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2話ーΔ級ー

 吹雪のためコクピット内からの視界も悪い。

 しかし極限状態での作戦行動を想定されて組み込まれた装備の中には視界不良の中でも問題なく周囲の状況を把握できるものも存在する。


 頭部と肩部に装備した高精度レーダーを使用し、天候による雪や砂埃などのノイズを一切排除した立体的なマップをリアルな拡張現実としてモニターに映し出す。

 目標までの安全なルートや障害物のアラート、味方機までの距離や期待状況が分かる表示なども映し出すことが可能。

 そのため数メートル先が見えないような吹雪の中でもなんの問題もなく数キロメートル先まで確認ができ行動することができる。


通称バリアブルマッピングシステム。二脚機甲の仕様書などにはVMSと記載されるこのシステムは極地戦用装備としてある程度普及しているがまだまだ改善点も多く大手二社には採用されてはいない。


「……! 前方5キロ地点でドミネーターとの交戦信号確認。各員戦闘補助システムを起動し備え……」


右翼側の索敵をしながら進んでいた1機のコクピットが側面からの衝撃に大きく揺れ、明かりが明滅する。

正面の信号に気を取られて気づかなかった。



右方数km先におびただしい数のドミネーター群がこの吹雪の向こうに存在していたということに。


レーダーの索敵範囲を右方数キロメートルにまで指向性を持たせると、ずらずらとモニターにドミネーターを示す3Dの立体シンボルが浮かび上がる。


「……なんだこれは」


半径1キロにも及ぶα級、β級のドミネーターの群れがモニターいっぱいに表示された。

凄まじい物量だが……それよりも恐ろしいものがその群の中心に位置していた。

まさに山と形容せざるを得ないほど巨大なグレアノイド体。


ドミネーターコロニーという群れを形成する上位種、Δ(デルタ)タイプドミネーター。

大海溝を中心にほぼ世界中で確認されるドミネーターだが、Δ級のドミネーターの報告例はおそらく十数件程しかない希少なタイプとされる。

中でも中国大陸、アフリカ大陸に構築されたコロニーは有名であり現在もその脅威にさらされ続けているという。


方舟の最高戦力、ステイシス=アルマの戦闘記録にも一件しかデータは存在しない。

それも海上を進み方舟に接近してきたΔ級の進撃を押しとどめたに過ぎず、撃滅した記録はない。


今回の任務、北方領土解放戦線の主目標であり、撃滅対象。

人類史にΔ級を撃滅したという記録を方舟が刻む。


方舟の技術が巨大な脅威に届くのだと、排除するに足り得るのだと世界中に誇示するために……


人類を救う。


「じょ……冗談がすぎるぞ……。あんなもの破壊できるのか……?」


《撤退はしない!! Δ級はGNC及びセンチュリオンテクノロジーのウィンバックに任せ、我々は取り巻きを叩く!!》


その呼びかけとともに各ジェントスは戦闘補助システムを起動させた。

背中側に格納されていた光学式キャノン砲一門を右肩のレーダーと換装、左肩には同じく格納していた対グレアノイド徹甲弾頭を装填した50mmチェーンガンがせり出す。

背中側に回ったレーダーは広範囲索敵形態から戦闘用に範囲を絞り動体索敵機能を底上げする形態へ変化。


腰に備えられた武器装備保持ホルダーから対ドミネーター用接近戦武器、高周波アックスを取り出し両手で維持するように構えた。

群れから一体、二体とまるでダムの放流が始まったかのようにこちらへ向かってなだれ込んでくる。

各機体コクピットにけたたましく鳴り響くデンジャーアラートとともにモニターに映されたシンボルがこちらへ向かってくる様は地獄の光景であった。






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