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新世界のメイド(仮)さんと女神様  作者: あい えうお
第二章 メイド(仮)さんの一日
51/502

051 猫耳メイドさんと 6 ★

2015/03/27 繋がりの変な所などを若干修正追記しました。

「それでは、私が勝った場合の褒賞は、ミランダさんの耳としっぽを思う存分撫でさせてもらう、ということでよろしいですね」


「あ、ああ、マリコ殿がそれでいいなら問題ない」


 ミランダはマリコに答えながらも、そんなものが褒賞になり得るのかと疑問に思った。ミランダの生まれ育ったアニマの国には、この猫のような耳としっぽを持つ者が大勢いた。そもそも、転移門が使われるようになるまでは全員がそうだったのだ。風と月の女神様から受け継いだとされるその姿を誇りに思う者は多かったが、彼らにとって耳としっぽはあるのが普通であり、それがあること自体がかわいいという感覚がミランダにはピンとこなかったのである。


(ミランダさんが言ったとおり、褒賞があると士気が上がるというのは本当なんだな)


 一方のマリコは、この約束が自分の士気を確かに引き上げていることを自覚していた。痛みへの慣れをどうするか、という問題を忘れてしまったわけではなかったが、それ以上に気になることがマリコの心を占めていった。


(勝てば、あの赤トラの耳を、しっぽを、思うさま……)


「それでは、今度こそ勝負だ。マリコ殿」


 二人はまた少し距離を取って向かい合い、ミランダは改めてマリコを見た。先ほどまでの、戦うことに対して消極的であるように思えたマリコの雰囲気は一変していた。元々少し上がり気味だった口角はさらに上がり、紫の瞳は笑みを浮かべてこそいるものの、獲物を窺う肉食獣のような色をたたえている。ミランダは一瞬、自分が取って食われるのではないかという錯覚にとらわれた。


 そのミランダが見せた恐れが、マリコを辛うじて我に返らせた。マリコは息を吐くと軽く首を振る。


挿絵(By みてみん)


(何を耳としっぽに釣られて考えなしに戦おうとしてるんだ、私は。考えろ。防御力があれだったんだ、攻撃の時にも当然何か補正が掛かるはずだろう)


 マリコは「マリコ」が持っていたスキルのうち、どれがダメージを底上げする効果を持つものだったかを思い出しながら考える。木刀を武器として使った場合にどういう結果になるかを、先ほどミランダの攻撃を受けていた時と比較して予想していった。


(本気で当ててしまったらミランダさんに大怪我をさせるじゃないか。どうするのがいいんだ)


 ミランダはよく分からない危機感が去ったことで、マリコの様子がまた変わったことに気が付いた。感じていた殺気のようなものは鳴りを潜め、今度は一所懸命何かを考えているように見える。やがて、マリコが顔を上げたのでミランダは口を開いた。


「始めようマリコ殿」


「ふう、分かりました」


 再び、立会いが始まった。二人のメイドさんが近づいては離れ、離れては近づき、近づく度に木刀同士のぶつかり合う音が響き渡る。さっきまでと同じように、ミランダが攻め、マリコが受ける。


 ただし、先ほどと違うところは、ミランダの木刀がマリコの身体をまだ一度もとらえていないことだ。ミランダはどんどん速度を上げて本気で打ちかかっていった。それでもマリコをとらえられない。


「攻めて来られよ、マリコ殿!」


「これでいいんです!」


 焦りをにじませたミランダの声にマリコの落ち着いた声が答える。


 何度目の攻防であっただろうか。


 袈裟懸けに振り下ろされるミランダの木刀を、逆袈裟に繰り出されるマリコの木刀が迎えうつ。木刀同士が触れ合う瞬間、マリコは下から掬い上げるようにミランダの木刀を巻き取って跳ね上げた。


 ミランダの手からもぎ取られた木刀が宙に舞う。


 からん、と木刀が地に落ちる乾いた音を聞きながら、ミランダは呆然と己の手を見つめた。それまで普通に打ち合っていた硬いはずのマリコの木刀が、あの瞬間だけ柔らかくなり、蛇のように巻きついて自分の木刀を持っていった。ミランダにはそうとしか思えなかった。


「い、今のはどうなったんだ、マリコ殿」


「手首の返しで木刀を巻き取りました」


「も、もう一度お願いしたい」


挿絵(By みてみん)


 ミランダは空の右手をもう一度見つめ、ギュッと拳を握りしめた。


「はい」


 ◇


 その後、何度繰り返しても結果は同じだった。数合のうちにミランダの木刀は巻き取られて宙を舞う。むしろ、回数を重ねるごとに持って行かれるまでの時間は短くなっていった。そしてとうとう、ミランダは荒い息をつくだけで、打ち込むことそのものができなくなってしまった。


「ミランダさんが速いので、慣れるのに時間が掛かってしまいました」


「はあっ、はあっ。いったい、どうやったらあんなことになるんだ」


「ええと、ミランダさんの振りと勢いを合わせて、弾いてしまわないように加減しながら木刀を受け止めて巻き取るんです」


 何でもない事のように言うマリコの言葉をミランダは呆れながら聞いた。


「どうして私に直接打ち込まなかった。それで終わりであったろう」


「いえ、打ち込んだらミランダさん、怪我するかもしれないじゃないですか」


 怪我をさせずに勝つにはどうすればいいか考えたのだというマリコに、ミランダはがくりと膝をついた。

誤字脱字などありましたら、ご指摘くださると幸いです。

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