第81話 「何か隠し事をしていますよね?」
神の子教会の大司祭様が一体何の用なんだか。
嫌な予感しかしない。
「何か御用でしょうか?大司祭様」
「私の事はミルティアデスとお呼びください、魔帝殿。いえ、グラウバーン男爵殿。ニルヴァーナ殿も」
「はぁ…それで何か?もう遅い時間ですし、私達はそこそこ疲れてるんですけど」
「それは理解しております。ですが、少しだけ時間を頂きたいのです。明日には御二人は王国へ戻られるのでしょう?で、あるならば私は簡単には会いにいけませんから」
「つまり…あたし達に用は無いって事だね」
「みたいだね。じゃ、アイシス。私達は先に寝てるから」
「はくじょーものー」
皆して薄情な…団長もティータも行っちゃうし。
エメラルダ様はとっくに居ない。
結局、大司祭にあてがわれている部屋で話す事に。
部屋の中には私とジュンと大司祭の三人だけ。
…部屋の中に誰か隠れてるとかは無さそうだ。
「では、早速用件に入っていただけますか」
「ふふ、せっかちですな、剣帝殿は。ですが、確かにもう遅い時間ですしね。…御二人は、我が神の子教会が現在求めている人材と何か、御存知ですか?」
「私は知りません」
「ふむ。男爵殿は如何です?」
「…聖女、或いは聖人と呼ばれる人、ですか?」
「その通り。神の子教会では聖女と聖人が欲しい。是が非でも」
「はぁ…そうなんですか」
あー…やっぱりだ。
この人、私が称号『癒しの聖女』を持ってる事を知ってる?
この前ジっと見てたのと何か関係があるのか?
「それが何か?」
「…ズバリお聞きします。御二人はニルヴァーナ殿は聖女、グラウバーン男爵殿は聖人の称号を持っているのではありませんか?」
「「いいえ」」
嘘だけどさ。
でも私が得たわけじゃないし、ジュンも聖人と付く称号は持ってない。
というか、このおじさんは何を根拠に私達に聞く?
「…本当に?」
「ええ。それよりボクからも質問しても?」
「ええ。どうぞ」
「何故、ボクとアイシスさんにそんな質問を?流石に只の勘…当てずっぽうではないのでしょう?」
「いえ、勘です。半分は、ですが」
「半分?」
「ニルヴァーナ殿は剣帝でありながら戦場において回復魔法で大勢の者を癒したとか。それも味方だけでなく、捕虜にした敵兵までも。それは聖女と呼ばれるに相応しい行いです。男爵殿も、グラウバーン領では大変慕われていて聖人のようだ言われているとか」
このおじさん…私達の事調べてる。
そりゃ私とジュンは王国じゃ有名人だから、調べたらすぐに解かるだろうけどさ。
「それだけですか?」
「…というと?」
「そういう噂があっただけで、ボクとアイシスさんに迫ったというより、ミルティアデス殿にはもう少し確信を得ているように見えたので」
「私もそう思うな。勘なんて嘘でしょ。もっと別の根拠があるんじゃない?はずれだけどさ」
「…いやはや、敵いませんな。ですが勘、というのはまるっきりの嘘ではないのですよ?」
でも、やっぱり他の根拠があるって事だよね、それ。
「…これはあまり外部…教会の信者以外には知られていない事なのです。内密にしていただきたい」
「「わかりました」」
「…仲が良いのですね。現教皇セルギウス様は神様から神託を得る事が出来るのですよ。その神託で聖女の称号を得た者が現れた事を知ったのです」
へぇ…神託で。
そりゃ隠しようがないわ。
神様も余計な事を……いや、でもそれじゃ私が聖女だってズバっと言ったわけじゃないって事か。
「しかし、待てど暮らせど、誰も自分が聖女だと名乗りでない。ならば我々で探し出すしかない。そこでそれらしい人物を絞り込んいた。その中に御二人の名前があったわけです」
「あの…ボクは男ですけど?聖女にはなれませんよ?」
「勿論です。ただ、全ての事が神託で教えて頂けるわけじゃありませんから。知らずに聖人が誕生している可能性も考えて…いえ、神託が降りる以前から探してはいたのです。改めて調査した所、御二人の名前が挙がった、ということでして」
調査ねぇ…名乗り出ない時点で教会に関わるつもりはないってわかって欲しいんだけど。
「そして今回の国葬で御二人を見た時に、私の勘が働いたのです。この二人だ、と。……どうやらはずれだったようですが」
「期待を裏切ってしまったようですみません。ですが、仮にボクが聖人だったとしても、教会の信者になるつもりはありませんよ?」
「あ、私も」
「…それは何故です?」
「教会がやっている慈善活動や孤児院の運営なんかには賛同できます。だから多少なりとも寄付をする事に否はない。ですが…教会の教義。知恵のある魔獣まで良き隣人扱いはちょっと出来かねます」
「それは嘆かわしい。慈悲深いと噂の男爵殿の御言葉とも思えません」
「私もイヤだなー。ゴブリンとかオークとか。どう考えても無理だよ」
「何故です?彼らとは少なからず意思の疎通が可能です。心を開いて、受け入れさえすれば…」
「でも向こう側にこちらと仲良くしようという意思は無い。友好関係が築けた前例ってあります?魔獣使いや召喚契約した魔法使いとかくらいしかないんじゃないですか?」
「それは…」
「ミルティアデス殿はゴブリンやオークに襲われた村や人々を見た事がありますか?ゴブリンとオークに限らず、魔獣に襲われた村でも構いませんが」
「…あります」
あるんだ。
私も騎士団の任務で、そういう人達を見たり、村に行ったりするけれど…悲惨の一言だ。
あんな目にあった人達に魔獣と仲良くしようなんて言えない。
「ボクもありますが…あんな光景を見たらゴブリンはオークと仲良くしようなんて思いませんよ」
「…確かに、その問題は教会でも長年の課題です。ですが、いつかきっとわかり合えると、我々は信じています。何故なら我々は同じ神に造られた、神の子らなのですから」
あーそう。
私はわかり合えなくても結構。
だから教会の信者にはなりません。
「…今日は此処までにしておきますか。また機会があれば、是非御話しさせてください」
「「…失礼します」」
もう関わるつもりはないけどね。
……はぁ。これでやっと眠れる。
「ああ、そうそう。最後にもう一つだけ質問させてください」
え~…まだあんのぉ?
「御二人共に…何か隠し事をしていますよね?」
「は?」
なんだ、こいつ…さっきまでと少し雰囲気が違うぞ?
「…隠し事の一つや二つ、誰にだってあると思いますが。何故です?」
「私、これでも嘘や隠し事してると見抜くのは得意でして。教会の司祭として長年、人々の相談を受けたりしていましたから、その経験で。その経験から来る勘が告げているのです。御二人は何か私に隠し事をしている、と」
こいつ…このありありとした自信……経験から来る勘とか言ってるけど、何かそういうアビリティでも持ってるんじゃないか?
「ですから、ありますよ。神の子教会とは何ら関わりの無い秘密ですが」
「…私も」
「…そうですか。いや、引き留めてしまって申し訳ありません。御時間を頂き、感謝します」
「いえ。それでは」
「……失礼します」
取り合えず、今日は斬り抜けた、か?
でも…このおじさん、今日で終わりにするつもり無さそう。
またどっかで絡んで来るんだろうな…やだやだ。




