20話ー状況把握ー
……。
北方領域第2中継地点。
葉月はセンチュリオンテクノロジーからレンタルしているオペレータールームにて、隊列から外れた雛樹らの行方を追っていた。
しばらくはルートが違えど第二中継地点に向かっていたはずだった機体の識別信号が大きな谷に差し掛かった際に突然途絶え、通信もできなくなってしまってから休むことなく行方を追っていたのだ。
信号が途絶えたのが谷だったために、何らかの理由で落下したと予想した葉月は落下した際にたどるであろうリカバリールートを衛星カメラを使用し確認。
しかし分厚い雲による悪天候により捜索が遅れ、ようやく発見できたときにはペイブロウのシステムが落ちていた。
稼働限界を迎えたことによる待機状態になったのだということは事前の通信から予測できたのだが……ベリオノイズが何故か戦闘用システムを稼働させていたことが気になった。
詳細を追ってみて総毛立った。
ちょうどそこには中規模の街を守る為にロシア軍の戦線が張っており、そのロシア軍と戦闘状態におちいっているのだと判明したからだ。
なんとか通信手段を得て雛樹に止まるように伝えようと思ったが、現在雛樹と戦闘状態になっているロシア軍部隊が判明しある人物に助けを求めた。
「結月少尉……!」
「……ど、どうかしましたか、葉月」
先ほどまでどんな話をしていたのだろうか。
顔を赤くほてらせた静流、そして終始にやにやしている東雲姫乃とノックノックの妹エリスが息を切らせて食堂へ入ってきた自分に目を向けてきた。
「あのっ……ちょっと伝えたいことがあって……」
「葉月、落ち着いてください。白湯です、飲んで」
なにか尋常ではないことが起こっていると察し、静流は自分が落ち着く為にもらってきた白湯を葉月に渡す。
葉月はそれを軽く会釈をして受け取った後勢いよく飲み下した。
飲んだ後1、2回呼吸し落ち着いた葉月は席に着き他に聞こえないくらいの声で内容を伝えた。
「う、うちの社員がロシア軍と戦闘状態に陥っています」
「……ヒナキがですか?」
その一言でようやくことの重大さに気付かされた静流らは眉をひそめて居住まいを正す。
「どこの部隊と?」
「おそらく北方戦線維持のために展開しているアルファ・ドスペーヒ部隊……第1機甲師団」
それを聞いて静流は頭をかかえ、姫乃はあちゃあと小声で言いながら右手で目を覆った。
「ああ、たしかガンドックファクトリーが輸出した機体の! 結月ちゃんの〝妹さん〟がいる部隊だっけ」
「ええ、わかりました。今すぐ私が出ます。葉月、場所は分かりますか?」
「わかります」
「今すぐこちらの端末に転送してください。ことが大きくなる前にかたがつけばいいのですが……。姫乃、こちらから当該部隊へ通信をつないでください」
「私ロシア語わからないよ!」
「繋げさえすれば私が対応します。それとブルーグラディウスのセットアップを。葉月、こちらはこちらで最善を尽くしますので姫乃のバックアップをお願いします」
そう言われた葉月はひょうきんに肩をすくめてみせる姫乃とは裏腹に一瞬言葉に詰まって戸惑ってしまった。
しかし状況が状況のためすぐに首を縦に振り、オペレーションルームに向かう姫乃の後をついていくこととなる。
バタバタと席を立ち始めた紅三点に周りは注目したが、静流が目配せて何でもないので詮索しないでくださいと意思表示。
そういう事は今回が初めてではないため、慣れた部隊の兵士達はそれがどういうことか理解している。
彼らは何もなかったかのように食堂を出て行く静流らを見送り談笑を続けた。
その中の何人かは今回の作戦に参加している他の企業の兵士と面識があり、こっそりと連絡してウチが少しバタつくが何もないから無視してくれと根回しする者もいた。
そんな中ドッグへまっすぐ向かう静流は疲労の中での再びの出撃にため息をつきながら……。
「まったく……世話の焼けるヒト!」
それでも彼のためならと軍服を脱ぎ特殊二脚機甲用スーツに着替えた。




