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誰かさんも混ざりたいみたいです


サファーウィが起きるまで待っていたら昼餉時になった、ということで。

フェニックスの香しい花咲き乱れる西の広場に、また来てしまったわけだが。


セーヤは起きっぱなしだが、知ったこっちゃない。俺には従者Aが付いているから好きに昼寝でもすればいい。従者Aは、すごーく離れて俺の視界に入らないようにしている。声をかけられるのをひどく恐れている様子。


 昨日、ボウにおかしなコト吹き込んだのはおまえだな。


怒りゃしない。命令だったんだろうに。そして、悪いことをしたとも思ってるだろ。


ペロっと親指を舐めたら、セーヤと目が合った。ハンカチが目の前に出現。ほんと細かいよな、こういうとこ。どうせまた汚れる。後でいい。手にあるのは、固パンに野菜と干し肉ちょっぴりを挟んだもの。なかなかうまい。

 

 朝餉はサファーウィのお家で頂いた。たくさんの弟子と一緒に…最初だけ。テーブルがいくつかあって、せっかくだから俺もその一つに加わっていたんだが、おかみさんにぐいぐいと別室に連れ込まれてしまった。


彼女曰く、

『うちのもんと違って弟子はみんな繊細で、主様とご一緒では腹がこなれないのよ』

だそうだ。

あまりの言われ様に大笑いした。同時に気付いた。そういや俺には無神経なヤツしか寄って来ない。


そんな朝餉の時間を思い出し、

「セーヤも私が居ないほうが食事が進みますか?」

つい訊いてしまったが、絶交中だった(宣言してないが)。


「い、や」


なぜ、そんな悲壮漂う顔になる? 

今朝の大笑い事件の時、おまえも居ただろうに。

まあいいや。さっきから気になる従者Aを、首を伸ばして見てやれば、植込みの向こうで大人しくパンを食べている模様。俺の視線に気付いているのに、絶対こっちを見ない。


 少し脅かしてやろう。


腰を上げかけて、引き戻された。


「リグレット、座って」

「……え」

「食べるでしょ、座って」


ああ、半分コしたんだった。まだ残ってたのか。ずっと持たせて悪い事をした。


「ご迷惑でしたね、ごめんなさい」


途端にセーヤが顔色をなくす。いったいどうした。パンだよ、パン、と指差して、ようやく渡してくれた。買った端、熱々で手でキャッチボールしていたら、セーヤが取り上げ、半分に割って渡してくれた。無言の能面にて。今日のこいつは情緒不安定で挙動不審。


 サファーウィが屋台から笑顔で歩いて来る。彼女はこれで三つ目だ。朝餉抜きだから、お腹ぺこぺこらしい。


「主様、ラグーナの村へ行かれるのでしたら、私も連れていってくださいね。ご案内できると思います」


言って、大口を開け、二かじりほどでパンを平らげた。潔し。食べ方を良く知っている。こんなものをチマチマやっていたら、食べ散らかしてしまう。俺の事だが。


「ラグーナに行った事があるのですか?」


機織の契約がしたくて、サファーウィの親父さんとおかみさんにどこがいいか相談したんだ。そうして出て来た村の名が、ラグーナだ。


「ええ、なめし皮を物色によく行きます。良い職人が居るので。でも、良い狩人が居なくて。せっかくの皮も大きな傷が入ってるんですよ。もっとやりようがあるのに」


サファーウィはにこっと笑んだ。


「もしかして…」


おまえが狩りまでしてるんじゃないだろうな? まさかな、と思って口を噤んだが。


「ええ、私だったら、脳天一発で仕留めます。野うさぎ程度ならくびり殺します」

「そう、なのね」


はは、と笑って誤摩化す。引続き、この天使は要経過観察だ。


「そのラグーナの村には網結針や種はあります?」


サファーウィは村に詳しそうだから訊いてみる。


「主様がご入用ですか?」


サファーウィのつり目は、それこそ野うさぎのごとくまんまるになった。


「私じゃなくて、ゼノビアとアンバラが。市場にも見当たらなかったの」


あー、と納得したように頷いて、


「網結針は、売りには出ません」

「え、それじゃ、どうしたら…」

「主様、そんなお顔しないで。網結針は竹筒一本渡せば、彼女達なら自分で作りますよ。手に馴染まないうちは使い難いけれど。帰り際に、手頃な竹を探して折っていきます。それで大丈夫でしょう」

