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不穏な空気


「アルビナ少佐、防衛任務のための機体が3機到着しました」


「早かったな、結月少尉、内1機に指定場所を伝えろ。残り2機の搭乗者には仮眠をするようにな」


「はい」


 防衛基地内応接室にいたアルビナに、静流は事の進捗を伝えに来たのだ。

 静流はアルビナに言われた通り、ロシア前線基地防衛のために来たセンチュリオンテクノロジー所属3機に通信を入れた。


《こちらライアン、了解です。格納施設付近にて少々仮眠をいただきます……。流石に疲労していたもので助かります》


 最後に通信したのはセンチュリオンテクノロジー所属の若きアメリカ人パイロットだった。

 そのパイロットは到着した3機の中でもっとも経験が浅く、しかし腕のいい男である。

 しかしながらΔタイプ急襲の折、部隊とずいぶん離れてしまいようやくのことで中継地点に到着……したがその後間髪入れず新たな任務が振られてきたのだ。


「はい、4時間ほどですがその間、ゆっくりと休んでいてください」


《しかしずいぶん静かな基地ですね。不気味なくらいに》


「外は寒いですしね」


《いえ、そうではなく……格納庫内には灯りはついているのですがなんだか人がいないような》


「……? そんなはずは。少なくとも二脚機甲用ドッグは今もまだ稼働しているはずですよ」


 少々不可解な部分はあったが、どうやらこの基地の者に挨拶だけでもしておきたかったということらしい。

 ライアンは一度機体を降りて挨拶にだけでも伺うと言い……。


「外は寒いですから、しっかり着こむんですよ?」


《お気遣い感謝します、結月少尉》


 そこで通信は途切れ、通達が終わったことをアルビナに報告する。

 格納庫の状況が気にはなったが静流もアルビナも相応に疲労していたため、しばらく仮眠をとることになった。


……。


「随分冷え込むな……」


 二脚機甲を直立させたままハッチを開放し、降下装置を使ってロシア防衛基地の土地に降り立った。

 下も上もかなり着込んだはずだったがまだ寒さを感じる。

 露出している顔など今すぐにでも凍りついてしまいそうだ。


 近場の格納庫の灯りに向かって歩いて行き、開け放たれた巨大な金属シャッターから中に入った。


『すまない、誰かいないかっ? 方舟から派遣されてきたジョージライアンという者だ。ここの方々に挨拶がしたい!』


 ある程度ロシア語の心得はあったため、人の気配がしない格納庫内で大きな声でそう言った。


 しかししばらくしても人が出てくる気配がなかった。

 格納庫中に聞こえるように叫んだつもりだったが……。


 もう少し大きな声で言うかと大きく息を吸ったところ、冷たく乾燥した空気のせいで肺が驚いたのかさらに大きく咳き込んでしまった。


「げほっ、これはひどい。肺が凍りそうだ……」


『どなたかな?』


 ……と、柱の陰からようやく目当ての人物が現れた。

 先ほどまで作業をしていたと思われる作業用つなぎは機械油にまみれ、いかにもエンジニア然とした人物だ。


『ああ、突然すまない。要請を受けてこちらの防衛へ加わることとなったジョニーライアンという。先ほどど着任したので挨拶だけでもと……私の言葉はちゃんと通じているだろうか?』


『通じているよ。挨拶か、律儀な方だ』


『ああ、それはよかった。他の方はどこに?』


『他なら休憩に行っている』


『そうですか……。困ったな、少しでも挨拶回りしておこうと思ったんだけど』


 ライアンはそう言って困った振りをしながら……腰後ろのホルスターに忍ばせてあるハンドガンにゆっくりと手を伸ばす。

 そして音を立てないようにセーフティを外した。

 

 嘘だ。

 この男の言っている事は嘘だ。

 機械油にまみれた防寒つなぎのわりに露出した顔などの部分に汚れの一つも付いていない。


 それに何より……その男の後方柱の陰。

 血まみれの腕が這い出そうともがいている。


『少しこの格納庫内を見て回ってもいいかい? どんな武装があるか気になってね』


『それはダメだ』


『おっと、それは残念だ。何か見つけたらまずいものでもあるのかな?』


『いいや、勝手によそ者を連れ込むのは禁止されているのでな』


『なるほど、じゃあその後ろにいるけが人は見て見ぬ振りをしたほうがいいかな?』


 瞬間、空気が凍った。


『おっと……まだ生きていたか』


 その男の言葉を聞き終わる前にライアンはすかさず銃を抜き放ち、引き金を連続で引いた。

 乾いた発砲音が格納庫内に木霊こだまする。

 


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