ロイヤル栄養基準の崩壊を知る
アリアは「茶色の三連星」から目をそらし、食堂奥の掲示板へ向かった。
そこには大きな紙が貼られ、誇らしげな文字でこう書かれていた。
《王城食事規定》
ぱっと見は立派だ。
だが中身を読んだ瞬間――アリアは思わず紙を二度見した。
王城食事規定(抜粋)
・主成分は肉であること
・デザートは必ず甘いものを
・野菜は胃の負担になるため飾り程度に
・果物は貴族なので「贅沢品」=砂糖をかけること
・魔術師は魔力消耗が激しいので肉を増量せよ
アリア
「……何この“偏見と誤情報のコロッセオ”みたいな基準は!!?」
紙をつかんでバサッと揺らしながら叫ぶ。
ルチア(震え声)
「お嬢様……こ、こんなに声を荒げられるの、珍しいです……
でも、私も……初めて見ました、こんな規定……」
アリア
「だっておかしいでしょ!?
肉しかないのに魔術師だけさらに増量ってどういう理論!?
野菜を飾り扱いって、装飾品じゃないのよ!?
果物に砂糖をかけるのが“貴族文化”って、逆にお金の無駄よ!!
何一つ栄養学に合ってないじゃない!!」
アリアは規定の紙をまじまじと見つめ、再び叫ぶ。
アリア
「主成分は肉であること――って、何よ!
“肉は正義”みたいに書いてあるけど、正義なら緑色も足しなさいよ!」
震えるルチアがそっと補足する。
ルチア
「……あの……この基準は数十年前から変わっていないそうで……
料理長は“伝統”と呼んでおります……」
アリア
「伝統の名をかぶった偏食よそれは!!!」
食堂の空気がピリッと凍りつく。
料理人たちも、魔術師たちも、騎士たちも――
アリアの手に掲げられた“地獄の基準紙”に釘付けになっていた。
(……まずいわ。この国、健康以前に常識が崩壊している……)
アリアは静かに、しかし確実に悟った。
いまのロイヤル栄養基準を続ければ――
国全体が茶色いまま滅ぶ。