「そうなの?」

「そうです。私も罠網を編みますから、自作の小さな網結針を持っています」

「そうなの!?」

「そうですよ。問題は種の方ですね。どのような作物の種かは知りませんが、農家にとって種は宝石です。次の作付け分しかありません。買うとすれば収穫高に見合った金額を出すことになると思います。それを買うとしても……」


サファーウィが思案顔になる。

種を買うのは、リスクありだな。全部育つわけじゃない。


「難しいのですね?」

「いえ、主様。買えないことはないと思いますが、種は土を選びます。そのために農家は土と種を何期にも渡って作り込んでいくんです。彼女達はどこに何を撒くつもりなんでしょう? ご存知です?」

「いえ、後宮の庭を自由にしていいとは言ってありますが、種は、簡単に買えると思っていたので、いくつか見て、選ぶつもりでいたのです」


土といえば、苗床も持ってきて欲しいとゼノビアは言っていた。苗が育っても同じことだよな。種を植えたくても後宮の土では…あれ? 俺、すごい空回り?


 人の事は言えない。無知の罪だ。


サファーウィが知ってるぐらいだ、故郷の種を持ってきても王都では育たないかもしれないとゼノビアは知っていたにちがいない。アンバラも、網結針が欲しければ自分で作ればいいだけだ。彼女達が本当に欲しかったものは…


「ラシュート」


あいつは知ってたんだ。わかってたんだ。代替えはあるけど無い。

俺だって、大事なものだとわかってるはずだった。

でも仕方ないだろ、燃えちゃったんだ、及ばないとわかっていても代わりを探すしかないだろう、と。


しかない、とか言っちゃうあたりが手に負えない。俺は何の知識も持っていない。それを言う資格はない。


「ラシュートがどうしたの?」


セーヤの手が俺の背を気遣わしげに触わる。…さっき、俺、思わずラシュートを呼び捨てたな。イマサラだけど、様付けしとこう。


「ラシュート様は、必死で探して、後悔して、それでもあのコ達には燃えてしまったと告げただけなのです。そこから先を考えるのは自分ではないと知っていらしたから。私は、無くしたものの代わりを買ってあげれば喜ぶだろうと浅はかなことを考えていたのです」

「リグレットは優しいね」

「違う、こういうの、優しいって言わない」


偽善者という。


「じゃあ、どうすれば良かったと思うの?」

「………」


このやろう、わからないから空回りしてるんだろが!


「思ってること、ちゃんと言ったの?」


首を振ってみせる。

言うもなにも今気付いたんだってーの。言わなくてよかったってば。

俺は、突然のプレゼントに喜ぶ彼女達を想像して、ほくそ笑んでいただけだ。親の扮するサンタクロースとはこんな気分かとも思っていた。が、場合が違う。姑息な自分がとても恥ずかしい。


与えればモノは足りるだろう。喜んでもくれるだろう。だが、彼女達は誤摩化されない。始めるのは自分だと知っているから。そこからの苦労を知っているから。真に満足するのは、苦労が実ってからだ。


 そして俺は、苦労の元すら与えることができないんだ。


セーヤ、優しく背を叩くんじゃない。笑いかけるな。思い上がっていた俺をいっそ殴れ、罵倒しろ。でなきゃ、いたたまれない。


「主様、みんなで考えましょう」


おわっ、サファーウィが居たんだった! どうして忘れてた、俺。 

そうだ、こら、セーヤ、手、手、おまえ、二人っきりじゃないのに慣れ慣れしいぞ。


サファーウィは、クスっと笑んで、


「みんなで考えれば、思わぬところから解決策が転がり出るものです。解決しなくても、口に出せたら気は軽くなるでしょう。うちの弟子どもなんか毎日がその連続ですよ」

「サファーウィ…」


俺、おまえに会えて良かった。鍛冶屋の息子、会ったことは無いが、ありがとう。君が変態のおかげだ。












俺たちが王宮に戻ったのは、夕餉前だった。


裏道探索してたら遅くなっちゃった、えへ。と言いたくなったのは、馬車を降りて少しも歩かず、王太子に出くわしたからだ。こんな所でなにしてる? ミーシャとかくれんぼか?


