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第117話 「そういう事でしたか」

「…以上です」


「…そういう事でしたか」


 ユフィールさんの母君、モナ様に入れ替わりの現状を説明した。


 ボクとアイシスさん、ユフィールさんの三人で精神が入れ替わった事。


 ユフィールさんの隠れアビリティがマインドリンクだった事。


 マインドリンクの御蔭でユフィールさんと会話が出来る事。


 以上を説明した。

ボクとアイシスさんのLVやステータス、称号については勿論隠したままだ。


「娘がご迷惑をかけましたね。それにいきなり殴りかかったりして…心より謝罪いたします」


「あ、はい…確かにあの攻撃には驚きました」


「貴方が何者であったとしても、一撃入れてこちらに優位な状況を作るべき…そう考えていましたので。結果から見れば、避けてくれて助かりました」


 …それはちょっと迂闊に過ぎる行動だと思います。

これがもし、本当に誘拐事件とかだったらボクへの攻撃はユフィールさんを危険にするのに。


「それにしても、よくお解りになりましたね。確かに精神は他人ですが、肉体はユフィールさんの物で間違い無いのに。実際、他の御家族は気付いて無かったですし」


「御義父様も息子達も、ユフィールを盲目的に愛していますから…当然、主人も。私も貴方が魔法を使わなければ気付かなかったかもしれません」


「…そこまで溺愛してて、よくボクと仲良くするように、なんて言えましたね」


「貴族として生まれた以上、その婚姻は家の利益になる婚姻で然るべき。とはいえ、ユフィールの想いは聞いてましたから。ジュン・グラウバーンであれば婚姻相手として申し分ない。と、主人に丁寧に話して、納得させました。それでもまぁ、色々とごねてましたが」


「そうですか…あ、もしかして武芸大会に…」


「勿論、応援に行っていました。ユフィールが泣きながら走り去る姿は皆が目撃していますよ」


「……」


 ですよね……これは拙い。

決して間違った事を言ったつもりは無いが、ユフィールさんを泣かせたのは事実。


 こんな事でロックハート公爵家と敵対なんてしたくはないのだが…


「御心配無く。今回は何もしない事になってますから」


「…何もしない?」


「はい。私達は最初、言い争いをしている白天騎士団…剣帝殿に何かされたのかと思い、白天騎士団に抗議する予定でしたが、ユフィールから話を聞けば、ジュン様に叱られたとの事。ユフィールを案じての叱咤のようですし、今回は不問という事に」


「…そうですか」


 溺愛していても、冷静な思考も残っているようで良かったです。


 いや、ほんと。

こんな事で公爵家同士で抗争に発展とか、堪ったもんじゃない。


「ですが」


「はい?」


「あんなに大勢の前でキスしたという事実は忘れないで下さいね。ウフフフフフフフフフフフ」


「…アハハハハハハハハ」


「ウフフフフフフフフ」


 ボクからしたわけじゃなくてユフィールさんからしたのは問題じゃなく、キスしたという事実だけで押し切るつもりだろうか。


 笑顔に物凄い圧を感じる…やだ、怖い。


[…ジュン。まだ?]


[あ。すみません、お待たせして]


 アレからもう一時間以上経過してる。

もうすぐ夜が明ける時間だな。


「…ジュン様?」


「少しユフィールさんと会話します。時間をください」


「…あぁ、精神が繋がっていて、心で会話が出来るのでしたね。わかりました。では、私はその間に御茶を用意しましょう」


 モナ様は一時退室。

その間にユフィールさんに状況を説明…する前に。

アイシスさんに起きてもらって現状を把握してもらわないと。


[アイシスさん、そろそろ起きてください]


[…アイシス?やっぱりあいつとも繋がってるんだ]


 …ん?アイシスさんに語り掛けたのにユフィールさんに聞こえてる?


 心での会話は三人同時になると言う事か。

今回は説明が一度で済むから都合が良いか。


[アイシスさん、アイシスさん。起きてくださいってば]


[…んー?誰だ、さっきから耳元で会話してるのは…]


[やっと起きましたか。そのまま聞いてくださいね]


 現状を二人に説明する。

ユフィールさんの父君、ロックハート公爵が命を狙われた事も含めて、だ。


[という訳です。理解出来ましたか?]


[…うん。鏡見た時に立てた推測と大体同じ]


[うーん…もしかしてジュンとキスしたら問答無用で入れ替わるのかな。あの時、アビリティリンクは使ったつもりは無いんだけど]


 それはボクも同じだ。

キスだけじゃなく、キスの後に眠る事も条件のようだが。


[それよりも今は速やかに合流する事を考えましょう。二人とも、ロックハート公爵邸に来てもらえますか。ユフィールさんはティータさんに協力してもらってください]


[なんでロックハート公爵邸?グラウバーン公爵邸の方が都合良くない?]


