第49話 「最悪じゃないですか!」
~~アイシス~~
「……」
「……」
ジュンが突然訪ねて来た。
二人きりで話がしたい、と。様子からして称号の事に気付いて文句を言いに来たんだろう。
だが!しかし!
私も言いたい文句はある!
「…先ず、私からいい?」
「…どうぞ」
「じゃ、先ず…ジュン!働き過ぎ!」
「…は?」
「私になってる間、働きに働いたでしょ!」
「はぁ。それが何か?」
「色んな雑務をやったり訓練には必ず参加したり他の人の仕事を手伝ったり!挙句に報告書はすぐさま提出したり!」
「……それが普通じゃないです?」
「どこが!?」
御蔭で白天騎士団内で私のイメージが!
人が変わったように真面目で仕事熱心で仲間想いの良い奴になってしまった!
「…良い事じゃ?」
「全然!私は基本はずぼらで怠け者なの!訓練に毎回参加は以前からやってたけど、雑務はのらりくらりと躱して他の人に流していくのが普通!報告書はギリギリまで貯め込むのが普通!他人の仕事を手伝うなんてもっての他!」
「…胸を張って言う事ですか?」
しかもティータが「また行動が変わったら怪しまれるから、今はちゃんとやりなさい」なんて言うし!サボるにもサボれない!
「それと!」
「まだ何か?」
「私の御金!給金!何に使ってくれてんの!?」
「ああ…」
「立ち寄った街の孤児院への寄付!自腹で炊き出し!実家へ仕送り!私、そんな事一度もした事ないぞ!?」
「…勝手に使った御金に関してはすみません。でも残ったお金は貯金してますし、返すつもりもあります。ですけど…」
「さらに!」
「まだあるんですか」
「此処に来た時見ただろうけど、何あのおじさん達!奴隷の子もだけど!」
「奴隷の子については申し訳なく。どうしてもであればグラウバーン家で引き取りますので。あのおじさん達は…どうして此処に居るのか、ボクにもさっぱり」
他にも「癒しの聖女」なんて称号を得たばかりに神の子教会に眼を着けられそうとか。
教会の連中はどうにも好きになれないからめんどくさい事この上ない。
「まぁ、おじさん達や奴隷の子や称号に関してはしょうがないとも思うけど。これからの私の人生、生き辛くし過ぎじゃない?」
ジュンがした事なら許してあげたいけど、限度ってものが…お?
「…ふっ。よくもまぁ自分がした事を棚上げして、そこまで言えますね…」
~~ジュン~~
全くアイシスさんは…そこまで言うならボクも全部言わせてもらう!
「アイシスさん」
「な、何かな」
「あの称号…一体何ですか」
「あ、やっぱりそれ?」
当然だ。話をしないわけには行かないでしょ…
「その、最初のこ、子作りをするに至った経緯は聞きました。だから最初の一回は仕方ないと認めます。ですが!なーぜあんな称号を得るまで!?」
「いや…いやぁ~男の子の身体の性欲ってすんごいね。女体も素晴らしいし!」
「…だから使用人の女の子、ほぼ全員に手を出したと?」
「ぜ、全員じゃないよ?未成年と人妻や婚約者、恋人がいる子には手出ししてない」
「それ、ほぼ全員って言うんですよ!うちの女性陣において!」
ノルンが調査した結果。妊娠した子は居なかったらしいけども!だからってほぼ全員に手を出してたなんて…帰った時、どんな顔して会えばいいのか…
「それと!さっきボクに勝手に御金を使った云々言いましたけど!」
「あ、はい。それもバレた?」
「当然です!ボクの御金を使って娼館に通ってたんでしょう!」
「ぜ、全部娼館で使ったんじゃないよ?ミゲル達と食事に行った時に奢ったりして」
「食事?まさか酒ですか」
「いやいや!酒は飲ませてくれなかったから!綺麗なお姉さんが一緒に御酒を飲んでくれるお店には行ったけど」
「娼館だけじゃなくクラブにも通ってたんですか!?」
「あ、それは知らなかった?」
なんという…ああ~これからはグラウハウトを歩く時にも気を付けないと。
いや、それ以前に。ボクが女遊びをしてるって噂が広まってないだろうか。
それに娼婦が妊娠して、それがボクの子だと言って来たら…どうしたらいいんだろう。
「あ、その点は大丈夫。利用したのは貴族御用達、秘密は完全に守るお店だし。避妊も完璧」
「なーにが大丈夫ですか!そんな店に通ってるからボクの貯金が無くなってるんですよ!」
大急ぎでボクの部屋に転移魔法で戻って調べたら。
ボクの貯金は殆どなくなってた。平民なら一家が数年は暮らせるだけの貯金があったのに!