「ただいま戻りました」


セーヤが膝を着く。心中が言葉でぎっしりでも、俺も黙って腰を落とす。サファーウィと従者Aも右に倣えだ。


「今が帰りか」


不満声だぞ。主語がないが、誰に言った? 


「昨夜は、なにをしておった」


酒盛りだ、悪いか? と俺なら言うが、セーヤは違う。


「サファーウィ殿の身元調査をしておりました」

「一晩かけてか」

「遅くなりましたので、姫の安全のため、夜明けを待ちました」

「明けとな。今がいつかわかって言うか」

「はい。引続き王都を視察しておりました故です」

「セーヤ、ラシュートから報告は受けている。ボウの邸へ行ったそうだな」

「はい」

「それで…ボウは、なんと言った?」

「ラシュートの報告通りです」


そりゃそうだ。ラシュートから全部聞いてるのなら、ここで確認するこたあない。


「…姫は…おまえはなんとした?」


俺がどうしたって? 

王太子の拳は強く握りしめられ、血の気が失せて真っ白。


「私の関与するところにございません」

「それでよい」


俺、関係ないのか。じゃあ、もう俺は辞去してもいいかな。

身じろぎしたのがマズかったのか。


「姫、夕餉はまだか?」


お鉢が回ってきたよ…。


「はい」

「今から食すのか?」

「はい」

「すぐに?」

「はい」


着替えたいから夕餉はその後だが、適当に答える。


「姫の部屋は後宮のいずれに…」


やばい。それ聞いてどうするとか聞き返しちゃいけない。


「わたくしの部屋はまだ決まっておりません」


嘘ついて王太子の詮索を阻止する。


「……わかった」


はあ、よかったと息つきそうになって、慌てて深くお辞儀。王太子が去るまで我慢だ。視線が俺のつむじに当たっている気がするが、我慢だ。だって顔色見ようとして動いたら何か言われそうだろ。そうしてしばらくの間我慢大会が続いた。なんとも迷惑なヤツ。



で、俺は着替えるついでにお湯を使った。別に急がないし。王太子? そんなもん知らん。この体、あまり汗をかかない。それでもさすがに砂っぽかった。サファーウィもお風呂に誘った。でもバスタブ別。狭いから当り前。衝立てもあって全然見えない。


 やっぱりお風呂の改築を急ごう。全然楽しくない。


時折、衝立ての上からしなやかな腕が突き出されるのを盗み見る。


 結構、筋肉ついてるな。


「姫様、もうあがりませんと」


知ってか知らずか、ナタラが俺の視線を遮る。


「もうちょっと」


見ていたい。ほら、指先がちらちら衝立てから…


「殿下がお待ちですよ、きっと」


自分の顔が歪むのがわかる。


「待っているの意味違うわよ、ナタラ」


ヤツはボウのことが気になっているんだ。ミーシャの父親だから。字面だけで顔面は思い出すなよ、俺。


「昨日、殿下に報告したのね? 証文も見せた?」


ナタラに確認。サファーウィに聞かせるためでもある。


「そのようです。ラシュート様がそうおっしゃっていました」

「全部? 包み隠さず?」

「おそらくは」

「そう、それじゃ、口止めしたくもなるでしょうね。ラシュート様から指示はあった?」


俺は、ラシュートという人間を信用しているが、彼の立場は信用していない。従者AからEまでは騎士だ。所属も上司もはっきりしている。ラシュートは識者。賢者ではないし賢者の弟子でもない。イース三賢者と呼ばれる者は各府長官であり、役職名と同義だ。王太子が正妃を役職とみなした考えも、そんなお国柄だからと言える。では識者とはなんだ。誰の配下だ。王宮直轄と言うが、その直轄上司は誰なんだ。王宮って漠然としすぎだろうが。聞かない俺も悪いが、聞いて言うとも思えない……いや、言うかもしれんが、答えは想像できる。


 王宮だよ(爽やか笑顔つき)


絶対こう言う。間違いない。


「いいえ、ラシュート様から指示らしきものはなにもありません。殿下へ報告した事、セーヤ様が戻ってない事、姫様とサファーウィ様がご無事な事を定期的にうかがっていただけです」


