第89話 「ピ」
「ピ」
「「「「かぁわい〜い!」」」」
古代遺物から生まれたのはまさかのフェニックス。
生まれたてのフェニックスの雛は愛らしく女性陣の心を鷲掴みしたようだ。
「…この子、本当にフェニックス?」
「だとしたら、拙い事になるかもしれないわね」
「ピ?」
「そうですね…フェニックスの雛が手に入ったと広まったら…世界中の権利者達があの手この手で奪おうとするでしょう」
「下手すれば戦争ね…」
フェニックスの肉を喰えば不老不死に成れるという御伽話…伝説がある。
その真偽の程は知らないが、世界中にフェニックスに関する御伽話や伝説があり、その殆どにフェニックスは不老不死と関連付けられている。
その伝説上の存在、フェニックスの雛が目の前に。
これが本物なら、かなり厄介な事に…ん?
「あれ?なんか…」
「この子、色が変わってない?」
「ピー…ピィ!」
赤い羽毛だったのが、どんどん変わって…白色に。
「ピピ!」
「真っ白になっちゃった」
「フェニックスって、羽毛の色変えれるの?」
「というか、この子…私達の会話を理解してない?」
どうもそうらしい。
フェニックスだと狙われるというボク達の会話を聞いて、色を変化させたとしか思えない。
心無しか胸張ってるし。
「…ジュン。鑑定で何かわからない?」
「えっと…あ、種族名だけ。デミ・バードと出ますね」
「フェニックスじゃないんだ?」
「デミ・バード…半分鳥って意味?」
「または鳥のような存在って意味かな?」
どちらにせよ、この子はフェニックスでは無いらしい。
それならそれで、この子の正体がわからない。
デミ・バードなんて種族、聞いた事も無いし。
「ピ」
「あ、飛んだ」
「生まれたばかりなのに」
それどころか、この僅かな時間で成長してるような。
最初は赤ん坊の手くらいの大きさだったのが、今はスズメくらいの大きさになってる。
「ん?」
「ピ」
何故、ボクの頭に乗る?
「ジュンちゃんを親だと思ってるのかな?」
「ピ」
「次は私か」
今度はアイシスさんの頭に。
アイシスさんの髪の毛をちょっと啄んでる。
で、そのあとはまたボクの頭に。
そしてまたアイシスさんの頭に。
これを何度か繰り返して、雛は眠った。
「取り敢えず、危険な存在じゃなさそうだけど…」
「今の行動は何?」
「…ボクとアイシスさんからMPを吸ってたんだと思います」
「MPを?」
「ええ。ほんの僅かですけど」
うん。私もそう感じた。
で、今は満足そうな顔で眠ってる。
「つまり、この子はジュン様とアイシスさんのMPが食事という事ですか?」
「そうなるかな」
「特定の人物のMPを糧にする鳥?そんな鳥、いえ、生物は聞いた事ありません」
「ですね。ボクもありません。何か知ってる人は…居なさそうですね」
この場で知ってる人は居らず。
事前に念押しされた通り、エメラルダ様に会いに行く事に。
今回は途中でビッテンフェルト団長やクリムゾン団長に出会う事は無く。
ラティスさんにアイシスさん達とノルン。
そしてセーラさんが強引に付いて来た。
「ふむ…デミ・バードか」
「はい。ボクとアイシスさんの二人で暖めた為か、ボク達のMPを糧にするようです」
「そうか。文献にあった通りだな」
「え?文献?」
「デミ・バードについて書かれた文献があるんですか?」
「ああ。それもまた古代の遺物だがな。古代の魔法生物について簡潔な情報が書かれた文献だ」
「魔法生物…って何?ジュン」
「魔法生物というのはですね」
ある種の媒体、素材を元に魔法陣や独自の魔法を駆使して造られた人口生命体。
古代文明に存在した技術体系で、現在ではほぼ失われた技術だ。
アデルフォン王国にもあるが、一部の研究機関で再現しようとしてはいるが今、現在において成功したという例は無い。
「ふうん…あ、じゃあ、この子が魔法生物だってバレたら…」
「各国にある研究機関は欲しがるでしょうね」
「ピ?」
「あ、起きた」
ノルンの手の上で寝ていたデミ・バードの雛は、キョロキョロと見回すとボクとアイシスさんを見て安心したようにすると、ボクの頭に乗って大人しくなった。
