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第99話 「黙れ、クソ女が」

「それでは会議は以上。各自行動を開始…ん?」


「失礼します」


「こら!勝手に入るな!」


 会議は終了、解散って時に兵士を押し退けてに誰か来た。


 あの服装は…神の子教の司祭?


「誰だ?部外者の入室を許可した覚えは無い。即刻立ち去れ」


「グラウバーン公爵様ですね?強引に入った無礼は謝罪致します。私は神の子教、ドノー教会を預かる司祭。ライザ・ミレリラと申します。どうか私の話を聞いて頂きたいのです」


 あー…やっぱり。

神の子教会の司祭が来たなら話は聞かなくても解る。


 オークとゴブリンの討伐を中止。

彼らに居住の許可を。とか言うんだろう。


「却下だ。お前達の話は聞かなくても解る。立ち去れ」


「なら話は早い。即刻討伐作戦を中止。オークとゴブリン達に慈悲をお与えください」


「却下だ。奴らは此処で殲滅する。奴らを生かしておく理由が無い。もう一度言う。立ち去れ」


「何故!彼らとて、我々と同じ神の子!今はわかりあえずとも、時間を掛ければ!」


「そうか。だがそれは他所でやれ。他人に迷惑が掛からないようにな。これが最後だ。立ち去れ。次は強制排除する」


「なんと嘆かわしい…貴方方にはいずれ神罰が…」


「黙れ、クソ女が」


「なっ…」


 キレたのは父上ではなく、リーランド団長だ。

司祭を見た途端、表情が険しくなった。あからさまに。


 余程、神の子教が嫌いと見える。


「そんなにオークやゴブリンが好きなら貴様がなんとかしてみろ。人を襲うな、奪うな、迷惑を掛けるな、と説得してみろ。それが出来るなら考えてやる」


「そ、それは…」


「出来ないんだろう?貴様らはいつもそうだ。自分達でどうにも出来ないクセに御立派な事だけは言う。そのくせ、庇護だけはきっちり求める。魔獣が襲って来たらきっちり避難してるクセに、何が慈悲だ。ふざけろ!」


「ぐっ…」


 教会の連中もわかってるんだ。

奴らからすれば、自分達もエサに過ぎない事。

なのに慈悲を与えろなどと言う。

矛盾した連中だ。


「くっ…聖女さえ…『言霊の聖女』さえ見つかれば…」


「何?何か言ったか?」


「…何でもありません。今回の事は神の子教の上層部に報告させて戴きます。王国には正式に抗議文が届くでしょう」


「ああ、好きにしろ。俺も天幕に勝手に入って来た事を抗議させてもらうがな」


「その頃には作戦も終わってる。後の祭りだがな」


「…失礼します」


 悔しそうに歯噛みしながら、司祭は立ち去った。

しかし…彼女が呟いた言葉…『言霊の聖女』?

何か気になるな。


「ジュン君?どうかしたの?」


「あ…あの司祭が『言霊の聖女』とか呟いてたんですけど、何の事かわかりますか?」


「わたくしがお教えしますわ。『言霊の聖女』とは称号ですわ。聖女と名の付く称号はいくつかあるのですが『言霊の聖女』とは神の子教の開祖が持っていた称号だそうですわ」


「『言霊の聖女』の事は私も知ってる。何でも、その力で魔獣を従える事さえ出来たとか。それこそオークやゴブリンともね。そんな実績があるから、神の子教は根強い人気と信者が居るわけだ」