俺が暢気に寝ている間、従者が王宮とサファーウィの実家を行ったり来たりしていたわけだ。


昨日、王太子は夕餉の時からずっと後宮の食事室に居たらしい。ミーシャも一緒。で、当然、俺の可愛い羊さんたちも、夕餉は厨房が許す限界まで待ち、それから食べ、ルゥルゥがウトウトし始めるまで、王太子と同室という拷問に遭っていたらしい。可哀想なことをした。


王太子がいつまでいたのかは、ナタラも知らない。彼女達が部屋に戻った後、話し掛けられてしまう雰囲気を察し、さっさと逃げたとのことだ。ナタラでは反論できない。無理を言われても請け合うしかなくなるから。


そして、明けての朝餉と昼餉にも、王太子は現れたらしい。


さっき王太子に会ったのも偶然ではなく、俺たちを待ってた臭い。やだやだ。


「主様、お支度できました?」


え? サファーウィ、もう着ちゃったの?


「あら、主様、ほかほかほっぺ。少し冷ましてから行きましょうね。殿下に見せたくありませんから」


ヤツが居ることが決定事項か! 俺もそう思うがな。それは案の定で。ほかほかしたまま食事室に行ってみれば。


 やっぱりいやがったか、と言わなかった俺を褒めたい。


そこには、遅れて来た俺が悪いとでも言いたげに、仁王立ちの王太子殿下。


 ストーカ? 連続攻撃はさすがに辛いぞ。


食事室の中を覗くと、羊がまた隅っこで固まってるよ。まったくもう。ミーシャは居なさそうだ。どうせ後で来るだろうが。


「ご機嫌うるわしゅう」


ではないようだが、他に言うこともないので挨拶する。そこをどけ。

ナタラとサファーウィは俺の後ろで礼を取る。なぜだかサファーウィが俺の侍女みたいなんだが、気にしたら負けだと思っておこう。


「そなたを待っておった」

「…お待たせして申し訳ありません」


用事があるならさっき言えば良かっただろうに。


「謝る事はない。共に食事をしようと思ったのだ」


うへええ。なに言うの、こいつ。これはハイとは言えん。


「ミーシャ様はいかがされてます? あちらの食事室でお待ちではありませんか?」


ミーシャ! 父! しまった、顔面を思い出した。うわあ、飯がまずくなる。


「妾妃は王宮に出入りできぬ」


今までさんざんやっておいてどの口が言う。俺は今、猛烈にイラついてる。ミーシャ父の顔面を振り払うまで当たり散らしてやる。


「殿下、わたくしは正妃の間には二度と立ち入りません。わたくしの物も何一つ残しておりません。殿下の食事室へも参りません。どうぞ、そちらへミーシャ様をお連れください」


