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第91話 「君ならどう考える?」

 ミゲルさん達が着席したのを確認してから、ロイエンタール団長の聴取が始まった。


「先ず、名乗っておこう。私はヨシュア・ロイエンタール。黄天騎士団団長だ」


「お、黄天騎士団って…」


「貴族すら独自の判断で裁く権限を持った、七天騎士団の一つ…」


「そ、その黄天騎士団の団長が私達に何の御用で?」


「君達の事は聞いている。そこに居るジュン・グラウバーン殿を誘拐。しかし、道中で改心。彼と友人になり王国へ亡命…とな。間違い無いかね」


「…えっと、はい」


「ザックリと言えば、そんな感じです」


 アイシスさんから聞いた話と変わりない。

ノルンから聞いた話ではもう少し、あれやこれやとあったけど。


「私が聞きたいのは、その誘拐事件の事。そして三年前、帝国が行った宣戦布告無しの奇襲作戦の事だ」


「は、はぁ…」


「何を話せば…」


「先に誘拐事件に付いて聞きたい。君達に彼を誘拐するように命じたのは誰だ?」


「スタンウェイ将軍です」


「戦死したって聞いてますけど…」


 スタンウェイ将軍…確かファーブルネス帝国の伯爵。

父上と戦って敗北した帝国の将軍だ。


「では君達が王国に潜入する際、誰の協力を得た?」


「え?いや…特に誰かの協力は無かった…です」


「俺達は指示された通りに動いただけで…」


「…こう言っては何だが、君達の能力はそこまで高くないように思う。平時ならまだしも戦時中に敵国に侵入、誘拐などという高度な任務が出来るとは思えない。誰か協力者でもいれば話は別だが」


「そう言われても…」


「俺達は本当に指示された通りに動いただけで…やけに詳しく、細かい指示だと思いましたけど」


「細かい?」


「ええ。何月何日何時に此処の警戒が弱まる、とか」


「エストア公国から商人として紛れ込め、とか」


「まるで王国内の警戒網や騎士団の配備状況を完全に知ってかのようでした」


 …王国内の警戒網や配備状況を知っていた?

スタンウェイ将軍が?いや…例の裏切り者が情報を流したと考える方が自然か。


「ふむ、なるほど。では次の質問だ。三年前の奇襲作戦、帝国軍を手引した裏切り者を探している。何か知らないか?」


「いや…俺は何も。アトライアは?」


「無いわ。でも、噂程度の話でもよければ…」


「構わない。言ってみてくれ」


「はい…何でも、奇襲作戦を決行すると決めたのは、王国から裏切り者が出たからだと」


「…それは知っている。その裏切り者を探しているんだ」


「あ、すみません、言葉足らずでした。その裏切り者は、帝国が唆したわけじゃなく、自分から接触して来たらしいです」


「…ほう?」


 自分から接触して来た?

帝国に大金で買収されたわけでも、弱みを握られていたわけでもなく?


