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076 探検者達 1

戦闘です。一応、残酷な描写あり、です。ご注意を。

 ナザールの里の東、放牧場から続く山地を越えた場所。


 里とは反対側の(ふもと)近くは今、暖かな昼下がりの日差しに照らされていた。とは言え、山間地の日暮れは早い。西側に山が迫るこの場所では、もうじき太陽が山の陰に隠れてしまうだろう。


「グルルルル」


 そんな山の麓の木が少しまばらになった林の外れで、五人の一行は一頭の大きなオオカミとにらみ合っていた。艶やかな灰色の毛並みのそのオオカミは、太い尾を除いても大の男が四つんばいになった姿より大きいだろう。オオカミは喉の奥から唸り声を漏らしながら、一行の先頭に立つ男を見据えていた。


 対するその男、バルトランド――通称バルト――の短めに刈り揃えられた金髪の間を伝って、額から眉に向けて一筋の汗が流れ落ちる。バルトは、背中に背負ったいつもの両手持ちの大剣ではなく、厚めの革が巻きつけられた棍棒を握った右手をゆっくりと持ち上げて、革の手袋の甲でその汗を拭った。眼前の敵を見据えていた視線が、自らの手にした武器によってわずかに遮られる。


「ガアアッ!」


 その一瞬の隙を突いて、生い茂る草をザザッと身体でかき分けたオオカミが声を上げて突っ込んでくる。予想通りの反応に内心ほくそ笑んだバルトは、左腕で支えた丸い大盾を半身に構えた身体の前に滑り込ませ、腰を落として右足をわずかに引いた。もちろん、その金色の瞳は再び盾越しにオオカミを捉えている。


「ぐっ」


 ガツン、とオオカミの鋭い牙を盾が受け止め、木の盾の表面に貼られた分厚い革の一部が音を立てて削り取られる。バルトは右足を柔らかい林の地面にめり込ませ、身体ごとわずかに押し込まれたが、なんとか倒れずに踏み止まった。


 突撃を正面から受け止められて一瞬動きを止めたオオカミの左前足に、バルトはお返しとばかりに右手の棍棒を叩き込む。


「ふんっ!」


「ギャンッ」


 悲鳴を上げてたたらを踏むオオカミに向かって、今度はバルトの左後ろに控えていたトルステンがバルトの物と同じ作りの盾を掲げ、一くくりに束ねた茶色の髪をなびかせて突っ込んでいく。盾に押し込まれ、オオカミは反射的に四肢を踏ん張った。


 その踏ん張った右前足に向けて、トルステンが握ったバルトと同じ棍棒の一撃が繰り出される。


「うらあっ!」


「ガァッ」


 ゴキリ、と嫌な響きを上げた足をかばって数歩下がったオオカミは、怒りに満ちた目をバルト達に向けた。


緑の拘束(グリーンバインド)!」


 すかさず、右手をそちらに向けたまま後列で様子を見ていたカリーネが、緑の髪を揺らして魔法を発動させる。緑色のツタのような物が周囲の草の中からオオカミに向かって、飛ぶように一直線に伸びていく。それは、傷つけられた足のせいで飛び退くことができなかったオオカミの後ろ足に絡み付いた。


「入った! サンドラ!」


氷の拘束(アイスバインド)!」


 状況を見たバルトの叫びに応えて、今度はカリーナと同じく後列にいた青い髪のサンドラから魔法が飛んだ。緑の拘束(グリーンバインド)によって地面に縫いとめられたオオカミの足元から氷が這い上がり、前足から肩にかけて氷で固められていく。


「ガアァッ」


 オオカミは逃れようともがいていたが、じきに身体の大部分を氷に覆われて首を振り回すだけになった。それを見届けた二人の男は、構えていた盾と棍棒を下ろすと息を吐き出して顔を見合わせた。


「バルトの番、だったよね?」


 トルステン――茶色い髪の方――は棍棒を左の腋に挟むと、空になった右手で左腰に下げた長剣の柄をポンポンと叩いた後、その手を上げてオオカミの方を示した。


「そうだな」


 バルトは金色の眉を片方だけちょっと上げてからそう答えると、盾と棍棒を足元の地面に置いて、背負った大剣の柄に右手を掛けた。親指で留め金を弾いて柄を少し持ち上げる。すると、鞘の先に引っ掛かっていた切っ先が外れて、鋼の色に輝く刀身が鞘の()からズラリと現れた。


 刃渡り一メートル以上、柄の長さだけでも五十センチ近い大剣を軽々と持ち上げながら、バルトは歩を進める。入れ替わりに下がったトルステンは、後列二人の前で短剣を構えていた赤毛のミカエラの隣に並ぶと、注意深く周りを見渡しながら改めて盾と棍棒を構えた。


 バルトは、唸りながら首を振り回すオオカミの横に立った。


「すまんが、里の方に向かうお前らを減らすのも俺達の役割の一つなんでな」


 それだけ言うと大剣を大上段に構え、一気に振り下ろした。


 迷いの無い鋼の輝きが一筋走り、オオカミの首が宙を飛ぶ。


 ゴトリ、と重い音を立ててそれが地面に落ちた時、思い出したように胴体から血飛沫(ちしぶき)が吹き上がった。


 ◇


「「解除(リリース)」」


 血が流れきるのを待って、カリーネとサンドラは各々が掛けた魔法を解除する。支えを失ったオオカミの身体は、ドサリとその場に崩れ落ちた。


「この大きさのオオカミ一匹、やっつけるだけでいいんなら、もうちょっと楽に済むのにねえ」


「それは仕方がないよ、ミカ。一番使いでがある毛皮を、そう簡単にボロボロにする訳にはいかないんだからね」


「分かってるわよう」


 結果的に出番の無かったミカエラがこぼす愚痴に、トルステンが応じる。革を巻いた棍棒も革張りの盾も、そのための装備なのである。


「さて、明るいうちに例の洞窟まで戻るんだろう? さっさと解体を済ませよう。誰が何やるんだ?」


「じゃあ、はい。あたしが解体(バラ)してもいいかな? いつまでもバルトの方がうまいっていうのもなんかシャクだし」


 皆に話を振ったバルトに、ミカエラが勢いよく手を挙げた。


「気にするようなことでもないと思うんだが……、まあいいか」


 ミカエラの食いつき様にバルトは目を瞬かせた。


「うう、ボクは皮はぎ苦手だから、穴掘ってる方がいいかなあ」


「サンちゃんはもうちょっとできるようになった方がいいと、私は思うわよ」


「カーさん……。うーん、やっぱり?」


 逃げ腰のサンドラをカリーネがたしなめる。


 皮や肉といった必要な部分を切り分ける者。骨や一部の内臓などの要らない部分を埋めるための穴を掘る者。周囲の警戒に当たる者。


 所々に金属板の補強が入った革の装備を着けた、皆せいぜい二十歳くらいにしか見えない男女五人組は、ワイワイ言い合いながら役割分担を決めていった。

マリコ自身の戦闘はまだ少し先になりそうなので、探検者達の華麗な戦闘をと思ったのですが、このようなことに(汗)。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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