こっちに出てくんな。


「それほどこの身は自由にはならぬ。そなたは自由にしておるようだな」


ちょっと待て。今までさんざん(以下略)。


「わたくしが、お目障りでしょうか?」


離宮案はまだ早いが。行けというなら行く。


「いや、皮肉を言ったつもりはない。許せ」

「…………」


答えようがない。


「あの者達も、自由で、素直で良い。そう言いたかったのだ」


 く も ゆ き 怪しい。


「殿下。入宮はしておりますが、あれらは殿下の妾妃ではありません。ミーシャ様が殿下のたった一人の妃にございます」


妾妃も妃に違いない。正妃は妃じゃなくて役職らしいが。


「わかっておる。そのような意味ではない」


廊下の先が騒がしい。ミーシャが来るのがいつもこのタイミングなんだよなあ。

考えるに、先触れがミーシャに声をかけて、こいつだけ先にここに来るんじゃないか。そこからミーシャが慌てて支度すると、この時間になる。ちったあ待ってやればいいのに。


「では、わたくしはこれで」

「ひめっ」


なぜ立ちはだかる。通せ、こら。またイラつかせたいのか。


「食事を共にせよ。まだ話さねばならぬことがある」


なぜだ、ミーシャも来てるだろ。一緒にか? 親父の顔がちらつくからいやだって。そこ退けよ、という前に真っ赤なドレスが視界を横切った。


「殿下。夕餉はこちらでなさいますの?」


俺をきれいさっぱり無視か。 


「ご機嫌うるわしゅう、ミーシャ様」


平常心平常心。俺まで無礼に振舞ったら、同レベルに落ちる。


「うるわしゅう、リグレットノア様。いつお戻りに? ギュスターブ将軍がご一緒だとうかがいましたが」


 昨日のことはミーシャにも筒抜けか。まさか証文のことまで知らないよな。あれは実の娘にはキツイと思うぞ。


「ミーシャ、勘ぐるでない。ラシュートも一緒だ」

「ラシュート様は昨日お帰りでしたわ」

「従者もおる」

「従者は同席しないと思うんですの」


セーヤだけと俺は同席したと言いたいのか。同衾とでも言えば満足か?


 なんかもーめんどくさい。勝手になんでも思え。俺とおまえは関係ない。


「それではわたくしは、あちらに。みなのお腹をこれ以上待たせるわけには参りませんので」


王太子の横をすり抜けようとしたとき、


「私は主様とずっとご一緒しておりましたよ。ミーシャ様」


サファーウィ、ケンカ売るな。どうでもいいんだよ。


「ミーシャ様もむさくるしい我が家にいらしたことがあるでしょう? 主様は我が家がお預かりしていたのです。それはお聞きになられてない? ずいぶん都合の良いお耳ですね」

「な、靴屋ごときがよくも……。ひどい、殿下、私、傷つきました…」


ミーシャは王太子の腕に身を寄せた。胸の谷間がぐにゅっと歪んでいる。あまりそそらない。セーヤ、ほんとにコレが良かったのか? なんだか俺自身が情けない気分になるぞ。


「いつぞやとお変わりありませんね、ミーシャ様。安心しましたわ」


サファーウィは、ミーシャがセーヤと居た頃のことを引き合いに出したと思われる。それを知ってか知らずか王太子はぎゅっと口を引き結んで何も言わない。庇うことも、諌めることもしない。俺と食事をする件もどうした? 結局お前は何をするために来たんだ? って思ったら王太子と目が合った。痛ましい者を見る目だ。痛ましいの、俺? おまえだろう? せいぜいがんばるんだな。大変だよな、同情するよ。後継者問題に妃に。俺が忠臣だったら、この妾妃をサクっと暗殺するぞ。体よく強国の姫を正妃に迎えたことだし。あながち冗談じゃない、気をつけろ。おまえに忠臣がいたら、だがな。


それはいいとして、ここは俺が収めるのか。まあ、ここは後宮で、主は俺だし。ケンカ売ったのサファーウィだし。当然か。


「サファーウィ。おやめなさい。ミーシャ様、わたくしごときの宮の者が失礼をいたしました」


王太子の無言を了承として、ようやく中へ入れる、と思いきや。


「姫」


まぁだなにかあるんかぁい!!


般若の顔をしたかったが、恐らく可憐な憂い顔になってる。


「明日、共に外出する。空けておくように」


ミーシャも行くのか? と思ったら、ミーシャは勝ち誇ったように微笑んでいる。ということは行くのか? やだな、とは思うが、思うだけ。


「はい」


言うしか無い。再度頭を下げて今度こそ。

と、サファーウィが青竹を振った。枝を打ち払った青竹は、長くしなってひゅんと音を出す。って、おまえ、危ない。そんなもんどこから出した? ミーシャがビビってるぞ。俺もちょっとびびった。


「夕餉が終わりましたら、ここで作業したいのですが、よろしいですか? 主様」


うんうん、と頷いた。学食は課題をやるための場所だ。少なくとも俺はそうだった。安いカフェを何杯も飲んで、わけのわからん先輩の講義に巻込まれつつ、な。


「ありがとうございます、主様」


にこっとブンッが重なって、サファーウィは食事室を仕切るように青竹を振り置き、羊陣地を形成。こっちに入るなとばかりにミーシャを睨む。


 こいつ、意外とガキだ。


呆れるより、それが発見できたことが嬉しい。親近感倍増。

そうしたら、また王太子と目が合った。


 なぜか笑ってる……。


明日、恐ろしいことが起こる、そんな気がした。



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