「ふむ…デミ・バード…文章のみの記載だったから孵化するまで解らなかったが、文献にはこう記されていた。『魔法卵を暖めた者を親とし、親のMPを糧に生きる。能力は様々な鳥に擬態・変身し、その特殊能力の一部を使う』だ」
「ジュン君とアイシスを親と思うのは解るけど…何故、ジュン君とアイシスだけにあの卵が反応したのかはわかりませんね」
「魔法卵に関しての記載は無かった。だから解らなかったんだ」
ふむ…やはりこの子はフェニックスでは無く、魔法生物のデミ・バード。
今のこの白い鳥の姿は…何だろう?知らない鳥の姿だな。
「その白い鳥の姿は私も知らない。そもそも生まれたばかりだから、まともに変身出来ないのかもしれないが…もしかしたら、その姿がデミ・バード本来の姿なのかもな」
「ピ」
そうか…幾ら様々な鳥に擬態・変身出来ると言ってもデミ・バード本来の姿がある筈。
それが今のこの姿、か。
「それでアイシス。この子、どうするの?」
「どうするって?勿論、飼う…育てるけど?」
「私としては譲って貰いたいがな。面白い研究対象だ」
「ピピ!?」
研究対象という言葉に不穏な物を感じたのか、デミ・バードはボクの後頭部に隠れた。
やはり、正しくボク達の言葉を理解してるみたいだ。
「エメラルダ様。すみませんが、この子が嫌がっているようですので」
「…そのようだな。しかし、どうする?先も言ったように、その子がデミ・バードだとバレたら面倒な事になるぞ?」
…う~ん。
ボクの問題はジドさんに付与してもらったフェイクとハイドの御蔭でほぼ解決出来た。
しかし、此処で新たな問題か。
「え?そんなの…この子自身でどうにか出来そうじゃない?賢い子みたいだし」
「この子自身でって…どうやって?」
「それはこの子次第だね。ねぇ、君。君の正体がデミ・バードだって周りに知られないように隠す事は出来る?」
「ピピ!」
アイシスさんの言葉に頷いたデミ・バードはまた姿を変えた。
今度は…フクロウ?小さな、手乗りサイズの梟に姿を変えた。
「ピ!」
「ほう?セージ・オウルか」
「セージ・オウル?」
「セージ・オウル…精霊の一種ね。森に棲む精霊で、森の守り神とも言われる精霊よ。多彩な魔法の使い手で、とても賢い鳥よ」
「流石、ティータ。物知りさん」
「で、そのセージ・オウルの魔法で正体を隠せるの?」
「ピー…ピピ!」
「お、おお?」
「な、何か…目の前にいるのに、目の前にいないような?」
「わかる…言葉にしづらいけど、なんか気配が薄くなったような」
これは…認識を阻害してる?
他者から認識され辛くする魔法…いや能力か?
「セージ・オウルの能力、気配遮断と認識阻害ね。初めから此処にいって認識してたから、私達には認識出来てるけど、そうじゃない人にはこの子が目に入らない、入っても気が付けない筈よ」
「能力?魔法じゃないんだ?」
「ええ。セージ・オウルはこの能力がある為に滅多に見つけられないの。別名『隠者』なんて呼ばれるくらいよ」
「へぇ…デミ・バードはそんなセージ・オウルの能力が使える、と」
「凄いじゃん!って、なんかジュンちゃんも気配が薄くなってない?」
「え?もしかして、ボクにも能力を使ってる?」
「ピピ!」
「セージ・オウルは精霊だからな。契約者には力を貸す事が出来る。この場合は親である二人になるのかな」
「デミ・バード、凄いじゃん」
つまり…デミ・バードを連れて歩いている限り、周りから認識されなくなった、と。
此処まですればボクもアイシスさんも、称号を盗み見される事はほぼ無いだろう。
「問題解決、か。面白い研究対象なんだが、これはもうアイシスの物。取り上げる訳にもいかんか。ではせめて、卵の殻をくれないか。それだけでも調べてみたい」
「え?いいですけど…もう捨ててないかな」
「いえ、一応持って来てますよ」
「あ、そうなの?じゃあエメラルダ様、どーぞ」
「すまないな。ふむ…殻の内側に紋様…これは確か…」
もう夢中になってる。
用件は終ったし、邪魔しないように帰った方が良いかな。
「エメラルダ様。ボク達はこれで失礼します」
「失礼します、エメラルダ様」
「どーする?王都で買い物してく?」
「まだお昼前だしね~いいかも」
「ケーキ食べに行こうよ」
「あ、ああ、待てお前達。陛下が気にされていたが、武芸大会のエントリーは済んだのか?」
