見た瞬間、アリア固まる ― “茶色の地獄”
――そして、扉を開けた瞬間だった。
アリアは一歩踏み込んだまま、固まった。
王城の巨大食堂。
長い長いテーブルの中央に、朝日を浴びて並ぶ料理――その色は。
全部、茶色。
「…………」
視界の奥まで、茶色、茶色、茶色。
・揚げ肉の山(衣が岩のように分厚い)
・こってり煮込み肉(表面が油で鏡のように反射)
・バターと砂糖で煮たパン粥(もはや飲むスイーツ)
・ベーコン、ソーセージ、そしてもう一回ベーコン
・果物……は砂糖シロップに沈んで発光している
・野菜……は肉の横に“飾りとして”レタスが1枚だけ
あまりの徹底した茶色世界に、アリアの口が半開きになる。
(……茶色……しか……ない)
横でルチアは、もはや諦めきったような声を出した。
ルチア
「お嬢様……ようこそ、王城の“茶色の地獄”へ……」
(名称ついてるの!?)
震えながらテーブルを見つめていると、奥から勢いよく現れた男がいた。
巨大な帽子と白いひげ。
胸を張り、誇らしげに両腕を広げる――料理長だ。
料理長
「おお、アリアお嬢様!
本日の王家の朝食、“茶色の三連星”にございます!!」
アリア
「そのネーミングで誇らないでッ!!!」
料理長は胸を張り続ける。
料理長
「揚げ肉、煮込み肉、炙り肉! この三つこそ王家の力の象徴!
野菜? あれは飾りじゃ! 彩りじゃ!」
アリア
「飾りのほうがコスト高いのよ!!!
せめて食べられる量を乗せなさいよ!!」
食堂中の料理人たちが“え……?”とざわつく。
アリアは額を押さえ、
(これは……想像以上……
むしろよく今まで魔力暴走だけで済んでたな、この国……)
と、静かに震えた。
その日の王城の食堂は、久々に“茶色以外の声”で騒がしくなるのだった――。




