表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/164

第39話 無線LANを使え!

 加賀谷先輩を見やった。


「ですが、先輩。難点がいくつかあります。方式が今までよりも難解になることと、自分のパソコンを持っていない人は、クラウドへアクセスできないことです」


「それは、しゃーねえだろ。てめえの部のパソコンの管理は、てめえがなんとかしろ。クラウドはスマホからもアクセスできるが、スマホでファイルをいじるのはめんどくせえからよ。そこは諦めるっきゃねえだろ」


「もし、なんでしたら、ネットカフェを利用すればいいですね。そうすれば、だれでも――」


「それは絶対にだめだっ」


 加賀谷先輩が語気を強めた。真剣な表情で。


「ネットカフェを利用しちゃいけないんですか?」


「ああ。ネカフェのマシンは信用できねえ。無用心に利用すると、またウィルスに感染すっぞ」


「えっ、そうなんですか?」


「ネカフェのマシンはだれが使ってっか、わかんねえからよ。いたずらを仕込む奴らが、中にはいんだよ。だから、ネカフェのマシンで個人情報を扱わないのは基本だぜ」


「そうなんですか。それは知りませんでした」


「マジで重要なことだから覚えときな。ネカフェのマシンで通販なんてやったらアウトだぜ。カードの情報が流出したら、マジで笑えなくなっからよ」


「うそっ!?」


 先生の小さな悲鳴が、教壇の外から聞こえた。


 加賀谷先輩が「けっけっけ」と嘲笑する。


「先生さぁ、あんた迂闊すぎるんじゃねえの? あのパソコンにウィルスを感染させたのも、あんたなんだろ?」


「はい。ごめんなさい」


「クラッカーは、どこにウィルスを仕込んでるのか、わかんねえからよ。パソコンを使うときは、もうちっと用心した方がいいぜ。そこで涼しい顔をしてるお前もな」


 加賀谷先輩が、手にしていたチョークを俺に渡す。


 脂肪のついた腹を揺らしながら、席へと戻る。


 俺も席へ戻り、無線LANとクラウドを利用する新たな方式について話し合った。


 加賀谷先輩曰く、「他にもふたつくらいは案があるんだけどよ」とのことらしいが、パソコンやコンピュータのハイテクニカルな話は、もうお腹いっぱいです。


「ちっと詰めが甘い気がすっけど、教頭ぐれえだったら、この方式で文句は言わねえだろ。

 今日中に報告書をつくって、明日にでも教頭に提出するんだな」


 うそぶく加賀谷先輩を、部長が眠そうな目で見やって、


「なあ、あんた。いっこだけ、聞きたいことがあるんやけども」


 何気ない感じで口を開いたから、加賀谷先輩はびくりと身体を震わせた。


「あっ、はい。なんで、しょか」


「新しいやり方で、いろいろ変わるんはわかったんやけども、結局うちらはなにをすればええん? USBなんとかを使うんを、やめればええんか?」


「あ、いや、それだけでは、だめです。あのですね、あ、あれが、必要です」


 加賀谷先輩はあたふたして、まるでサウナの中にでもいるかのように全身から汗を噴き出す。


「あれとは、なんや?」


「ええと、あれですっ。パソコンに通す、パ、パス」


「パス?」


 部長が細い眉をひそめる。


「むなくん。パスって、なんやか、わかるか?」


「さぁ。パソコンにログインするときのパスワードとは違いますよね」


 パスワードだと思うんだけど、違うのか?


 制服のズボンからスマートフォンを取り出す。


 ブラウザのアイコンをクリックして、検索サイトの入力ボックスに「無線LAN パス」と入力する。


 検索サイトの「検索」ボタンを押下する。


 検索結果に表示されたWebサイトのタイトルで、「WiFiルータのSSIDと暗号化キーを確認する方法」という、それらしい文言が見つかった。


「加賀谷先輩。これですか?」


「ああっ、そう! これだこれ」


 加賀谷先輩はスマートフォンを覗いて声を上げた。


「パソコンから無線LANにアクセスするときは、WPA2のキーや、SSIDの設定が必要だが、その辺は、俺らがやってやる。だけど、IDとパスだけはお前が覚えとけ」


 よくわからないパソコン用語がさりげなく飛び出したぞ。


「要するに、パソコン部にある無線LANに接続するためのIDとパスワードが必要で、それを覚えておけばいいんですね」


「そうだ。どうせ、いちから説明したってお前らじゃわかんねーだろ」


 加賀谷先輩が部長の視線を感じとって、蛸壺に隠れる蛸のように縮こまった。


 柚木さんがとなりから俺のスマートフォンを覗き込む。


「先輩、あの、結局どういう意味だったんですか」


「ああ、ごめん。文研としては無線LANに接続するIDとパスワードを覚えておけばいいって、ノートに書いておいて」


 柚木さんはしばらく茫然として、はっと我に返ってから「IDとパスワードが必要!」とノートに書いた。


 スマートフォンを机の真ん中に置いて、部長や先生と一緒に無線LANの記事を読み込む。


「はぁ。うちらにはいっこもわからんな」


「ほんと。パソコン部のみんなは、こんなのばっかり読んでて頭が痛くならないのかしら」


 先生の感想に激しく同意する。


「前はUSBメモリを差し込むだけでよかったけど、ずいぶんと難しい感じになっちゃったのねぇ」


「仕方ないですよ。こんなに大きな問題になっちゃったんですから。他にいいアイデアもありませんし」


「そうよね。みんなごめんね……」


 先生は深いため息をついて机に崩れ落ちる。


「あたしのせいで」と先生の身体から弱音が聞こえた。


「そんな、むずかしく考えんでええやろ。四つのパソコンをまとめて対応しないで、いっこずつ対応していってもええんやし」


 部長の案を採用して、これで抜かりはないな。


 その後も細かいことを打ち合わせて、部活の終了時間を迎えた。


 報告書の作成は俺が担当し、明日に教頭先生へ報告する。


 決戦の火ぶたは落とされた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