第55話 「今のアデルフォン王国が好き」
「「保留でお願いします」」
「「は?」」
おっと。
アイシスさんには何の合図も送ってないのだけど。
ボクの答えが解っていたらしい。
見事なまでに合わせて来た。
「どうしてわかったんです?アイシスさん」
「ん~、何となく。ジュンの思考は何とな~くだけど、解るように…ううん、感じるようになったっていうか。言葉にしようとすると難しいかな。ジュンも、そうなんじゃない?」
やはりアイシスさんもそう感じてたらしい。
精神が入れ替わった影響が残ってるのか、入れ替わって互いに成りすましてたから思考が似て来たのか。ボクとアイシスさんは互いの考えがある程度、読めるらしい。
ボクの考えでは恐らくは前者だ。
「ず、随分と仲が良いようだね、二人は…」
「理由を教えて貰えないかしら?どちらかを選ぶのでも無く、どちらも選ばないでもなく、保留というのはどういう事?」
「…多少、無礼な事を言っても良いとの事なので、言わせて頂きます。御二人の思想はボクにとっては大差ない。はっきり言ってどちらもこの国にとっていい選択だとは思えなかったので」
「…ほう?」
「…言うじゃない」
雰囲気が変わったな。さっきまでは楽し気だったのが今は不快気に睨んで来る。
僅かに感じる殺気は二人の物では無く…周りのメイドだな。
グラウバーン家のメイドと同じくある程度の戦闘技術を持ったメイドらしい。
それにしても、無礼な口を利いても構わないと言っておきながら、簡単に態度を変えたなぁ。
そんなんで国王足りえるのだろうか。それとも、これは演技かな?
「…続けたまえ」
「私と兄様の思想が大差ない?随分違うと思うのだけど?」
「そうでしょうか?要は御二人とも、自分に選ばれた者だけの世界を作るという事ですよね?」
「それの何が悪いの?」
「世界はどうしようも無いゴミが多すぎる。ならばせめて自分の視界に入るものは自分の好きな物で埋めたい。そう考える事が何かおかしいかな?」
「悪くもおかしくもないですよ。普通の人の考えなら」
「…王族はダメだと?」
「もっと言えば国王は、ですね。国王がそんな極端な選民思想で国を動かしていたら反発は、恨みを買うのは必至だと思います。貴族は勿論、平民からも。反発が起きたらどうされるのです?一人一人、懇切丁寧に説明して、理解してもらうのですか?それとも力で押さえつけるのでしょうか?」
「「……」」
沈黙、ね。
答えなくてもわかるけど。
「恐らく、御二人共、力で押さえつけようとされるのでしょう?」
「…過去の為政者は皆やってきた事だわ」
「そうですね。でも程度にもよるでしょう?。御父上…現国王陛下は名君と国民からも他国からも尊敬される素晴らしい方ですが、力で押さえつけるなんて手段、そんなに使ってます?」
「…見えない所ではわからないよ」
「そうですか?でもそれは、眼に見えた反発もそうは起こってないという事でしょう?陛下の治世が上手く行ってる証拠だと思います」
「…私や兄様じゃ父様みたいに出来ないと言いたいのね?」
「そんな事わかりませんよ。ボクはまだ十五にもなってない子供に過ぎませんから。それに御二人の思想を聞いただけで細部まで具体的な方針を聞いたわけじゃありませんし。例えば、御二人の言う排除するというのは具体的にどう排除するのか、とか」
自分の周りから遠ざける、とか閑職に回すとか程度なら反発は少ないかもしれない。
でも貴族家の取り潰し、或いは粛清するという手段まで取るのなら。
反乱は避けられないだろう。
、今の治世が乱れに乱れ、血の粛清が必要だと言うなら…わからなくはない。
でも今はそうじゃないし、見た目が悪いからと遠ざけ、ちょっと能力が低いからと使えない無能との烙印を押すのでは上手く国が回るとは思えない。
「…私とニーナのやり方ではダメだ、そう言いたいのだね?」
「ですから、わかりません。案外上手く行くかもしれませんし。ですがもう少し結論出すのは待って頂きたいのです。ですから保留、と。ですが…最後に一つ、質問させてください。両殿下は自分が排除する側で御話しされてますが、排除される側に周った時の事を考えていますか?」
「…何?」
「自分より遥かに美しい者が現れたら?自分より遥かに優秀な者が現れたら?大人しく相手の言う事に従うのですか?お前は醜い、国から出て行けと言われたら?お前は無能だ、国王の座を譲れと言われたら?その時どうされるのですか?」
「私が…排除される?」
「まるで考えて無かったのですか?それはつまり排除される側の気持ちをまるで考えてないという事では?」
それではやはり二人は独裁者、或いは圧制者と呼ばれる事になる。
その時の国勢にもよるのだろうけど。現状から鑑みるに、そんな圧制は必要ないのだから。
「…ふぅ。なるほど…史上最年少で『帝』に至った少年、か。わかってはいたつもりだけど、只者ではないね」
「…そうね。王家の私達にこうも堂々と批判する…並の貴族の子供には出来ない事ね。只の子供なら王家の者が理想を語れば、少なからず熱を帯びるものだけど。終始冷静だったし」
「この状況に少しも怯んでいないしね。メイド達が戦闘技術を持ってる事にも気が付いていたろうに。流石は魔帝という所かな?」
そこは伊達に最前線で戦ってませんので。
戦場の空気に比べたら、こんな圧力…何ほどのでもない。
「益々君達が欲しくなったよ。また今度、ゆっくり話すとしよう」
「折角のパーティーなのに悪かったわね。ところで、剣帝は何か言いたい事はないのかしら?」
「え?そうですね…私は難しい話は苦手で、上手く言えませんけど…今、この国が悪くないのなら無理に変える必要は無いんじゃないかなって。私、今のアデルフォン王国が好きですよ」
「…ハハ!良いね、わかりやすい!」
「今の王国が好き…か。そうね、私も今の王国は嫌いじゃない。嫌いじゃないから好き、と断言は出来ないけどね」
アイシスさんらしい答えだ。
ボクもそれで良いと思う。
「それじゃ、今日は此処までだ。長々とすまなかったね」
「またね。今度は難しい御話しじゃなくて、楽しい話にしましょ。剣帝の武勇伝とかね」
「あ、アハハ…失礼します」
武勇伝…語れないだろうなぁ。実際に体験したのはボクだから。
退室し、これからどうするかとアイシスさんと歩きながら話していると呼び止められた。
この人は確か、陛下付の執事長だ。
陛下がボクとアイシスさんを呼んでいるらしい。
断るわけにもいかないので、大人しく案内に従った。
「わざわざすまないな」
「いえ。陛下がお呼びとあれば」
「えっと…それで何かありましたか?」
「うむ。お前達、エディとニーナをどう思った?遠慮なく好きな言葉を使って良い。好きに申せ」
…ついさっき、話が終わったばかりなのに、陛下はもう知っているらしい。
もしかしたら両殿下の誘いを保留にした事も?