[先程説明した通り、ロックハート公爵は何者かに狙われています。迂闊に離れるべきでは無いでしょう]


 今回、ロックハート公爵が助かったのは運が良かっただけだ。


 暗殺が失敗したとなれば次の手を打って来る可能性もある。


 警戒体制が整うまでは離れない方が良いだろう。


[でもさ。私、ロックハート公爵邸の場所、知らないんだけど]


[……王城でユフィールさんと合流してから来てください]


[えー…仕方ないな]


[…わたしだって嫌。でも仕方ない]


 そこで会話は一旦打ち切り。

丁度、御茶の用意を終えたモナ様が戻って来た。


「お話は終わりましたか?」


「はい。アイシスさんとユフィールさんには此処に来てもらいます。二人が来たら通すようにお願いします」


「承知致しました。……」


「…?」


 モナ様が見つめて来る。

何処か探るような眼だ。だが同時に、慈しむような…何だろう?


「あの…何か?」


「あ、いえ、失礼しました。何でもありませんよ」


「そう、ですか?…では、いくつかお伺いしたいのですが」


「はい。私で答えられる物なら」


「公爵様暗殺の件です。犯人に心当たりは?」


「ありません。いえ、あり過ぎて誰だかわからない、というのが正しいでしょうか」


「…ロックハート公爵様は、そんなに恨みを買っていたのですか?」


「恨みが理由とは限りません。ジュン様も古く歴史有る貴族家の者ならばわかると思いますが、権力者とは例え万人に愛される名君であっても命を狙われる者。一概に誰だとは言えません」


 …しかし、それでも絞り込む事くらい出来ると思うのだけど。


「ですが今、この時期となれば…やはり王位継承問題でしょうか」


「ロックハート家は第一王女派の筆頭でしたね。なら、他の派閥の貴族から狙われたと?」


「はい。もしくは一番上の存在から…でしょうか」


 一番上…他の公爵家か。

いや…言葉を濁した事を考えると…王族が命令した可能性も考慮しているのか。


 でも…それは考え難い。

ロックハート公爵家は第一王女派。

故に王族が命令したのなら、エディ殿下かジョゼ殿下になる。


 が、ジョゼ殿下はまだ九歳の子供だし、エディ殿下は暗殺なんて手段を取る人物には見えなかった。


 ボクの眼が節穴だという可能性は大いにあるけど、エディ殿下かジョゼ殿下のどちらか、ではなくマクスウェル公爵かニューゲイト公爵のどちらか、の方が可能性は高いのでは無いだろうか。


「他に何か?」


「はい。何故、ユフィールさんにボクと仲良くするように言ったのです?」


「…先程も言ったように、娘が貴方に好意を持っていたからです」


「それだけじゃありませんよね?」


「…と、おっしゃいますと?」


「ユフィールさんが本当はボクに好意を持ってるかは、この際横において。ユフィールさんを使うには少々遅いですよね。マクスウェル公爵なんて終戦記念パーティーの日には動いてましたし」


「…そのマクスウェル公爵の娘ですよ」


「はい?」


「マクスウェル公爵の娘…セーラ様がジュン様の同級生の貴族令嬢を纏めて、グラウバーン家に居候しているのは知っています。その中に、ロックハート公爵家傘下の貴族令嬢が居るのです」


 ああ…そうか。

確かに、あの中には第一王女派の貴族家の令嬢も居た。

第二王子派の貴族令嬢も居たし。


「一見すれば、上手くお近付きになれたとも言えます。ですが見方を変えればそれ以上は踏み込めない。お互いに監視しあって抜け駆け出来ない状況になってしまっている。それがセーラ様の狙いだったのか誤算だったのかは図りかねますが」


 うーん…どっちだろう。

セーラさんて、ドジなとこもあるし腹黒いとこもあるしなぁ。


 最近はノルンと仲良くなろうとしてるみたいだし。


「王位継承問題を抜きにしても、魔帝殿との婚姻は利になる。ユフィールも好意を持っているのだからユフィールとの婚約を進めようと、主人や御義父様には何度も進言して…折れたのが最近なのです」


「そうですか…ですが婚約の申入れはまだですよね?」


「ええ。ですがもう必要ありませんよね?」


「え?」


「こうしてユフィールが好意を持っていると知ったわけですし。無理矢理とはいえ人前でキスまでしたわけですから」


「…責任を取れ、と?ですがさっきは不問にすると…」


「アレはユフィールを泣かせた件のみです。キスはまた別問題ですよ」


 …そう来ましたか。

どーしたものかなー…

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