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決死の制圧


 ライアン准尉は夜刀神PMCに所属している祠堂雛樹の事は以前から知っていた。

 彼が本土から来た際に受けていたセンチュリオンテクノロジー入隊試験、そしてその後に行われた結月少尉との手合わせ。

 そのどちらも実際に現地で確認していたが、相当に腕が立つと見ていた。


 今の彼の目に迷いは見られない。 

 なら、このまま任せるしかない。


 雛樹は柱を背にし、飛び出す準備を整えた。

 視線は敵が展開している矢襖の方向に向けながら、垂れ下がった手に3本の指が立てられた

 カウント3秒。

 ライアンは痛む腕から手を離し、50口径のハンドガンの銃口を下に向けつつ身構える。


 雛樹の指が1本ずつ畳まれる。

 3、2、1……。


 連続した銃撃の音が少しだけ止んだ気がした。

 敵が使用している一部のアサルトライフルのマグチェンジのタイミングと重なった。


 2、3挺分の銃撃が一時的に止まった中、雛樹は凄まじい速さで彼我の距離を詰める。

 当然体を射線上に晒しているわけだから銃口がこちらへ集中しだす。

 だが、そこで後方で構えたライアンの援護射撃が集中を乱す。


 50口径のハンドガン、デザートイーグルで打ち出す弾薬は50アクションエクスプレス。

 弾頭の面積が広く、貫通力に優れないが打ち倒す、破壊力に長ける大型獣を仕留めるための弾薬規格。


 ライフル弾のように貫通力が無い分、着弾した衝撃の逃げ場がなくその場で爆ぜる。

 それはまさに可視化された破壊。


 雛樹の援護のため放った3発のうち、1発が敵兵の腕に直撃した。

 まるで小型の爆弾が内側から爆ぜたかのように肉片となり血煙とともに散る。


 人で有る限りその様子を見せられて怯まない者はいない。


(この距離で当てるのか! いい腕だな)


 徐々に近づく敵兵の腕が散ったことを確認した雛樹はライアン准尉を賞賛した。

 そして右方、その直撃にひるみ銃口を上げた敵兵士の懐に飛び込んだ。


 懐に入られた雛樹よりふた回りも体格のいい男はライフルから手を離し、大振りのボウイナイフを抜き放とうとした。

 だが雛樹は懐に踏み込んだ体勢のままかち上げた掌底で顎を砕く。

 

 砕かれた顎はぐにゃりと曲がり、兵士の意識を彼方へ飛ばす。

 後方でライフルを構えた数人の敵兵も仲間の背中がこちらを向いているため射撃をためらっていた。


 雛樹は抜かれようとしていたボウイナイフを奪い、ライフルをつないでいたナイロン製ショルダースリング

を断ち切った。


 敵兵が雛樹に向かって射撃を再開する。

 仲間の背中ごと撃ち抜くつもりで撃ってきた。


 ナイフの刃を口にくわえ、ライフルを奪いながら失神した兵士の左手で胸ぐらをひっつかみ盾にしながらライフルを撃ち突進する。

 

 数人に弾丸を撃ち込むことができたが致命傷ではない。

 こちらはほとんど盾が受けてくれたが右肩にかすめる形で一発もらってしまった。


 ライフルの弾薬が切れたがライフルを投げ捨てながらそのまま突っ込む。

 

「んー……!!」


 ナイフを口にくわえながら、盾となっていた敵兵の腰に装備されていた手榴弾二つの安全ピンを抜く。


 爆発まで3秒……。雛樹は盾となっていた敵兵からハンドガンを抜き取りつつ腹を思いっきり蹴り飛ばす。

 そして自分は柱の後ろに身を隠し、手榴弾2発分の人間爆弾から身を守った。


 血液と肉片が飛び散りひどい有様だったが右方にいた敵兵は全て制圧できたはずだ。

 あとは正面にいる奴らのみ。

 ナイフはまだ口にくわえたまま、奪ったハンドガンの弾倉を銃底からするりと抜き出し装弾数を確認してから弾倉を戻す。

 セーフティーを外しスライドを引いたところで……。


 側面に重いプレッシャーがかかる。


『神に仇なす愚か者に死を』


(仕留めきれてなかっ……)


 半身に爆発による重傷を負った敵兵がナイフを持ち突っ込んできた。

 雛樹はその場で押し倒され、左手でナイフを持つ腕を掴み押しとどめながら、銃口を敵兵の腹に向けた。

 半数を撃ちこんだところで兵士の腕は力なく止まり、雛樹はその体躯を足で押しのけた。

 

(危な……くそ、油断した……)


 ちりん。

 仕留めた兵士が床を転がった時、なにか小さな金属音が聞こえた。

 

「グレッ……!?」


 落ちたのは手榴弾グレネードの安全ピンだった。

 死ぬ間際に抜いたであろうそれは兵士の腰に備えられた手榴弾の爆発を意味していた。


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