、魔力四色御膳も定着しつつある。
「ふぅ……よし、次の健康弱点を探しましょうか」
アリアは手帳を閉じ、満足げにうなずいた。
今日は騎士団の様子を見に行く日だ。
「お嬢様、騎士の皆様は元気と聞きますけれど……」
ルチアが後ろを歩きながら言う。
「健康って、“元気に見える”のが一番危ないのよ。
ほら、現代人だって急に倒れるじゃない……」
アリアが詰め所の扉を開けた瞬間――
彼女の目に飛び込んできたのは、壮絶な光景だった。
全員が肩と腰を押さえている。
「……は?」
アリアの思考が一瞬止まる。
長い机の周辺には、鎧を脱いだ騎士たちが並び、
肩を回せずに呻く者、腰を叩く者、背中をさすりながら座り込む者。
その中央で、騎士Aが呻いた。
「うう……剣の振りが最近重くて……肩に鈍い痛みが……」
続いて、騎士Bが腰を抱えたまま言う。
「腰が痛い……でも魔力で誤魔化せば……なんとか……」
アリアはその瞬間、全力で机を叩いた。
「ダメ!!
誤魔化してるうちに爆発するから!!
あなたたち、完全に運動不足&筋肉の偏りよ!!」
騎士たちが「ひっ」と小さく悲鳴を上げる。
王族の令嬢が突然健康講義を始めるなど、彼らは想定していなかった。
横でルチアがぽつりとつぶやく。
「……騎士なのに運動不足ってどういう……?」
アリアは遠い目をして言った。
「重い剣を振るだけが運動じゃないのよ……
むしろそれだけのほうが筋肉のバランスが悪くて危ないの……」
騎士たちはぽかんと口を開けている。
“筋肉のバランス”という概念すら、彼らの辞書には存在していない。
そしてアリアは悟った。
――この国の騎士団、戦闘の筋肉は強いが、生活の筋肉は壊滅的だ。
「これは……手入れしがいがあるわね……」
アリアの瞳が健康オタク特有の輝きを帯びた瞬間、
騎士団の未来は、静かに大きく変わり始めていた。