「はっきり言って。アイシスさんが使い込んだ御金はボクが使ったアイシスさんの御金より遥かに多いですよ。しかもアイシスさんの場合、その用途がどうしようもない」
「う…否定は出来ない。でもしょうがないじゃん!ムラムラしてるのにノルンがメイドを抱くの邪魔するんだから!」
「我慢すればいいでしょう!大体アイシスさんは女ですよね!なーぜ女遊びにハマるんです!」
「男の身体になって色々刺激的だったからだよ!ジュンだって女の身体で色々と――お?」
「え?」
「話は全て聞かせてもらいました!」
突然、バーラント団長とダイナさん、レティさんが入って来る。
後ろにはティータさんとノルンも。
ティータさんは困った顔して、ノルンは納得顔してる。
というか、話聞いてたの?
「あ、あの、バーラント団長?」
「ダイナ!レティ!」
「「はい!」」
「え?ちょっと、何?」
ダイナさんがアイシスさんを抑え、レティさんが手錠をはめてしまった。
アイシスさんなら簡単に抜け出せるはずだが、突然の事にきょとんとしてる。
「あの…?」
「ジュン君」
「は、はい」
「今回はうちの団員であるアイシスが起こした不祥事。上官として非常に申し訳なく思います。しかしながらアイシスは先の戦争において英雄。剣帝として称される身。大事にはしたくないのです」
「はあ…」
「ですので、アイシスの事は私達に任せてください。内々にですが、必ず然るべき罰を与える事を約束します。出来得る限りの補償もしますから…どうかこの事は陛下や他の人には洩らさないようにお願いします」
「え?罰?ちょっと団長!?」
「観念しなアイシス」
「アイシス…いつの間にそんな事やったの?」
「全ては取り調べで明らかにするわ。連れて行きなさい」
「え?え?取り調べ?ちょっと、ちょっと待ってー!」
アイシスさんが連れて行かれた。
手錠を付けたまま、何処かへ。
これってもしかしなくても…
「あの…ティータさん?」
「…はい。団長達はアイシスがグラウバーン家の御金を横領し、グラウバーン家の使用人の少年を襲って手籠めにしたと思ってます」
「細かくは違いますが、概ね間違っていませんね。精々罪を償うといいのです」
「…剣帝が不祥事を起こして捕まったとなれば、せっかくの戦勝ムードに水を差す事になりますから、大事にはしないでしょう。でも…このままではアイシスがどんな処罰を受ける事になるか。困りましたね…」
犯罪奴隷行きや処刑なんて事にはならないにしても、それなりに重い罰が下る、という事だよね。でもそれって…
「自業自得です。全てはあの人の自己責任です」
「そうですが…このままにしておくわけには。どうします?ジュンさん。ジュンさん?」
「…こういう場合、証拠を集めますよね?横領の証拠や被害にあった少年の証言を集めるとかして」
「そうなるでしょうね。それが…あ」
「ありませんよね?そんな証拠…なんせ御金はボクが使った事になってるし、手を出されたのは少年じゃなく女性だし。手籠めじゃなく合意みたいだし」
「あ」
つまり調査されて困るのは…ボクだ。
ボクがやったわけじゃないのに、ボクの素行の悪さが露呈する形に!
「…恐らく、剣帝が仕出かした不祥事となれば調査するのは…黄天騎士団でしょう」
「最悪じゃないですか!誰も罪人にはならなくてもジュン様の汚名がアイシスさんのせいで広まってしまいます!」
そうなるのか………ど、どうしよう?




