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55話ー因子の力ー

はるか頭上で採掘シェルターの瓦解音がし、少なからず瓦礫が降ってきた。

ここより上で作戦行動中の蘇芳少佐、新田大尉ものっぴきならない状況である。

本土兵の一人がドミネーター因子の暴走により体細胞の異常増殖が止まらなくなり、増殖した細胞が侵食されることで醜く肥大し続けている。


因子を取り込んだ仲間の遺体も3人取り込み肥大化の速度が大幅に上がり、蘇芳のフォトンノイドブレードでも削りきれない状態になっていた。


 このままでは未だ逃走しているであろう本土兵を追うどころではない。


「新田ァ! 全力で攻め立てぇ!」


「と、言われてもですな、姐さん! ぶった切ったそばから倍々で膨らみやがりますぜ!!」


「情報どおりやと取り込んだ核の破壊で止まりはる筈や!」


「核の場所は!?」


「そんなんうちに聞かれてもわかるわけあらへんやろ!」


「ああ、クソ! やっぱろくなことにならなかったな!」


 情報とは先日雛樹の搭乗するベリオノイズが粒子砲で破壊したドミネーターのなりそこないのことであろう。

 その殲滅方法は粒子砲で肥大部分もろとも核を消し飛ばす……という兵器火力に任せたものだったはずだ。


 こういう時のために外では二脚機甲の部隊を待機させてはいるが……。


 自分たちすらも取り込まんとするなりそこないの触腕を切り落としながら、遠くで聞こえる破砕音を聞く。

 この状況でも雛樹らがいる方角を意識し、ある程度の状況を探っている。

 先ほど蘇芳はやけに騒がしい後方の状況を雛樹に探りに行かせた。

 しかし戻ってこないとところを見ると厄介ごとに巻き込まれたらしい。


……−−。


 次々と展開される赤く輝く槍と剣の猛攻。

 ガーネットの防御壁がなければもう何度致命傷を受けていたかわからないくらいの手数にRBは圧されていた。

 今まで相手にしてきたドミネーターとは間違いなく一線を画す存在であることは間違いない。


 こちらの攻撃の予備動作を見てそれに対するカウンターを確実に用意してくる技術の高さ。

 一撃一撃が方舟の最高戦力の防御壁でないと防げない攻撃。


 後方に回りこんだとしても全身に現れる目玉のおかげで意味がない。

 そもそもあの化け物には死角が存在しないのだ。


「っはぁ……はっ……やべェな、オイ……」


 さすがというべきか。RBはひどく負傷した体を引きずっていても有効打一歩手前の斬撃をブラックボックス相手に何度も与えていた。

 大剣から生まれる莫大な推進力での加速、その遠心力を利用した斬撃は赤光の槍を弾き懐に潜り込むのに最適であるが……。


 腕が思うように動かない。

 ただでさえ超高負荷がかかる大剣を振り回しているため、万全の状態でも義手が破損する場合がある。

 爆薬で機能が低下している義手ではまともに振るうことすら難しいだろう。


 だがこうして今一息つけているのはブラックボックスの標的があくまでガーネットに向かっているということと、彼のおかげだろう。


 ガーネットに防御を任せ、懐に潜り込み蹴り上げる。

 通常ならば人間がドミネーターを蹴ったところでどうにもならない。

 αタイプのドミネーターですら体表の硬度と質量は金属と同等かそれ以上のものとなるのだから。


 だが……。


 雛樹はまさしく蹴り上げていた。ブラックボックスとコードを付与された怪物の体躯を。

 宙に浮いたブラックボックスに対し散弾銃の銃口を向け、発砲する。

 圧縮された火薬により打ち出されたグレアノイドペレットは粒子化し、物質化する。

 金属の体表すら引き剥がすほどの威力を持った赤い光に変わったそれはブラックボックスに直撃し、壁に縫い付けた。


「……ッ」


 左目の瞳に赤い光を宿らせた雛樹はドミネーター因子による体組織の侵食を痛みとして感じながら膝をつく。


「しどぉっ!」


「……!!」


 異変に気付いたガーネットが叫ぶ。

 ブラックボックスを壁に縫い付けられたのも一瞬だった。

 尻尾のようにのたうつ部位を使い壁を蹴り、ブラックボックスは膝をつく雛樹に突進してきた。


 因子を巡らせドミネーターの体表のように黒化し、電子回路のような赤いラインが走る。

 拳を握り、その腕で向かってきた怪物を迎え撃つ。

 ドミネーターすら殴り飛ばすその膂力を持って。



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