21話ー4脚機甲兵器ー
……。
静流が出撃しようとしている頃、雛樹が搭乗するベリオノイズは廃墟の一角で身を潜めていた。
近接兵器では機甲兵器相手に上手く立ち回れないと踏み、敵機の腰から奪ったライフルを銃口を地面に向けて構えている。
残弾数は24発。
予備弾倉は無し。
現状、一瞬でも気を抜けば狩られる状態にある。
ガーネットが感知した4脚の機甲兵器はこの雪原の中で絶大な機動力を発揮していた。
ロシア語での通信が切れたかと思うと狼の遠吠えとも取れるほど大きな指向性のある音波攻撃が襲ってきた。
索敵のためのレーダーが乱れ敵機の場所を探れず、完全に不意を突かれたためひどく頭を揺らされ目眩を覚えた。
そこを大型のキャノン砲で撃たれ爆風に煽られ雪原に転倒したところ、メインカメラの端で4脚の機甲兵器の姿を捉えていた。
「なんだ……あれ。狼か……?」
雪が多い地域に配備されているからだろう、白い迷彩を施された機体はしなやかな獣の形を取っていた。
こちらを睨め付けるメインカメラには青い光が灯り、背には大型の砲身が備えられているようだ。
倒れている場合ではない。
幸いここは深く雪が積もった場所であり、転倒したことでの損傷はそう深いものではない。
すぐに起き上がり撃退しようとしたが、速度でこちらが上回ることはなかった。
この雪原での4脚の機動力は想像以上に速く小回りが利く。
その上雪面を這うように……まるで狼のように翻弄してくる行動は低く、攻撃の狙いが付きづらい。
一度飛びかかられ、腕に噛み付かれた。
噛みつきといえばひどく稚拙な攻撃方法だと思ってしまいがちだがそうではない。
万力のような力で噛みつき、何らかのエネルギーを敵に流し内から爆ぜさせる兵器を搭載していた。
ベリオノイズの馬力で無理やり引き剥がせたが、あのままだと左腕が付け根から吹っ飛んでいただろう。
「強いな……どうする……? 勝てる気がしないぞこれ……」
こちらが敵二脚機甲に対してイニシアチブを取れていたのは機体の速度と予測不能な動きがあったからだ。
雪原上では機体重量が多く分散している分、4脚の方が沈み込みが少なく速度も機動力も2脚の比ではない。
そもそも海上都市の機甲兵器開発企業の1つ、ガンドックファクトリーが悪地での運用を想定して売り出した機体なのだ。
(ここを支えてる柱は……)
雛樹はモニターでこの廃墟を支えている柱の数を確認した。
おそらくまともに機能しているのは3本の太い柱であり、これを破壊しさえすればこの建物を崩壊させることができそうだ。
ベリオノイズは腰のハーケンを2発射出し、柱に括り付けた。
残り1本の柱は弾薬の残り少ないライフルで狙う。




