表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

121/164

第121話 ひさしぶりに登場した部長は、やっぱり部長だ

 部長は柚木さんと楽しくおしゃべりしている。文化祭を過ぎてから、ふたりの距離はかなり近くなった。


「柚木はんは、今月の球技大会は、なんの球技に出るん?」


「球技大会ですか? まだ決めてないです」


「そうかあ」


「部長は、もう決まってるんですか?」


「うちも、まだ決まっとらんなあ」


 球技大会は、今月末にあるんだっけ。参加したくないなあ。


 球技大会の競技は、サッカーとバレーボールだったかな。ドッジボールだっけ?


「部長って、運動神経はいいんですか?」


「うちか? 運動は、からっきしよ。ほら、うち、デスクワーク派やさかい」


「はあ。そうなんですね」


「運動ができたら、小学生の頃から、絵なんて描かへんと思うよ」


「あ、それもそうですね」


 部長の何気ない言葉に納得するけど、じゃあ狐塚先輩も運動神経は悪いのかな。


 雰囲気的には、めちゃくちゃ運動できそうだけどな。


 部長が柚木さんを見て薄く笑う。


「柚木はんは、見るからに運動はできなそうやな」


「はい。小学生の頃から運動は苦手です」


「ほほ。そうか」


「わたしも、ひなちゃんみたいに運動ができたら、よかったんですけど。体育で何をやっても、うまくできなかったので」


「こればっかりは、生まれもったもんやさかい、仕方あらへんよ。なあ、むなくん」


 部長から急に話をふられて、どきりとした。


「え、ええ。そうですね」


「むなくんも、スポーツはからっきしやもんなあ」


「そうですね。体育の成績も微妙ですし」


「ひなちゃんは、スポーツむちゃできるんか?」


「ええ。あいつは運動神経のかたまりみたいなやつですからね。水泳以外だったら、なんでもできますよ」


「水泳以外なら、なんでもできるんか」


 部長がけらけらと笑った。


「ひなちゃんは、なんで泳げないん?」


「さあ。水が嫌いなんじゃないですかね」


「ほほ。そら、いいことを聞いたわ。その方面で、今度いじめてみよ」


 やっぱり、いじめてたんですね。この人は、もう。


 普段の意地の悪さを見せる部長だけど、微笑んでいる表情には、疲労の色がうかがえる。


「受験勉強は捗ってますか」


 部長に尋ねると、目を細めて眉をひそめた。


「全然あかんわ。勉強してるのに、英語の問題がいっこも解けへんのよ」


 部長は英語が苦手なのか。英語は俺も苦手だ。


「英語、難しいですよね。俺もリスニングが特に苦手です」


「そやろ。文章問題はなんとかなるんやけども、うちもリスニングがあかんのよ。あれ、なんとかならへんの?」


「なんとかならへんのって言われましても、困るんですけど」


「そんなあ。むなくんの、いけずぅ」


 部長が細い腰をわざとらしくくねくねさせて、


「文化祭で勝ったら、うちの願いをなんでも聞いてくれるって言うたやろ。今がそんときやん」


 一度も交わしたことのない約束を持ち出して、意味不明な要求をしてきた。


「なんですかそれ。そんな約束、いつ交わしたんですか」


「あら、忘れたん? 文化祭でスイーツをいっしょに食べてるときに言うとったやん。『困ったことがあったら、俺にいつでも頼ってください』って、少女漫画のイケメンみたいなドヤ顔で」


「そんなことは言ってないでしょ。話を捏造ねつぞうしないでくださいっ」


「くくっ。でも、スイーツをいっしょに食べたことは、否定せんのな」


 部長が意地悪する気で満々のしたり顔で笑う。


 となりの柚木さんから浴びせられる視線がつらいから、余計なことを言わないでくださいっ!


「明文を受験するって聞いたので、一応心配してましたけど、そんな軽口がたたけるんですから、問題ないですね。さっさと帰って受験勉強してください」


「ええん。ややあ。もっと部室におってもええやろ」


「だめです。部長は勉強が足りてないんですから、もっと勉強しないとだめです。それとも、ここで勉強しますか?」


「そんなあ。今日のむなくん、こわいっ」


 苦節一年。部長をやっと困らせることができたぞ。机の中でこっそり拳をにぎる。


「みんな、いつもと変わらんと、部活をやってて安心したわ」


 部長が部室を振り返ってつぶやく。


「文研は、むなくんにまかせて問題なさそうやな。引き続き、部長代理がんばってな」


「はい。部長代理と言っても、副部長の頃から変わったことなんて、してませんけど」


「そらそうよ。むなくんが副部長だった頃から、ずっと部長の仕事をしとったんやから」


 さらりと言い切ったな。この人は、ほんと……。


「むなくんに、いつでも部長の仕事を引き継げるように、うちはむなくんをずっと指導しとったんよ。お陰さんで、すんなり引き継げたやろ?」


「俺に仕事を引き継いでたんじゃなくて、仕事を単に押し付けてただけでしょっ」


「そないなことはないわよ。むなくんってば、被害妄想が強くて困るわあ」


 部長が露骨にドン引きする態度を見せびらかせる。


 身体を乗り出して、顔を柚木さんに近づけて、


「今日のむなくん。機嫌がよくないみたいやから、気をつけてな」


「はあ」


 彼女に呆れられていることに気づかずに、そうつぶやいた。


 部長は、いつまで経っても部長なんですね。呆れるような、嬉しいような。


 いや、嬉しくはないか。どさくさに紛れて、何を考えてるんだ、俺は。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