「私は…最初はこの二人のどちらが国王になっても、生き辛い世の中になりそうだなーと。ジュンに鼻っ柱を折られて考えを改めてくれるといいんだけどなーと」
「アイシスさん…鼻っ柱を折ったりは…」
「いやぁ、折れたと思うよ?言葉は選んでたけど、ほぼ全否定でしょ?」
…まぁ、そうですけども。
だって、あの二人のどちらかが国王になったら、命令に従って排除しなければならなくなる。
ボクにとって大切な存在でも。
「ふむ。それで、ジュンはどうだ?」
「…熱意があるのは良い事だと思います。ですがニーナ殿下は兎も角、エディ殿下の思想ではどんなに上手くやっても反発は免れないでしょう」
「うむ。余も同意見だ。だが一応、補足しておくとな。エディがああいう思想に至ったのは妹のクロエの事があっての事だ」
「…どういう事でしょう?」
「クロエは…その、引きこもりでな。滅多に部屋から出ないし、王族としての仕事もしない。必然、評判は悪い。クロエは不要、とっとと他国へ嫁に出すなりなんなりして放り出せばいい。そんな声もあってな。そんなクロエを兄であるエディは守ろうとしているのだ」
「…それで美しい者だけを傍に置いて醜い物は排除するという思想に?」
「エディはクロエには何の取り柄も無いと思っているのだ。あるのは美しい容姿と心根だけだとな。…そんな事はないと言うのにな」
なるほど、そういう…うん、まぁそういう事情があるのならエディ殿下を見る眼が多少は変わる。もっと別の方法を模索すればいい方向に変わるかもしれない。
「ではニーナ殿下は?」
「ニーナは亡きヴィクトルの思想を受け継ごうとしているのだ。アレは生前、弟妹によく理想を語っていたのでな。より、極端な形になってはいるが…兄の受け売りを自分の理想としているだけで中身は薄い。そういう意味ではエディより性質は悪いかもしれぬな」
ヴィクトル殿下の受け売り、ね。
確かにヴィクトル殿下もああいう事言いそうだ。
話から推察するにもう少しマイルドだったのだろうけど。
「それで、余が言いたいのは、だ。お前達にはこれからも息子達に厳しく接して欲しい。具体的には簡単に誰かを支持すると明言しないで欲しいのだ。上手く立ち回って欲しい」
「つまり、第三王子のジョゼ様も支持するな、と?」
「むしろ一番ジョゼを支持して欲しくはない。少なくとも今はな。アレはまだ子供だ。今から次期国王に指名してしまえば周りがアレやこれやと吹き込んで都合のいい傀儡にされてしまう。性格が優しく素直なので余計に操りやすい。余が存命の内はそうそう好きにはさせぬが…もう少し自己が確立して自分の意見を持つようになるまでの時間を与えたいのだ」
この様子だと…陛下はジョゼ様に一番期待している?
単に我が子の生く末を案じてるだけか?
詮索は…しない方がいいか。
それに…本音はヴィクトル殿下が亡くなったばかりでもう次期国王の話で騒いでる周りに対して辟易してるのかもだし。
ここでボクも騒ぐのはよしたほうが良さそうだ。
「わかりました。ボ…私は暫くは中立の立場を示そうと思います」
「そうしてくれ。自分の派閥に取り込もうと色々と動く奴がおるであろうが、お前が取り込まれるとガインも付いて行くであろうからな。そうなればバランスは一気に崩れて、余も止められない流れになるであろうから」
「はい」
「アイシスも、頼んだぞ」
「えっと…はい」
…正直、面倒な事になったな、と思わざるを得ない。
これからアレやコレやと仕掛けて来るんだろうなぁ…大体は父上が捌いてくれると思うんだけど。
「それとな。あとでガインにも直接伝えるがグラウバーン家には頼みたい事がある」
「陛下の御命令とあれば」
「命令…ではあるのだがな。正直扱いに困ってしまって、というのが本音だ。更に厄介事を押し付ける形になってしまって心苦しいのだが…他に適任が居らぬのでな」
「というと?」
「ファーブルネス帝国の人質という扱いになっているアヴェリー・アーデルハイト・ファーブルネス第三皇女。彼女をグラウバーン家で預かって欲しいのだ」
…そう言えば、ボクが捕虜にしたんだった。
彼女をグラウバーン家で預かる?一体どうして…?