「くっ…私が言える事が無い…」


 なるほど…だから聖女や、それに近い存在の聖人の獲得に躍起なのか。


 しかし、言霊ね。ヤマト王国では広く伝わってる概念だったな。


『言葉には力がある。人を殺す事も活かす事も出来るし、人を変える事も元に戻す事も出来る。だから言葉は選ばなくてはならない。アヤメ様から教わった事ですね』


 そう。昔、母上に教わった事だ。

『言霊の聖女』…『癒しの聖女』はアイシスさんが持ってるけど、他にも聖女と付く称号があるのか。


「他にもあるんですか?聖女と付く称号は」


「ありますわよ。例えば…」


「続きは後にしてくれ。余計な事に時間を取らされた。各自、行動を開始だ」


「…また今度ですわね」


「ですね」


 リーランド団長の機嫌は治っていない。

ボクは神の子教の連中は好きになれないという程度だけど、リーランド団長ははっきりと嫌いらしい。


「さ、ジュン様。急ぎお支度を」


「私達はもう済んでますから」


「うん…うん?まさかメリーアン達も付いて来る気?」


「もちのろんです」


「私達にはジュン様を御守りする義務がありますから」


「ノルンもそのつもりだから、ずっと影の中に居るんでしょ?」


『うっ』


 ノルンもか…魔獣討伐に参加するメイドなんて、他に居ないだろうな。


 まぁ…大丈夫か。

何とかなるし、何とか出来るだろう。


 最悪、森を吹き飛ばしてでも皆を護る。


「ジュン殿。準備が出来たなら陣地の外へ。翠天騎士団が待機してる場所まで来て欲しい」


「あ、はい。了解です」


 準備、と言っても、例のローブを着て剣を持つだけなんだけど。


 すぐに終わったので、翠天騎士団が待機してる場所へ。

翠天騎士団はまだ準備中らしい。

皆、忙しく動いていた。


「何だ、もう来たの…随分軽装だね。大丈夫なのかい?」


「はい。このローブ、見かけよりずっと防御力があるんですよ」


 実際は必要無いくらいに素の防御力は高いのだけど。


「ふうん…確かに良い物のようだね。だが油断はしない事。私の傍に居る限り護ってみせるが、基本は自分で…そこ!早くしないか!」


 まだ機嫌は悪いらしい。

作戦開始までに落ち着いてくれればいいけど。


「ところで…本当にメイドを連れて行く気か?」


「どうしてもと言って聞かなくて。彼女達はボクが護りますから、ご安心を」


「それじゃ本末転倒だろうに。まぁいい。そこそこ戦えそうだしね。足手まといにならないように注意するなら好きにしたらいい」


「リーランド団長。いつまでもそんな威圧感出してないで。いつもより言葉がきついし、アタリも厳しいですよ。ほら、得意のエンジェルスマイルを見せてください」


「誰がいつそんなの得意にした!いいからサッサと準備を完了させろ!」


 副団長さんがとりなしてもダメ。

放っておくしか無いのかな。


「もぅ…大人ぶるクセに、そういうとこは子供なんだから…仕方ありません。ジュン様、御協力を」


「はい?」


「あのですね…ゴニョゴニョ」


 はぁ。そんな事で良いなら協力しますけど?


「リーランド団長」


「ん?ジュン殿、何か?」


「ボク、笑顔が素敵な大人の女性って、好きですよ」


「…はへ!?」


「是非、見たいなぁ。大人な女性、リーランド団長のエンジェルスマイル」


「ほら団長!ジュン様もこう仰ってますから!最高のエンジェルスマイルを!」


「「「「だーんちょ!だーんちょ!」」」」


 状況を一瞬で察した翠天騎士団の声援。

そして眼力に圧されてリーランド団長が折れた。


「し、仕方無いな…こ、これでいいか?」


 それは確かにエンジェルスマイル。

本当に純心無垢な子供のよう…とは言わないが。


「ええ。ありがとうございます。素敵なスマイルでしたよ」


「お、大人をからかうのはやめたまえよ。さ、お前達ぃ、準備を急ぎなさぁいぃ」


「「「「はぁーい」」」」


 チョロい。

あからさまに機嫌が良くなった。

その内、スキップまでしそうだ。

あ、やった。


「チョロ可愛いでしょう?うちの団長」


「ですね」


 あんなにチョロくて大丈夫なのか、ちょっと心配になる程です。


「そこは御安心ください。うちの団長にちょっかいを出す奴は闇から闇へ葬り去って見せます」


「それはそれで大丈夫なんですか?」


 リーランド団長は部下に愛されているらしい。


 ちょっと過剰な程に。

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