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第38話 「覚えててくれよな」

「此処が?」


「そうみたいだな」


 グラウハウトから馬車で一日。

新しく発見されたダンジョンに到着した。


「…なんかえらく賑わってるね」


「そりゃダンジョンだからな」


「新発見のダンジョンともなれば冒険者なら放って置かないわよね」


 ダンジョン前には近くの街から集まった冒険者で溢れていて、冒険者相手の行商人なんかも集まっていた。

中には簡単な武具のメンテナンスをする出張鍛冶屋まで居た。


 問題のダンジョンは巨大な樹の根本が入口になっていて、地下に降りるタイプのダンジョンみたいだ。


「これ、どうやって試練のダンジョンって見分けるんだ?看板があるわけじゃないみたいだけど」


「それはな…ほら、あそこ」


 ミゲルが指差したのはダンジョンの入口の上にある絵。

どうも天使の絵みたいだ。


「ああいう天使の絵があるのが試練のダンジョン。財宝の絵が描かれてるのが欲望のダンジョンだ」


「ふうん…」


 随分と親切な事で。神様は何が目的でこんなの造ったんだか。


「因みに描かれてる天使の翼が一対という事はこのダンジョンの難易度が初級だって事だ」


「天使の翼が二対で中級。三対で上級。四対で最上級ってなるんだとよ」


「当然、初級よりも中級の方が難しく、危険も大きい」


「その分、報酬として貰えるアビリティや称号もいい物が貰える、という事ですか」


「そうそう。ノルンちゃんは賢いねぇ」


 そうなのか。という事はこのダンジョンじゃ大していい称号かアビリティは貰えないのか。


「あと一度クリアしたダンジョンは再度挑戦は出来ても報酬は貰えない。一度クリアしたらそのダンジョンは用無しになるわけだ」


「途中にある宝箱は無限に出て来るからそれ目当てで潜る奴もいるって話だけどな」


「宝箱?無限に出るって…誰が用意してんの?」


「さぁ?神様じゃないのか?」


「まぁ初級のダンジョンじゃあんまりいい物は入ってないそうだけどね」


「兎に角、行こうぜ」


 ダンジョンに入ると、不思議な事に明るい。

太陽の光は差し込んでないのに…壁自体が発光してるのか?

見た目は普通の石壁なんだけど。


「ノルンが先導します。私より前には出ないでください」


「え?いやいや、ノルンちゃん。此処は俺達が…」


「ノルンは罠の発見や魔獣の接近に一早く対処出来ます。あなた達に出来ます?罠の解除とか」


「……よろしくお願いします」


 ノルンに言われて大人しく引き下がるミゲル達。

君達、騎士ではあっても冒険者じゃないもんね。でも、それでよくダンジョンに行こうと思ったね。


「ところで罠とかやっぱりあるんだ?」


「初級のダンジョンじゃあんまり無いって話だけどな。警戒するに越した事は無いさ」


「それにしても…ノルンちゃんは良い女だなぁ」


「ほんと。今からちゃんと手綱握っておかないと、将来尻に敷かれるぞ、ジュン」


「…大きなお世話だよ」


 ノルンの誕生日は三月だからまだ十三歳。

だというのにノルンの胸は既に…レティ並。

くっ…何だ、この敗北感…!


「…来ましたよ、魔獣です」


「お!来たか!」


「先ずは俺達に任せな!」


 出て来た魔獣は…蜘蛛?

