第70話 「何かありましたの?」
「此処が帝国が秘蔵する書庫です。魔導書・秘術書の類は此処から向こうになります」
皇帝陛下と謁見した翌日。
ボク達は約束通り、帝国が所有する魔導書類を見せてもらう事に。
因みに、ボクとアイシスさんが王国に戻ってる間に皇族からの接触は一度だけあったらしい。
ボク達が居ないと知ったら、大人しく引き下がって、後は来なかったそうだが。
「閲覧時間は三時間です。禁書に関してはまた別に。最後にお見せしましょう」
「あ、二時間から三時間になってる」
「一応は努力したんだ、あのおじさん」
「でも一時間増えただけかぁ。セコいねぇ」
「シー!聞こえるわよ!」
「…うぉっほん!さ、どうぞ」
うん、大人だなぁ、ストラウド殿。
アイシスさん達の遠慮のない言葉もサラっと流せてる。
「ううん…」
「どうしました?アイシスさん」
「私、こういう難しい本を読んでると頭痛くなるんだ。何を探せばいいのかわかんないし」
「御冗談を。剣帝殿は魔法にもかなり精通していたではないですか。それが魔導書を読めないなどと」
「え?何の話…」
「アイシス、こっち来て手伝って」
「あ、うん」
ティータさんのナイスフォローの御蔭で、これ以上のアイシスさんの失言はなくなった。
自分がやった事じゃないからしょうがないけど、そろそろ慣れてください…。
「それにしても…流石はファーブルネス帝国の皇室書庫ですね。かなりの量の蔵書です」
「ですわね。アデルフォン王国の王室書庫に見劣りしない量ですわ。…あら?ジュン様は王室書庫に入った事が?」
「一度だけ。父上が申請してくれて。一年後に漸く許可が下りて、短時間だけ、ですが」
王室書庫は王城にある魔導書や貴重な書物等を集めた書庫で、自由に出入り出来るのは王族と宮廷魔導士のみ。
七天騎士団に所属してる者は比較的簡単に入れるが、それ以外の者は申請してから許可が下りるまで順番待ち。
一般兵やただの冒険者、外国人なんかは、まず入る事は許されない。
魔法を研究する者なんかには垂涎の場所だ。
この皇室書庫も同じで、本来ならボク達のような外国人は入れない。
貴重な経験と言えるだろう。
「それではジュン様。どのような書物をご希望ですか?ノルンが探して参ります」
「あ!それ私も手伝う!魔導書とか興味ないし!」
「アイシス…もういいわ。ジュンさん、私も手伝います」
「あ、あたしもー」
「じゃ、私もだね」
「私も手伝いますよ、ジュン君」
結局、ノルンと白天騎士団の皆さんはボクの手伝いをしてくれる事に。
助かるんだけど、折角なんだから自分の興味がある本を探せばいいのに。
「でもさ、ジュン」
「何です?アイシスさん」
「ジュンって、殆どの魔法が使えるんだよね?なのに今更魔導書とか読んで意味あるの?」
「「「………」」」
「え?何?」
「…本気で言ってますの?アイシスさん」
…まぁ、魔法に興味…というより、ちょっと前までまともに魔法が使えなかったアイシスさんみたいな人からしたら魔導書は無縁な物だったろうから、知らなくて当然かもしれないな。
と、言っても常識なんだけども。
「アイシスさん。魔導書というのはですね。言うなれば魔法の研究書なんです」
「研究書?」
「ボクや他の魔導士が普段使ってる魔法は言うなれば、基本魔法です。全世界に伝わってる、どの国でもある魔法の知識と技術。高位魔法だろうと下位魔法だろうと、です」
「そして、魔導書というのは個人、或いは組織が長年かけて研究、開発したオリジナル魔法の集大成ですわ。魔法の研究というのは昔から、個人でも国営の機関でも行われていて、魔導書はそれらの研究を記した、知識と技術の塊ですわ」
「基本魔法に無い魔法を作りだす為の研究をして、その使い方を記した本って事かぁ」
「まぁ、そうです。魔法だけじゃなく、魔法儀式や魔法陣の事を記した魔導書もありますね」
「魔法薬や魔法道具の作り方を記した物なんかは秘術書と呼ばれたりしますわね」
「ふうん…あ、じゃあ禁書って何?」
「…本当に本気で聞いてますの?」
「禁書というのはですね………」
記してある内容が危険な内容、或いは記してある内容の魔法や秘術を使用すると、使用者に生命の危機があったり、生贄が必要だったりと。迂闊に使用すると、大災害が起きたりするような物だったり……要するに、個人が得る知識として危険極まりない内容が書かれた物が禁書だ。
「…何で、そんなの読みたいの?」
「知識は力ですから」
「禁書と言えども、使い方を誤らなければよいだけですわ。さ、時間が勿体ないですわよ。あ、ラティスは火属性の魔導書を探して来なさいな」
「何故、貴女を手伝わなきゃいけないのよ!」
「やかましいぞ、お前ら」
それから三時間。
たっぷり使って魔導書を読み漁った。
アイシスさんとティータさんには称号を消去する方法を記した本が無いか探してもらったけど、成果は無かった。
「…ジュンちゃん、これ全部読んだの?」
「ええ、まぁ。速読は得意でして」
「じゃあ、この魔導書の魔法は使えるように?」
「問題無く使えると思います。王国の魔導書と共通点も多かったですし」
帰ったらすぐ練習しよう。新魔法を身に着ける時はいつもワクワクしちゃうな。
「しかし、聞いた話ですが、大岩を飛ばすのは魔法だったのですね」
「大岩?ああ、あの砦攻めの時の」
あの大岩を飛ばすのは、巨大な筒を構えたゴーレムが大岩を撃ち出す魔法だった。
通常のゴーレムと違い、そのゴーレムは移動が出来ないし、地面と接して無ければ大岩を作り出せないのが難点か。
「そろそろよろしいかな?では、こちらで選んだ禁書を――」
「ストラウド様!大変です!」
これから禁書を読む、って時に酷く慌てた様子の男性が飛び込んで来た。
遺跡探査の時に見た顔だから、彼も宮廷魔導士のようだ。
「…な、何だと!?どういう事だ!事実なのか!?」
「わ、わかりません…ですが、確かです。陛下は、もう…」
「どうされたのだ?ストラウド殿」
「何かありましたの?」
「こ、皇帝陛下が…ゲオルギウス陛下が、崩御されました…」
「何…?」
崩御…?亡くなられた?皇帝陛下が?
一体、何故…?




