神の祝福
あまり使いたくはなかったが仕方がない。
雛樹の左目の瞳が赤く変化し、グレアノイド発光を見せた。
口に加えていたナイフの刃に意識を集中し、グレアノイド化させてから噛み砕く。
砕かれた黒く変色した刃は赤い光の粒子となり拡散、薄いが強靭な防御壁を生成し……。
一瞬にして空気が膨張し赤い火と熱が爆ぜた。
超至近距離での手榴弾の爆発を防いだ。
だがいかんせん距離が近すぎた。
爆破とそれに伴う鉄片での威力は殺せたが凄まじい音のせいで右耳の鼓膜が割れてしまった。
「そんな……、やられた!!」
爆煙が雛樹の周囲を包んだために後方にいたライアンはひどく絶望した。
自分がもう少し前に出て援護できていればこんなことには……と、後悔した直後に爆煙の中から雛樹が飛び出してきて正面に展開していた敵兵に突っ込んでいく。
「おいおい、馬鹿げてるな。どんなマジックを使ったんだ!?」
床を転がりながらハンドガンで正面に展開した敵兵4人に牽制をかけた。
鼓膜が割れ、頭を揺らされたためにまともに照準を合わせることができない。
だがそれでよかった。
後方にいるライアンが落ち着いて照準を合わせる状況を作ることができれば。
4人のうちひとりの右肩が弾けた。
50口径の弾頭をまともに受けたのだ。
数で勝っていた筈の彼らは散り散りになり展開し直そうとするが、そのうちの一人に雛樹が飛びかかった。
ライフルストックでの打ち込みをかけられたが右腕で受けたあと、後方に回り込んで首関節を破壊した。
あらぬ方向へ向いたままその兵士は膝をつき、倒れこむ。
(あと2人……!)
おかしい。
これだけ仲間を殺害されたというのにこの黒フードの彼らの目から恐れの感情が見受けられない。
雛樹はもう一度鹵獲したアサルトライフル、AK-12を構えて撃つ。
相手と同時に撃ち、雛樹の大腿部を弾が貫通し膝をついたが相手の胴体に3発打ち込み沈める。
だがもう一人いる。
ライフルの銃口がこちらを向いたとき、その横っ腹から突進してきたライアンが敵兵を押し倒して組み伏せた。
『貴様ら何者だ、何が目的だ!?』
『……神よ、我らに祝福を与え給え』
「……っぐ、なんだ、何を言ってる!?」
ロシア語で敵兵に呼びかけたライアンに対し、雛樹が呼びかける。
しかし……。
「こいつッ……」
その敵兵の様子が突然一変した。
白目を向き、口から泡を吐き出し、全身が痙攣しだした挙句静止した。
「自決しやがった……」
おそらく口内に薬物を仕込んでいたのだろう。
ライアンはゆっくりとその場を離れて立ち上がり、雛樹の大腿部を確認した。
弾頭は貫通している、出血量から動脈は逸れているようだ。
「神よ、我らに祝福を与え給えと。神とは……まさかドミネーターのことなのだろうか?」
「おそらく……。奴らを神と崇める人間の出処はわかりやすくて助かるな」
「あのカルト教団ですか。それにしても凄まじい腕だ。驚きました、祠堂雛樹」
「ギリギリだったけどな、いろいろ……いたた。それより頼もしい後方支援だった。貴方も相当腕腕が立つ」
しばらく動かないでいれば気温の低さのおかげで血管が収縮し、止血は容易に行える。
「あなたに比べれば大したことはないですよ。少尉や少佐、他の仲間のことも気がかりです。動けますか、祠堂雛樹」
「問題ない」