「えっと…どういう事だ?」


「つまり、その裏切り者は自分から王国の情報を流したって事よ」


「何でだよ?」


「知らないわよ…言ったでしょ、噂だって」


「…そうか。ありがとう、参考になった。話は以上だ」


「御苦労。下がって良い」


「はっ!失礼します!」


「「「「ふぅ…」」」」


 安堵のため息をしてから、ミゲルさん達は退室。

残ったボク達は話の続きだ。


「…今の話、ロイエンタール殿は知っていたのだろう?」


「いえ。私が知っていたのは裏切り者は何も対価を要求していない、という事だけ。もしかしたらと、想像はしていましたが」


「対価を要求していない?」


「うむ。捕らえた帝国貴族から聞き出した事だ。これも噂程度の話らしいがね」


「それって、ボク達に話していい内容なんですか?」


「構わない。今日は元々、グラウバーン家と情報交換の為に来たんだ」


 しかし、どちらも噂止まりの話。

そして、裏切り者と接触していたのはスタンウェイ将軍のみだったという事。


「用心深いみたいですね」


「らしいな。だが対価を要求しないとはどういう事だ?何の為にそいつは王国を裏切った?」


「不自然ですね。ヨシュアはその辺り、どう考えているのかしら?」


「…さてな。私としては魔帝殿の意見を聞きたいな」


「え?ボクですか」


「うむ。君ならどう考える?」


 裏切り者が何故対価を要求しなかったのか。

この場合、裏切り者の目的を推察しろって事か。


「…想像で良ければいくつか」


「聞かせてくれ」


「では…最初に浮かんだのは帝国に誰かを殺して欲しかった。つまりは復讐ですね」


「…それは無理が無いか?あの日、襲われたのはグラウバーン家だけじゃない。王城も襲われたんだぞ?」


「白天騎士団もです。誰か個人を殺す為に帝国を利用したのだとしても無関係な者が多すぎでは?」


「あくまで想像、推察ですよ。ですが有り得ない話ではないかと」


「ふむ…他には?」


「王国内に混乱を起こし、その間に自ら行動を起こす。例えば、暗殺だったり、盗みだったり」


「盗み?」


「王城に襲撃があった時に、宝物庫に忍び込むとか、火を点けて何か消えてるのを誤魔化すとか。襲撃犯のせいにすれば、色々出来そうですよね」


「…他にはあるかね?」


「あと三つほど。一つは王国そのものが憎く、王国に滅んで欲しかった。二つ目。アデルフォン王国でもファーブルネス帝国でも無い、第三国の介入だった可能性、ですね」


「第三国?」


 つまりは、王国と帝国を戦わせて疲弊させる為に、王国の戦力を削ろうとした可能性だ。

そして戦争を長引かせ、両国が弱った所を一気に攻め落とす。


「それは…ヴィクトル殿下が暗殺された時に考えたけど…」


「裏切り者は帝国に買収されたのではなく、第三国に買収されていたって事か?」


「…それで最後の三つ目は?」


「自分を死んだ事にしたかった。というのはどうでしょう?」


「死んだ事に…」


「したかった?」


「…どういう事かな?詳しく説明してくれたまえ」


「つまりですね…」


 自分を死んだ事にすれば自由になれる人がいる。


 例えば王族。

自由に憧れる王族は多いという。

死んだ事にすれば誰にも探される事も無い。

何者にも縛られず、自由に生きていけるだろう。


 次に犯罪者、或いは犯罪が露見しそうな者。

死んだ事にすれば、それ以上罪を追及される事も無い。

犯罪者の烙印を押されなければステータスに犯罪者と書かれる事もない。

家族に累が及ぶ事も無いはずだ。


「なるほど…確かに。過去に捜査中に容疑者が死亡して、それ以上の追及が出来ず、捜査が打ち切りになった事例は存在する。自分を死んだ事にすれば自由に動けるだろう」


「しかも、自分以外にも大勢の死者が出たとなれば目立たない…実際、あの日に死んだ者は多い…」


「素晴らしい着眼点だ。感服したぞ」


「…ありがとうございます」


「ふふん。うちの息子は凄いだろう!ハッハッハッ!」


 そこまで大した事でも無いと思いますけどね。

相変わらず、父上はボクが褒められるのが嬉しくて仕方ないらしい。


「はい。実に素晴らしい御子息です。王都に帰ったらあの日に死んだ者を再調査してみよう。特に…」


「身分が高い者を優先して、ですね」


「その通りだ」


 帝国に流したであろう、情報はある程度の身分にいないと入手出来ない情報ばかりだ。

少なくとも上級貴族か、それ以上の立場にある者。

七天騎士団の団長も含まれる。


「それでは、私はこれで失礼します。貴重な時間をありがとうございました、公爵閣下。ジュン殿もな」


「ん?泊まって行かないのか?」


「ええ。急ぎ王都に帰りたいので…ん?」


「会議中失礼します!公爵様、急ぎ報告したい事が!」


 突然、グラウバーン家騎士団長のマーマデューク団長が入室して来た。

かなり慌てているようだけど…何かあったのか?


「何事だ、騒々しい。大事か?」


「はい!ドノーのオーク討伐に向かった騎士団二個中隊が全滅!討伐作戦は失敗しました!」


「何だと!?」


 たかがオークの討伐に騎士団二個中隊が全滅?


 一体何があった…?

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