「あ。まだですね」
「なら済ませておけ。もうすぐ締切だぞ」
「はい。これから行って来ます」
「うん。デミ・バードの事でまた何か解かったら教えてくれ」
そうして武芸大会の参加受付のある闘技場へ。
試合が無い日の闘技場は人の少ない場所なのだが、今日はそれなりに集まってる。
「この人達も武芸大会にエントリーするのかな?」
「でしょうね」
「王国中の強者が集まってる…何だかワクワクしてきた」
「アイシスが脳筋な事言ってる」
「いつもの事だね」
まだ参加受付期間中に過ぎないのだが、闘技場の周りには参加者と思しき人達で溢れていた。
騎士や兵士だけでなく、冒険者からも参加するし普段は荒事とは全く関係の無い仕事をしてる人も参加する。
ただし、他国の人は参加出来ない。
「皆さんは参加するんですか?」
「あたしは出るよ。当然、弓部門で」
「私は出ない。槌部門とか無いし」
「私は出ます。槍部門で。団長は?」
「私は出ないわ。団長クラスは遠慮するように陛下に言われてるし」
ボクとアイシスさんも、言われたな。
他の者に目立つ…活躍の場を与える為に、って。
ん?何かボクの名前が聞こえたような。
「魔帝と剣帝…か。ほんとに出るのかよ?」
「二人共若いからな。特に魔帝は今年成人するような若僧だ。己の存在を周りに認めさせるのに絶好の場だ。必ず出て来るさ」
「何でそう言えるんだ?」
「二人共十代で『帝』に至るような才を持つ者だぞ?そういう奴は大抵自信家で自惚れが強く、功名心も高い。出ない筈が無い」
「ならいいけどよ。オレァ剣帝をブッ倒して七天騎士団に鳴り物入りで入団して一気に上に行く予定なんだ。出てくれねぇと困るぞ」
「そんなに不安なら挑戦状でも送り付けたらどうだ?」
「お!いいな、それ!」
…デミ・バードの認識阻害の御蔭でボクとアイシスさんが此処にいる事は周りにバレてない。
本人達の眼の前で会話してるなんて夢にも思わないだろうな、この人達。
そして、魔帝が剣部門で。剣帝が魔法部門で出るなんて事も。
「今のは冒険者ですね。確か王都を拠点に活動してるA級冒険者パーティーです」
「知ってるの?ノルン」
「彼らはS級確実と言われる、将来有望な冒険者ですから」
そうなのか。
男四人と女一人の五人パーティー。
で、ボクとアイシスさんを踏み台にして出世するつもりか…んん?
S級冒険者にもなれるって人達が騎士を目指す?
「騎士も冒険者登録は出来ますから。S級冒険者になり騎士の身分を得ると騎士爵くらいは貰える可能性は高い。少なくとも陛下や上級貴族の覚えは目出度い。貴族の仲間入りが出来る、と考えているのでしょう」
なるほど…そういう野心家達の集りでもある、と。
「ほら、早く登録を済ませて買い物行こうよ」
「あ、はい」
ああいう人達は他にも居るだろうな。
同級生達も出そうだし…あ、居た。
「よう!ナッシュ!お前も武芸大会に出るのか?」
「ああ、ペーターか。勿論だ。剣部門でな。お前は槍か?」
「おう。ところでアイツは見たか?あのクソ生意気なグラウバーン家のお坊ちゃんは」
「いいや。ま、アイツは出ても魔法部門だろう。それ以外に得意なモノなんて無いんだからな」
「違いねぇな!でも、もし槍部門に出て来たらボッコボコにしてやるのに」
「そうだな。俺もアイツが剣部門で出ていたら骨の一本や二本、叩き折ってやるのにな」
…出るけどね、剣部門で。
しかし、ナッシュはどうしてそこまでボクを眼の敵にする?
「…全く。騎士にあるまじき発言ね」
「あ?…あ」
「え?…あ、セーラ様!?何故、此処に!?」
「そんな事はどうでもいいでしょ。それより、此処には色んな人が居るわ。平民も、騎士も、貴族も。何処に耳があるかわからないのだから、もう少し周りを気にした方が良いわよ」
「ご、御忠告感謝します…」
「…では、失礼」
ナッシュ達もボク達には気づかなかったか。
一緒に行動してるセーラさんが話しかけても尚、気付かなかった。
デミ・バードの認識阻害はかなり優秀らしい。
これなら安心して………ん?
「どうかしましたか、ジュン様」
「あ、いや、何も」
一瞬、視線を感じたけど、直ぐに消えた。気のせい、かな?




