18話ー追い込まれる二脚機甲ー
スラスターを使用した緊急跳躍回避は隙が大きい。
雛樹は下段足払いをするため急激に動かした操縦桿を、返す刀でさらに押し込んだ。
モニターで青い光をクロスヘアに納めるようにして追い、ハーケンを射出。
撃ち出されたハーケンは吹雪に紛れる敵機の装甲を捉えたらしい。
継続して凄まじい火花が目の前で散り、ハーケンの威力で大きく押し敵機を遠ざける。
「流石にハーケンじゃ装甲は抜けないかッ!?」
そもそもこのハーケンの攻撃力はさほど高いものではない。
よしんばどこかの装甲を抜ければ絡め取り動きを止めることができただろうが……。
眼前に眩いチカチカとした赤い光が瞬いたあと、凄まじい衝撃が幾度かに渡ってベリオノイズを襲う。
モニターが明滅し装甲各部に尋常ならざるダメージがあったことを知らせてきた。
(撃ってきたな……数発もらったか)
数度の赤い光は敵機が使用した銃火器の銃口から放たれたマズルフラッシュだった。
ベリオノイズの正面装甲は先立ってのドミネーターによる自爆により劣化が激しい。
この廃墟で扱える小口径のサブマシンガン程度であればある程度防げるとはいえ、そう何発も受けられるものではない。
廃墟群を使い射線を遮りながら止まることをせず、常に動き続けながら敵機への接近を試みた。
だがどうだ、一向に距離を詰められない。
まるで蜃気楼でも追っているかのような感覚に陥ってしまう。
敵は1機だけではない、それだけに固執してしまうと見事に横槍を入れられ行動を乱された。
このままでは逃げるどころの話ではない。
相手は間違いなく数多くの実戦経験を積んだエリート揃いであり、確実に狩られてしまうだろう。
「破壊せずに止めるなんて悠長なこと言ってる場合じゃないな」
そう、手段を選んでいる場合では……無い。
『索敵システムダウン』
『戦闘システムアクティブ』
『ALL READY』
HUDにポップアップするシステムアナウンス。
グレアノイドコアから出力されるエネルギーの行先が戦闘に必要な各部稼働部に限定された。
雛樹は自分の背に先ほどのまでとは比べ物にならない荷重がかかるのを感じ、操縦桿をより一層強く握りこむ。
背面スラスター部からフィルターで処理しきれなくなったグレアノイド粒子が放出され、白煙と共に噴き出した。
この極寒の環境の中で急激に機体内部温度が上昇し、各機動部より蒸気が上がる。
そして狩人に威嚇するかのようにベリオノイズの隻眼により一層強い赤い光が灯り、それは残光となって尾を引いた。
そして狩人たちは戦慄したことだろう。
先ほどまで軽く翻弄できていた機体の動きが桁違いに速くなり、読めなくなったのだから。
数百メートルは間合いを開けていたと思ったら一瞬にして距離を詰められ白兵戦に持ち込まれてしまう。
廃墟をうまく利用し撒こうとしても廃墟の上を軽く跳んでくる上、気がつけば後方へ回り込まれていた。




