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第45話 問題のUSBメモリの持ち主は木戸先生?

 文研のパソコンの調査結果や、教頭先生に言われたことを木戸先生に伝えた。


 無線LANを使用する方式について話すと、木戸先生は名簿を落としそうになった。


「パソコン部の無線LANに接続すると、インターネットに接続できるんだね。学校で使用しているクラウドまで利用するなんて、よく思いついたなあ」


「パソコン部の加賀谷先輩が教えてくれたんですけどね。最初は何を言っているのか、全然わかりませんでした」


「だろうね。僕だって、こんなアイデアは絶対に思いつかないよ。さすがパソコン部だね」


 木戸先生の素直なひと言が、安心感を与えてくれる。


「しかし、教頭先生も人が悪いね。斬新な方式でばっちり対策できてるんだから、追加の調査なんて出さなくてもいいのにね」


「いえ、そんなことはないです。ウィルス感染したUSBメモリは、まだ見つかっていませんし、部室の鍵の閉め忘れについても、見直さないといけません。教頭先生は、文研の弱点を少しでもなくしておきたいと考えてるんだと思います」


「そうかい? 僕は考えすぎだと思うけどなあ」


 木戸先生は眉をひそめて、不機嫌そうな顔をする。


「その、USBメモリだっけ? それが原因だというのがわかってるんだし、無線LANを使った新しい方式を導入すれば、文研のUSBメモリが廃止できるんだから、それでいいじゃないか」


「高杉先生や文研の大半の部員たちは、みんな、そう思ってるんですけどね。俺と部長だけですよ。躍起になっているのは」


「そうだろう。だったら、もう調査を切り上げちゃえばいいんじゃない? 問題になっているUSBメモリが見つからないんだし、教頭先生だって、訳を話せばわかってくれるさ」


 木戸先生が、左腕の袖を少しまくって腕時計を出した。ベルトの太い男性用の腕時計だ。


 銀色の主張の強い時計は、白のジャージに合わない。


「おっと、もうこんな時間だ。部活へ顔を出さないといけないから、またね」


「はい。部活がんばってください」


 木戸先生のひょろりと高い背中を眺める。


 調査を打ち切っていいと先生が言ってるんだったら、それでもいいのかな。


 問題のUSBメモリは見つかりませんでしたと言えば、教頭先生は納得してくれるのだろうか。


「先輩」


 それは、やっぱりまずいんじゃないか?


 そうは言っても、見つからないものはいくら探しても見つからないんだ。


 木戸先生だって、無茶をするなと言っているのだから、もうこの辺りで――。


「先輩っ!」


 柚木さんに大声で呼ばれて、俺は我に返った。


「ああ、ごめん。どうかした?」


「はい。あの、ちょっと思い出したことがあるんですけど」


 柚木さんは、木戸先生の去っていった廊下を見つめている。幽霊の出る道のように、そっと見やって、


「もしかしたら、問題のUSBメモリを持っていった人、わかっちゃったかもしれないです」


 声をいつもよりも小さくして――って、何それ。どういうこと?


「だれなの?」


「たぶんですけど、木戸先生です」


 柚木さんは顔を上げて、決然と廊下の先を見つめる。


「木戸先生を見て、思い出しました。文研のパソコンがコンピュータウィルスに壊されちゃったとき、高杉先生がおっしゃった黒いUSBメモリを見たんです」


「えっ、そうなの?」


「はい。あの日、壊されちゃったパソコンには、黒いUSBメモリが取り付けられていました。先生と山科先輩が職員室から帰ってきたときに、木戸先生が黒いUSBメモリをとって、ポケットにしまっているのを見たんです」


 問題のUSBメモリが持ち出されるところを、柚木さんは目撃していたのか。


「そのときは、何してるんだろうなあって、呑気に眺めているだけだったので、そんなことがあったのをすっかり忘れていました。ですけど、木戸先生のお顔を見て、雷に打たれたような感覚がありました。問題のUSBメモリを持っていったのは木戸先生です!」


 柚木さんの主張が正しいのなら、俺たちは、とてつもない犯罪を校内で発見してしまったことになる。


 こんなことがPTAに知られたら大騒ぎだ。


「柚木さん、ちょっと待って」


「きゃっ」


 俺は柚木さんの手を取って教室へ駆け込んだ。


 扉を手荒く閉めて、さっき座っていた椅子に座り直す。


「もし、木戸先生が犯人だとしたら、まずいことになる。学校の先生が、コンピュータウィルスを振りまいただなんて知られたら、木戸先生はこの学校へいられなくなるかもしれない」


「ですけど、木戸先生があのUSBメモリを持ってるんですよ。それを明らかにしないと、先輩の立場が危うくなっちゃうんですよ!」


「そうだけど、冷静になってよ。こんなこと、迂闊にばらすことはできないよ」


 文研の立場で考えたら、木戸先生の悪事を暴露してしまえばいい。


 だけど、そんなことをして、木戸先生から逆恨みをされたりしないだろうか。


「それでも、わたしたちは、あのUSBメモリを探さないといけないんです。先輩は、このままでいいんですかっ」


「このままでいいはずはないよ。だから、どうしようか考えてるんじゃないか」


 俺たちを苦しめた正体を突き止めたい。だけど、事はそんなに単純じゃない。


 けれど、葛藤するより前に、木戸先生が問題のUSBメモリを所持しているのかを確かめておきたい。


「柚木さん。今後のことを議論する前に、木戸先生が問題のUSBメモリを今でも持っているのか、確かめてみない?」


「確かめる、って言っても、どうやって確かめるんですか?」


「そうだね。方法はいろいろあるけど、あれこれ考えるのは面倒だね。さっさと確認しちゃおっか」


 この間から難しい問題にばかり悩まされているから、いろいろなことを考えながら行動するのが面倒になってきた。


 閉じた扉を開けて廊下を見やる。二階の放課後を出歩く人影はない。


 振り返ると柚木さんがそばに立っていて、怪訝そうに首をかしげていた。


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