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第138話 宗形のまわりは美女ばかり?

「きみの妹は、やっぱり可愛いなあ」


 校庭の錆びついた鉄棒にぶら下がりながら、向こうのミニサッカーのコートを眺める。


 比奈子が敵陣の真ん中でドリブルをしている。


「あれのどこが可愛いんだよ。暴力的で女らしさの欠片もないやつだぞ」


「そうか? 元気があって、いいじゃないのさ!」


 如月が鉄棒の柱に抱き付く。気持ち悪く頬ずりして、


「きみの妹は、うちの学校で大人気なのさ。人形のような可愛い上背に、ロリっ気たっぷりのあのフェイス! 天才空手少女のギャップも相まって、特に三年の男子の注目の的さっ」


 比奈子の実兄である俺に、わけのわからない評価を包み隠さずに言い放つ。


「それは意外だ」


「まあ私は、きみの妹の才能をとっくの昔から見抜いていたのさ」


 如月が少しカールした前髪を掻き上げる。


 自分に先見の明があると信じて疑わないドヤ顔に、いらっとする。


「艸加も、そう思うだろう?」


「そうだねえ」


 艸加が赤らめた顔で、「えへへ」と変な声を出す。


「でも僕は、宗形の後輩の方が、好きだなあ」


 後輩って、柚木さんのことか。


「なあ、宗形。あの子って、何組だっけ」


「柚木さんか? 一組だけど」


「柚木さんっていうのかあ」


 艸加が鉄棒に前屈みで寄りかかったまま、「えへへ、えへへ」と垂涎しそうになっているぞ……。


「きみ、もしかして、マジで恋する五秒前、的な感じなのかい!?」


「恋なんて、してないよぅ」


 顔が緩み切って、とんでもないことになってるぞ。


 如月も、「おおっ!」と、うっとうしく後ずさりして、


「艸加に、春が来たあ!」


「そんなの、来てないってえ」


 ハイテンションになって艸加を囃し立てた。


「あのメガネっ娘も何気に可愛いかったし、どうして宗形のまわりにばかり女子が集まるのさ」


 いや、そのうちのひとりは、少しも可愛くない実の妹たぞ。


「有栖川のことと言い、高杉先生のことと言い」


 高杉先生は何も関係ないだろっ。


 如月が、くわっと目を見開いた。おもむろに近づいてきて、


「きみばっかりおいしい思いをしてずるいのさ! というわけでだれか紹介してくださいっ!」


「うわ、やめろっ!」


 いきなり抱きついてくるな!


 必死に引き離すが、如月のすごい力をほどくことができない。


「お前が好きなのは有栖川なんだろ。他の女子に浮気するなよ」


「いいじゃないのさ。堅いことを言うなよ」


 だめだ、こいつ。心の中で嘆息した。


「なあ、宗形。お願いなのさぁ」


「ぼ、僕にも、しょ、紹介、してほしいんだな」


 如月につづいて艸加も近寄ってくるが、


「だったら、さっき会話すればよかっただろ」


 歯に衣着せずに言い返すと、ふたりの緩み切った顔が硬直した。


「さっきは、お前らがしゃべってくれなかったから、微妙に気を遣ってたんだぞ」


「しょ、しょ、しょ、しょうがないじゃないのさ! いきなりだったんだから、しゃべることなんて、できるわけないじゃないかっ」


「宗形は、うちや部活で、いつも話してるから、普通に会話できるのかも、しれないけど」


 言い訳がましいが、自力で仲良くなれないんだな。


「じゃあ、紹介はなしだな」


「そんなあ! 宗形の鬼、悪魔っ!」


 鬼って、如月、お前は小学生かっ。


 艸加も背中をだらりと丸めている。


「しょうがないだろ。俺だって、彼女いないんだから」


「そうだけど、ちょっとくらい分け前があってもいいじゃないのさ。 あ、そうだ! それならコンパでもやらないかね!? 三人で」


 コ、コンパ!?


 艸加が息を吹き返して、


「それ、いいねえ! やろうやろう!」


「いよっしゃあぁ! やる気出てきたのさぁ!」


「ちょ、ちょっと待てっ!」


 息つく間もなく話を進められてしまった。


「会話すらできないのに、コンパなんてできるわけないだろ。冷静になれって」


「そこは、ほら。きみが、うまくやるのさ」


「そうだよぅ。僕たち、親友だろう?」


 こういうときだけ、都合よく友情を持ち出してくるんだよな。


「宗形の、後輩と、ああ。楽しみだなあ」


「宗形の妹がだめだったら、メガネっ娘に乗り換えるのも、ありだな」


 もう止めるのもめんどくさい。勝手に妄想させておこう。


 賢明にボールをシュートする比奈子を見守りつつ、場所を移動する。


 となりのコートでは、うちのチームがサッカーの試合をしていた。


 相手のチームは三年生か。点差は開いてないようだ。


 有栖川の姿を探す。自陣の真ん中やや後方に彼女の姿があった。


 相手のフォワードが正面から攻めてくる。有栖川が腰を少し落として出迎える。


 相手ともつれるたび、首のあたりで括った髪が踊るように揺れる。


 外人のような髪が陽に照らされて、牡丹ぼたんのような色彩を放っている。


 有栖川、がんばれ。


「そういえば、うちのクラスの女子の試合もあったんだな」


 後ろから如月の気の抜けた声が聞こえた。


「ほら。お前の好きな有栖川がいるぞ」


 興味のないていで彼女を指す。


 有栖川は身体を張って守っていたが、相手に抜かれてしまった。


 悔しがっている表情に、不謹慎ながらどきりとしてしまう。


「有栖川も、やっぱりきれいだよねえ」


 艸加が緩み切った顔のまま言う。


「可愛くて頭がよくて、しかも家は超金持ちという噂だからさ! 有栖川はやっぱり最強なのさ!」


 如月、こいつはほんとに調子のいい男だ。


「宗形の妹も捨てがたいが、優雅エレガントな私に合うのは、やはり有栖川なのさ」


「宗形の妹にするのか、有栖川にするのか。どっちかに決めなよ」


「ふ。艸加」


 如月が決めポーズと言わんばかりに前髪を掻き上げて、


「まだ付き合ってもいないというのに、相手を決めるのは時期尚早なのさ」


「え、そうなの?」


 艸加が正直に首をかしげる。


「きみは、ばか正直に決めているようだが、それは危険さ。相手が自分に合うとは限らないからさ」


「僕は、宗形の後輩がいいけどなあ」


 ぼそりとつぶやかれた言葉に、胸が締め付けられる。


「でもさ、有栖川のうちって、本当に金持ちなのかね」


「さあな。金持ちだっていう、もっぱらの噂だが、実は普通だったりするかもしれんしなあ」


「最近の深夜アニメみたいに、今は落ちぶれて超貧乏な財閥だったりして」


「艸加。きみはアニメの観すぎなのさ」


 有栖川家の真実を迂闊にしゃべってはいけない。爆笑するふたりを眺めて、そう思った。


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