料理長とのゆる不和
アリアは勢いよく料理長の前にずいっと進み出た。
彼は腕を組み、まるで“完璧な献立を作り上げた英雄”のような顔をしている。
アリア
「料理長……野菜が……ほぼ飾りなのはどういうことですか!?」
料理長
「飾りじゃ!」
即答だった。
迷いなし。誇りすら感じられる声色。
アリア
「飾りの方が高いのよ!? あなた知ってる!?
“加工して飾りにする”ほうが、本来の“野菜として調理する”より
手間もコストも技術もかかるのよ!!」
料理長はひげを撫でて、むむ、と唸る。
料理長
「で、でも……王族は肉を好まれるし……
野菜はその……“家畜のエサ”だと……」
アリア
「なんてことをッ!!」
アリアはテーブルを軽く叩き、身を乗り出した。
アリア
「人間のエサを軽視しないでちょうだい!!
野菜は魂のビタミンよ!? 魔力の巡りも整うし、
そもそも家畜だって健康に育つために野菜食べてるのよ!?
その家畜があなたの肉料理になってるのよ!?
つまり――野菜を軽視すると肉の質も落ちるの!!」
食堂の料理人たちが一斉にざわつく。
料理人たち
「肉の、質……!?
野菜で……変わる……のか……?」
料理長はぐらりと動揺した。
料理長
「そ、そんな馬鹿な……肉の味が変わるのは、
焼き方と愛情だけだと……!」
アリア
「野菜は愛情より重要よ!!!!」
その瞬間、料理長の帽子がぐらりと傾いた。
彼にとって“愛情より重要な要素”が存在するという事実が、
衝撃すぎたようである。
(……やっぱりこの城、栄養知識が中世ファンタジーで止まってる……
いえ、むしろ後退してるかも)
アリアは深いため息をつきながら、
次の改革案を切り出そうと口を開いた――。




