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詰みかけ転生領主の改革(旧:詰みかけ転生領主の奮闘記)  作者: 氷純
第三章 六歳児と貿易騒動

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第七話  浮き駒に手あり

 パーティーの半ばともなれば子供達も仲が良い者同士で集まり出す。

 親の派閥ごとに別れつつ、更に複数に細分化しているその小集団をソラは絶妙なバランス感覚であっちこっちにふらふらしていた。

 同じ様に所属集団を定めない子供は数人いるが、行く先々で違和感なく迎えられているあたり、ソラは世渡りの上手さが頭一つ抜けているらしい。

 ソラは各集団に新しい話題を持ち込む情報屋のような立ち位置を維持しつつ、手に入った新たな情報を整理する。


「ブライアン男爵領はやや食糧難の兆しあり、トライネン伯爵領は軍の維持に食糧が必須、やはり食糧の輸入先はベルツェ侯爵領しかないか」


 ソラが今回、王都に来た目的は食糧難と財政危機の改善だ。

 解決するには他領の協力が不可欠だが、ソラにはクラインセルト領の運営に口を挟む権限がない。つまり、クラインセルト家の名を出して交渉する事ができない。

 ソラ個人で交渉し、他領から食糧を輸入して、更に財政危機を改善する必要があるのだ。


「やっぱり、難しいか。せめて塩の貿易さえ元に戻せれば……。」


 財政危機の原因となった塩の輸出減少の理由は判明している。

 クラインセルト伯爵は嫌われ者だが、それでも教会派に属し一定の発言力を持っていたのは領地の立地条件が大きく影響していた。

 教会派貴族はそのほとんどが内陸部に領地を構えており、塩を輸入に頼っていた。クラインセルト伯爵家は唯一沿岸部に領地を持つ教会派貴族であり、塩の供給源だったのだ。

 この様な歪な陣営になったのには理由がある。

 教会派が内陸部に領地を構えている反面、魔法使い派は王国の端に領地を構えており、それ故に他国からの侵略を受けやすい。

 侵略を退けるには軍事力が必要であり、魔法はその軍事力に直結する技術だ。

 したがって、魔法使い派は魔法を排斥する教会と敵対する事になり、その領地が王国の端に位置しているために海岸線を独占する派閥となった。

 教会派は必需品である塩を手に入れるためにクラインセルト家を派閥に組み込むしかなかったのだ。

 だが、一昨年に教会派貴族の領地で大量の岩塩が見つかった。

 クラインセルト家は唯一の塩の供給源。ならば、塩が別の領地で確保できるなら、影響力を削ぐことができる。

 教会派とクラインセルト家の力関係は逆転した。

 嫌われ者のクラインセルト家は教会派から閉め出された場合、どこからも相手にされなくなる。一方、塩の心配がなくなった教会派にとっては無能で嫌われ者のクラインセルト家などいるだけ邪魔だ。

 教会派は無茶な要求をするようになってきた。もうしばらくすれば完全に植民地扱いされるとソラは想像している。

 財政危機はこうして生まれ、塩の貿易にはもはや手の打ちようがない。


「食糧が買いたくても元手がなく、元手を稼ごうにも塩が売れない。どうしろってんだよ」


 天井を仰いだソラは七歳とは思えないほど重たいため息を吐き出した。


「ベルツェ侯爵領から食糧を輸入する以外に方法がない。それならどうやって交渉するか」


 ベルツェ侯爵は魔法使い派の貴族であり、クラインセルト家は教会派だ。

 魔法使い派はクラインセルト家の首をおさえる食糧輸出を妨害はしない。食を押さえればその領地に多大な影響を及ぼせるからだ。

 逆に教会派は妨害してくる可能性が高い。クラインセルト家を干上がらせれば植民地のように扱う事ができるため、その利益は計り知れない。

 教会に難癖を付けられないように、形ばかりでも反論を用意する必要がある。


「頭が痛くなりそうだ」


 ソラは呟いてパーティー会場を見回す。

 何かヒントはないだろうかと、つぶさに観察する。教会派内で仲が悪い貴族の空隙を突き、クラインセルト家の発言力を増せないかと思案して諦める。魔法使い派に素早く鞍替えできないかとも考えたが、植民地化されるのは変わらないので却下する。

 何かないかと注意している内、ベルツェ侯爵に目が止まった。

 ──ベルツェ侯爵なら教会派を牽制できるか……?

 ソラが出した結論は出来る、だった。しかし、あまり現実的とは言えない。

 今回の交渉相手はベルツェ侯爵になる。

 交渉内容は食糧を融通してもらいつつクラインセルト領から何かを買わせる事だ。そんな圧倒的にクラインセルト家が有利な条件を飲むとは思えないが、更に教会との対立が表面化すると聞けば、交渉テーブルについてすらくれないだろう。


「急がば回れ、少し息抜きするか」


 いくら策を練っても現実的な案が思い浮かばず、ソラは一休みする事にした。

 適当な子供の集団に歩み寄って声をかける。

 どうやら、魔法使い派と教会派、中立派の三つの勢力が一同に会した珍しい集団らしい。本人達も親の派閥を感じ取っているのか、家の自慢話で張り合っていた。

 その自慢話の中にソラの興味を強く引くものがあった。それは王都での宝くじを主催している貴族家の子息がその売り上げを誇る話。


「王都で宝くじ、ですか?」


 ソラが聞き返す。素早く記憶と照合して、宝くじを主催していると発言したのは教会派貴族の息子だと分かった。


「そうだ。前にウッドなんとかって商会がやってたけど問題を起こしたから、かわりに責任を持って我が家でやっているんだ」


 ソラの瞳がキラリと光ったのには誰も気付かない。


「そのウッドなんとかって商会は潰れましたか?」

「確か、まだ潰れてないはずだよ」


 ソラは礼を言ってその場を離れた。

 そのまま警備の兵に歩み寄って声をかける。


「街の店には詳しいか?」


 警備兵は嫌われ者のクラインセルト伯爵の息子に良い顔をしなかったが質問には答えてくれた。


「ある程度は知っております」

「ウッドドーラ商会は何を扱ってる?」

「……ウッドドーラ商会、ですか?」


 ソラが出した商会の名に警備兵は困った顔をした。


「ちょっと前まで宝くじで稼いでましたが、今何をしているかは分かりません」

「そうか、ありがとう」


 満面の笑みで礼を言うと警備兵はどぎまぎしながら敬礼を返した。

 ソラは思い付いた打開策を検討しながら歩き出す。

 ──教会さん、良い駒が宙に浮いてるぞ。

 過日の敵でも取ってしまえば俺の駒だと、ソラは計画を決めた。



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