第76話 「逆さまの塔?」
「ではダンジョンに向かうメンバーを決めるぞ」
「あれ?あたし達全員で行くんじゃないんですかー?」
「それは避けるべきだろう。誰一人として城から姿が見えなくなれば、流石のバカ二人も警戒くらいするだろうからな」
あー…まぁ、それはそっか。
てか、エメラルダ様…もうあの二人の事バカとしか見てないんだ。
「じゃ、ジュン、アイシス。お前達は確定だ。あとのメンバーはお前達が決めていい」
「はぁ…えっと、じゃあ私が選ぶのは団長とティータ達で」
こういう時、何だかんだでいつも一緒なティータ達が頼りになる。
一番良く知ってる仲間達だし。
「仕方ないわね。アイシスにジュン君も行くなら」
「あたしらにー!」
「お任せだな!」
「でも、私達はダンジョン攻略の経験はあまり無いわよ?」
そこは大丈夫だと思う。
経験は無くても必要な能力を持って奴はいるから。
「じゃ、ボクが選ぶのはノルンと…」
「ジュン様、私も行きます。連れて行ってください」
「決して足手纏いにはなりませんから!」
「あ、はい。アヴェリー殿下を助けに行くんですから、ララさんとリリさんには来て貰わないと困ります」
ジュンが選んだのはメイド三人か………メイド、好きなの?
「こんなところですかね」
「そだね。あんまり多すぎても意味ないしね」
ま、元々私とジュンだけでも戦力的には十分なんだけど。
ダンジョンとなると、ちょっと勝手が違うしね。
「あ、あの…わたくしは?」
「あ、クリムゾン団長はお呼びじゃないです」
「な!何故ですの!ラティスより、わたくしの方が、よっぽど役に立ちましてよ!」
「それが理由だろう」
「クリムゾン団長や紅天騎士団の方は白天騎士団のアイシスさん達と一緒じゃ喧嘩するでしょう?嫌ですよ、ボク。ダンジョンの中で喧嘩の仲裁をしながら進むなんて」
「うっ…」
渋るクリムゾン団長は放って置いて。
私達はダンジョンへ向かった。
場所は帝都から北北東。馬車で三十分と、帝都から結構近い場所だ。
「で。案内役はおじさんなんだ」
「だから、レティ…本人を前におじさん呼びは…」
「構いませんぞ、お嬢さん。私が案内出来るのは此処までで、ダンジョンの中は案内出来ませんが」
「ではストラウド殿は此処までという事ですか?」
「いえ、私も行きます。冒険者と共にいる騎士は私が説得しますので」
「説得?」
「彼らはイワン殿下の命に従ってるだけ。嫌々従っているのであれば、イワン殿下が失脚を知れば大人しく投降するかもしれません。大人しく従うようであれば軽い処罰で済ませると、ジーナ様は仰せですので」
「随分御優しいんですね。アヴェリー様はあっさり見捨てたのに。皇族に牙を剝いた騎士は救いあげるのですか?」
「ちょっ、ちょっとララ…」
あの子は…アヴェリー殿下のメイドか。
見捨てた?はて?見捨ててないから私達に協力を要請して来たんじゃ?
「…見捨てたわけではない。アレはジーナ様にとっても、ゲオルギウス皇帝陛下にとっても苦渋の決断だった」
「そうでしょうか?アヴェリー殿下を帰すのであれば別の誰かを差し出す必要があるのはわかります。ですが、分家や他の皇族から出す事も交渉次第では可能だった筈です。何故、直系のアヴェリー様でなくてはならなかったのです?丁度都合よく捕虜となっていたから厄介払いしたのではないのですか?」
「違う。ゲオルギウス皇帝陛下は帝国に居るより王国に居る方が安全だとお考えだった。荒地化の原因がわからず、止める術が無かったからだ。今は解決出来たが…」
「……」
「ララ、もう止めなよ。申し訳ありません、ストラウド様」
「…もういいかしら?では、行くわよ。レティ、先頭を御願い」
「はーい」
「ノルンも先頭に行きます。罠の発見や解除の技術がありますから」
「貴女が?大丈夫なの?」
「ノルンの技術は確かですよ、ラティスさん」
「そう。なら御願い」
先頭をレティとノルン。
最後尾に私とティータでダンジョン内へ。
ダンジョンの入口は山間の草原にある円形状の建物。
入口の上にある絵は財宝の絵。絵の中央には宝石が三つ並んでる。
「此処は欲望のダンジョンなんだね」
「そうです。そして此処は上級のダンジョンです」
「上級…上から二番目に攻略の難しいダンジョンという事ですか」
「ええ。そしてこのダンジョンは別名『逆さまの塔』と呼ばれています」
「逆さまの塔?」
なにそれ。
塔って言っても地上一階しかないじゃん。
「このダンジョンは発見されて何百年も経っているのですが、調査によるとまるで塔を上から下りているような作りだと。そこで付いた別名が『逆さまの塔』なのです」
「調査、ですか。ならばこのダンジョンの内部構造などの地図があるのですか?」
「いいえ。このダンジョンは定期的に壁が動きます」
「は?壁が動く?」
それはつまり…構造が変わるって事?