蜘蛛型の魔獣か。大きさは小型犬くらいの大きさで中々素早そうだ。


「こいつはダンジョンスパイダーね。初級のダンジョンに出る魔獣の中でもザコよ」


「へぇ?詳しいね、アトライア」


「私、これでも情報収集役だもん。ダンジョンに出る魔獣の知識は一通り手に入れたよ」


 そうだったのか。ちょっと意外かも。


「因みにダンジョンスパイダーは食べる事は出来ないし、売れる素材も無いから魔石の回収だけで充分ね」


「…食べる事が出来ても蜘蛛なんて食べねぇよ」


「そう?虫って意外と美味しいんだけどな」


「うげぇ…勘弁してくれ」


「アトライアの悪食には困るな…そんなんだから男が出来ねぇんだぞ」


「それはほっといてよ!」


 ダンジョンスパイダーをあっさり仕留めたミゲル達がアトライアをいじる。

あまり強くないけど一応は騎士のミゲル達ならこの程度の魔獣は相手にならないみたいだ。


「…この先で誰か戦闘中ですね」


「先に入った冒険者達だろうな」


「そういう場合はどうすんの?無視?」


「危ないようなら助ける。余裕なら素通りだ」


「魔獣の横取りは基本マナー違反だからな」


 ダンジョンに入って幾つかの分かれ道を進んでいると少し広めの部屋で三人組の冒険者が魔獣と戦っていた。少し苦戦中に見える。


「アレはダンジョンフロッグとダンジョンバットね。どっちも大した強さじゃないけど…ちょっと数が多いわね」


 冒険者三人組に対してダンジョンフロッグが三匹。ダンジョンバットが二匹。

相手の方が数が多く、ダンジョンバットは飛んでいる為、上と下からの攻撃で苦戦してるみたい。

大きさはダンジョンフロッグが大型犬くらいでダンジョンバットが普通のコウモリより一回り大きい程度。


「どうする?」


「助けた方がいいかもな。おーい!手助けは必要か!」


「あ、た、頼むよ!」


「手を貸してくれ!」


 三人組の冒険者はジュンと変わらないくらいの年齢の少年二人と少女一人。

剣士が一人、槍使いが一人。少女は魔法使いみたいだ。

少女が囲まれないようにするので精一杯らしい。


「よし来た!任せろ!今すぐに…」


「ボクがやるよ」


「え?あ、ちょ!」


 この程度の魔獣なら素手でも余裕だけど…あんまし触りたくないから普通に剣で。

…でもあまり剣を汚したくも無いし、此処はスキル「飛燕剣」で。


「お、おお!すっげぇ…」


「今の剣術LV5で覚える『飛燕剣』だよな?」


「凄い…私達と変わらない年頃なのに」


 ふっ、少年少女よ。よく見ておきなさい。

これが剣帝の技というものだよ。


「…俺らの出番無かったな」


「お前、魔帝のくせに剣もすげえとか…どうなってんだ?」


「努力したんだよ」


 普通とは違う超高効率の努力だけど。

ま、それはそれとして。


「大丈夫か?」


「あ、ああ、うん」


「ありがとな…助かったよ」


「……」


 三人の内、少年二人は礼を述べて少女は頭を下げるだけ。

可愛くて明るそうな子に見えるけど、無愛想なのか?


「君達、三人で此処に来るのは少し無茶なんじゃないか?」


「どうも実力が足りてないようだが?見たとこ冒険者になったばかりだろ?」


「うん…俺達、この近くの村の出身でさ。一月前に冒険者になったばりなんだ」


「それでダンジョンに挑戦するのは無謀よ?せめてもう少し実力をつけるか仲間を増やすかしないと」


「…そう、だな。悔しいけど、出直すよ」


「それがいい。死んだら何にもならんしな。入口まで送ろうか?」


「いや、いいよ。大丈夫。今日の借りはいつか返すよ」


「俺達『女神の使徒』ってパーティーなんだ。いつか必ず超有名な冒険者パーティーになっから!覚えててくれよな!」


「……」


 そう言って少年達は帰って行った。

冒険者パーティー『女神の使徒』ねぇ…随分と御立派なパーティー名だこと。


「それにしても、どうしてあの子達が新人冒険者だってわかった?実力が足りてないのは見てわかるけど」


「そりゃどうみてもガキだったからな。ジュンと変わらないくらいの」


「冒険者登録は十二歳からだし。あの子達は年相応の見た目だったしな」


「あの子…」


「ん?どうかしたかい、ノルンちゃん」


「いえ、先に進みましょう」


 …何だ?ノルンは何かあの子達に思う所があるのか?

少し気になる表情をしていた。


 その表情の意味を知るのは少し後の事になる。

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