第三話 再度、集う者達
ソラ伯爵領の南の海上には、オルスク群島と呼ばれる大小様々な島がある。
複雑な海流を生み出すこれらの島々は、歴代のクラインセルト伯爵家当主を悩ませてきた。
ほとんどが無人島であり、船を使わねば行き来できないため、開発してもさほどの利益が見込めない。
従って、大陸部の塩害対策などの影に隠れ、見過ごされてきた。
そんな島の一つ、名前すらない小島でソラはラゼット達と再会を果たした。
果たした──のだが、
「なぁ、そんなに怒らなくてもいいだろ」
真っ赤な顔で髪を逆立てているサニアから距離を取りつつ、ソラは宥めようとする。
「感極まったんだよ。なぁ、謝るから」
「耳、触った」
「案外、ふわふわしてるんだな。指が埋まりそうな柔らかい感触がなんとも」
感想を語り出したソラは、サニアに潤んだ目で睨みつけられ、押し黙る。
「……ごめんなさい」
ソラは素直に頭を下げた。
「……せめて、手順を踏んでよ。いつも耳ばっかり、もう子供じゃないんだから」
目元を拭って、サニアがそっぽを向いた。
お昼の用意をしてくる、と言いおいて、サニアは魚を取りに行った。
ソラの近くにリュリュが立つ。
「夜も眠れないくらい心配して、その結果があれだとやっぱり怒るでしょ。今回はソラ様が悪いね」
ソラの肩をポンポン叩いて、リュリュはサニアの後を追った。
続いて、ラゼットがソラの顔をのぞき込む。
「とりあえず、宥めておきますけど、後できちんと謝ってあげてくださいね」
呆れた口調で言って、ラゼットは娘のローゼの手を引いてソラに背を向けた。
ローゼがソラを指差しながら「変態さん?」とラゼットに問いかけている。
女性陣が次々とソラに声をかけた流れに乗り、サロンもソラに近付いた。
何を言えばいいのか分からない様子だったが、腕を組んで仁王立ちし、偉そうに顎を上げて口を開く。
「バァカ!」
「……結局それか、しかも今は反論できない」
状況を理解していないにも関わらず的確な言葉をぶつけてきたサロンに、ソラは悔しさを滲ませて呟いた。
昼食を食べ終え、テントなどを片付ける火炎隊を見回った後、ソラは気がかりだった事を先に聞いておこうと周りを見回した。
荷物の点検をしてるらしい姿を見つけ、ソラは声を掛ける。
「サニア、リュリュ、ちょっとこっちに来てくれ」
今日中に出発するため、慌ただしく動き回る火炎隊の邪魔にならないよう、ソラは二人を呼びだした。
倒木に腰掛け、ソラはリュリュに顔を向ける。
「例の新型船だが、隠し通せたか?」
リュリュは手元の鞄から設計図を取り出した。
「建造を一時的に停止してある。設計図はこの通り、盗まれないように持ってきた」
「船大工さん達はウッドドーラ商会が保護してるよ」
サニアが補足し、ソラは安堵の息を吐いた。
建造途中の新型船はまだ半端な出来で、調べたとしても全貌は掴めないだろう。
──まぁ、動力源の魔法陣が分からなければ、動かしようもないか。
目を向けると、意図を察したサニアが自身の鞄から魔法陣が描かれた羊皮紙を引っ張りだす。
「資料室の機密書類はラゼット姉が持ってるよ」
「よし、上出来だ」
──後の心配事は圧密木材の工場だけか。
状況を確かめるためにも、早くクロスポートに向かう必要がある。
ちょうど、火炎隊が片付けを終え、ゴージュとゼズ、ラゼットがソラの下にやって来た。
コルはどうしたのだろうかと、ソラは気弱な料理人の姿を探す。
「……コルのやつ、何やってんだ?」
荷物の横でサロンにポカポカと殴られ、困り顔をしているコルがいた。
こき使えそうな奴だと思われたらしい。
「コル、サロンなんか放っておけ。火炎隊はサロンを肩車してやれ」
コルが申し訳なさそうにサロンの肩を押す。
「使用人の癖に反抗する気か!?」
サロンが喚き始める。
しかし、にこやかに微笑みながら歩いてくる火炎隊の姿を見て、後退りを始めた。
火炎隊には気の毒な事に、慣れていなければ地獄からのお迎えにしか見えないのだ。
怯えるサロンとどうにかして仲良くなろうとする火炎隊のやり取りを横目に、ソラは顔を揃えた家臣団と情報を共有する。
ほとんどはベルツェ侯爵から聞いたものと変わらなかった。
「……旧伯爵領側がやはり問題か」
ソラは地図を頭に思い起こし、ラゼット達が利用した支援物資の輸送路をなぞる。
輸送路の途上の町にいる官吏の顔や名前を思い出し、顔をしかめた。
「官吏による市場への横流しは?」
「いくつかの物資について確認されました。箱や袋へ密かに数字を書いておきましたから、証拠固めも済んでいます」
ラゼットが平然と言ってのけた。
ソラは驚いて数度瞬きする。
「……手際が良いな」
「何度も物資を発注するなんて面倒くさいじゃないですか」
「うん、ラゼットはこうでなくちゃな」
半ば自棄になって、ソラは声を上げた。
ゴージュが苦笑しつつ、話を戻そうと口を開く。
「冗談はともかく、伯爵としての最初の仕事は腐敗官吏の処罰になりますな」
「お父様はもういないから、その辺りは円滑に進むだろう。暴れる前に素早く身柄を押さえればいい」
伯爵となったソラは伯爵領の自治権を持っている。
子爵時代とは違って表立って邪魔をしてくる存在もない。
裏側では、国王から釘を刺されていたりもしているが……。
──そういえば、話しておかないとな。
ソラはジーラ商会連合に関しての情勢を家臣団に伝える。
ゼズが腕を組んで唸った。
「迂闊に手が出せないって事か」
「そうなるな。しばらくは要警戒だ」
ソラの言葉に家臣団は頷きを返した。 情報交換を終えたソラは、そろそろ出発しようか、と立ち上がる。
「火炎隊、出発す──何でこうなるかなぁ」
怯えて泣き始めたサロンに火炎隊が右往左往している光景に、ソラはため息を吐いた。