なにそれ、そんなのあり?
「あれ?では実行犯の冒険者が安全地帯を知っているという前提が崩れませんか?」
「そうですよね。壁が動いて構造が変わるなら…」
「いえ、安全地帯に続く道は変わりますが、安全地帯の位置までは変わりません。そしてどのダンジョンでも確実に存在する安全地帯があります」
「それは?」
「ボス部屋の手前です。そこだけはどんなダンジョンでも確実に休める、安全地帯となっています」
ああ、そう言えば私が初めて入ったダンジョンでもそうだったかも。
「それってさー最悪の場合はこのダンジョンの一番奥まで行かないとダメって事だよねー」
「その場合は急げば追いつけるって事でもあります。大丈夫、なんとかなりますよ」
「おお?ジュンちゃん、前向き~」
「何か良い考えが?」
「ええ。もう少し奥へ行ったら試してみましょう」
そうして少し進んだ先。
誰も居ない部屋に出た。
「うん。大丈夫そうですね」
「何が?床なんて調べて。何がわかったの、ジュンちゃん」
「あの…ジュン様?もしかして…」
あ、何となくわかった。
ジュンってばもしかして、私と同じ事しようとしてる?
「フレアブレイズ!」
直系3メートルほどの炎の柱が下に降りていく。
そして炎が消えた後には床に穴が。下の階がバッチリ見える。
やっぱり、私と同じだった。
剣と魔法の違いはあるけれど。
でも…確か、こういうズルをすると何かペナルティがあったような?
「さ、此処から降りましょう」
「はぁ…ジュンちゃん、凄い…」
「凄いけど、こういうのってアリなの?」
「…試練のダンジョンではこういうズルは認められないそうですが、欲望のダンジョンでは多少は見逃してもらえるそうです。但し、やり過ぎると途中から攻略難度が上がるそうですが」
「攻略難度が上がるって…どんな風に?」
「…このダンジョンの壁や床は相当な硬度ですので、今までこういう攻略はされてなかった筈です。ですので、どうなるかは例がありません。余所のダンジョンではトラップが増えたり出て来る魔獣が強化されていたりと様々ですが」
「そうなんですか?じゃあ、このやり方は数回に留めておきましょうか」
「それにこのやり方ですと、何処かに潜んでいる実行犯達を追い越してしまったり、隠れている部屋を見逃してしまいかねません。流石に地下一階や二階では無く、もっと奥でしょうけど。私達の目的はダンジョンの攻略では無く捜索ですから。次からは止めた方が無難ですね」
「あ、その点は大丈夫ですよ。探査魔法でこの階にアヴェリー殿下が居ない事は確認済みですから」
「さ、流石ですね…」
それでも此処は上級ダンジョン。
全員ダンジョン攻略の経験は十分ではないのだから慎重に行こうとなった。
私はこのやり方で進んで問題無いと思うんだけどな。
「何ですか、アイシスさん…その笑顔」
「いやいやぁ。私達、結構似た者同士だなって。いい夫婦になれそうだなって。グフフフ」
「ジュン様をあなたと一緒にしないでください!」
妬くなよ、ノルン。
ハッハッハッー!何かテンション上がって来た!
サクサク行こう!サクサク!




