城の生活習慣が壊滅している
城の生活習慣が壊滅している
朝食(※茶色)をなんとか胃に押し込んだあと、アリアは「散歩」と称して城内の偵察に出た。
推しゲームの舞台を実際に歩くのはわくわくする……のだが、現実は想像以上にカオスだった。
■観察ポイント1:運動ゼロ ― 騎士団の衝撃
中庭に出ると、鎧がずらりと並んでいた。
……いや、並んでいるのではなく、座り込んでいた。
「お疲れ様です、お嬢様〜……」
がしゃり、と重い音。
騎士たちが鎧のまま地面に座り、巨大なパンケーキをむしゃむしゃ食べている。
「今日の訓練は“重訓”でして!」
「重訓……?」
「鎧を着たまま、ゆっくり過ごし、重さに慣れる訓練です!」
アリアは目を見張った。
(いやそれ……ただの座り込みでは……?
鍛えるの、筋肉じゃなくて忍耐じゃない?)
しかもパンケーキは山盛りだ。
彼らの膝の上で、茶色い山がゆれる。
■観察ポイント2:睡眠不足 ― 魔術師たちの“徹夜文化”
廊下を歩けば、今度はローブ姿の魔術師がふらふらと歩いてきた。
「あ……アリア様……おはよう……ございます……」
目は半分閉じ、魔力の光がロウソクの火のように揺らぎ、
時折、プチッと完全に消えてはまた点く。
「徹夜で研究してまして……昨日から……24時間? いや……48?」
(うわぁ……完全にブラック研究室……!)
アリアは確信した。
この魔力の不安定さは、魔力切れではない。
(寝不足による集中力低下……!)
現代人が見れば一瞬でわかる、あれだ。
■観察ポイント3:食事がすべて“茶色”
厨房からはバターの濃い香り。
覗いてみると、巨大な鍋で肉が豪快に焼かれ、
あたりは茶色い煙でモクモクだ。
「今日の王族の昼食だ!」
「バター三倍の“豪力ステーキ”だぞ!」
その横で、野菜は……大皿の端に寄せられ、
ただ、しなしなに萎びている。
「この野菜、使わないんですか?」
「野菜? ああ、飾りの担当だ。
力をつけたいなら、茶色に限る!」
料理長が胸を張った。
アリア(内心)
(ただの脂質過多……!
この国の血液、たぶんバターが半分を占めてる……!)
■観察ポイント4:水を飲まない文化
歩いていて気づいた。
誰も水を飲んでいない。
喉が渇くと、みんな腰に下げた小瓶を取り出す。
「それ……ポーション?」
「はい。喉が渇いたらこれを」
中身は薄い甘い香り……回復薬というよりスポドリ。
いや、スポドリにしては甘すぎる。
「水は……飲まないの?」
アリアが問うと、侍女ルチアが目を丸くした。
「えっ……水って、井戸の水のことですよね?
お腹、壊しますよ?」
アリア(内心)
(……せめて煮沸くらいしてよ……!
水を飲まない国って、存在して大丈夫?)
城内を一周したアリアは、ため息をついた。
(この国……滅亡フラグなんて生ぬるい。
生活習慣で滅びる……!)
悪役令嬢としての役割より先に、
この国の健康を立て直すことになりそうだ――と、
静かに覚悟したのだった。




